第62話 糸と付与
街道沿いの森の中を糸を使って移動して行く。ヴァイスがいるので魔物の位置がまるわかりなので助かる。
『エディよ、この先にまた魔物の匂いだ』
「了解!」
6メートルぐらいの大きな蛇だった、さっき倒した蛇の魔物とは違う蛇みたいだけど。森に入ってから蛇ばっかりを相手にしているな。
「鋼糸!」
鋼糸と言っているが、使っている金属は炭化タングステン。現在使える金属の糸で最も重く硬いので破壊力は抜群だ。
蛇の頭を突き刺して倒す。さっき倒したローグヴァイパーという蛇よりは強そうだったが、相手が気がつくより早く仕留める。
「さっきのより強そうだったけど、ヴァイスのおかげで楽勝だったね」
『そうだろう、我は役に立つのだ。ところで、その蛇も食べないのか?』
「毒を持ってるからね。蛇の毒はタンパク質だから熱に弱いっていうけど、この世界の蛇は分からないから無理して食べなくてもいいんじゃない?」
『そうか、それは残念だ』
頭を落として穴に血を捨てながら、魔石を回収する。どうやら蛇系の魔物は頭に魔石があるようだ。
次に素材になるのは牙と皮なので、皮を剥いでいく。蛇が大きいのでこれだけでも大変なのだが、なんとか皮を剥ぐことができた。
解体した素材は収納リングに入れて、魔石だけを取り込んでみる。
【能力】糸(Lv4)
【登録】麻、綿、毛、絹
【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル
【特殊】元素、スライム、ジャイアントスパイダー▼、蔓、グラウプニル(使用不可)
【付与】毒《New》▼
【媒染剤】鉄、銅、アルミ、ミョウバン
【魔物素材】ホーンラビットの角(18)、ダウン(3)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【作成可能色】24色▼
【解析中】無
【付与】という項目が追加になったのだ。今倒した蛇を取り込む前は。
【付与】毒となっていたのだが、種類が増えたのことにより▼マークに変化したので中身を確認する。
【毒】ローグヴァイパー(麻痺毒)、キラータイパン(神経毒)
神経毒怖っ! さっきの蛇はキラータイパンっていうのか。そういえば、地球のインランドタイパンって蛇はマムシの800倍もの毒性があるらしい。咬まれて放置していると30分から45分で死に至るとか、キラータイパンという名前だけに、もっとヤバいヤツだったのかもしれないな。
それにしても、色々増えた能力をまだ使いこなせていないのに、また謎の項目が増えたようだ。
もう少し親切なガイドやナビ的なやつが欲しいところなんだけど、そう甘くは無いようだ。レベルアップすら教えてくれないもんな。ってそういえばレベル確認してない!
思い出したので確認してみる。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】16
【HP】530
【MP】1220
【ATK】420
【DEF】420
【INT】800
【AGL】530
【能力】糸(Lv4)▼、魔(雷、氷)
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス
いつの間にか3つも上がってた! 全て数値が400オーバーって人族の一般平均値を超えちゃったけど、まだレベル16なんだよな。
『エディよ、能力はパワーアップしていたか?』
「うん、キラータイパンの神経毒が追加されてたけど、新しく追加された付与の使い方も分からないんだよね」
『いつも攻撃に使っている金属の糸ではなくて……そうだな蔓とかはどうだ? あれはエンシェントトレントの蔓だから魔物に突き刺さるだろ』
「なるほど! 魔物系はまだ試してなかったね。近くに魔物はいないかな?」
『そうだな、少し先に弱い匂いを感じるぞ』
「行ってみよう!」
少し先に行くと、ヴァイスの言う通り魔物がいた。
「随分と大きな猪だけど、アレ弱いの?」
木の上から見下ろした先には、体長3メートルぐらいの猪が寝ているのが見える。
『アレぐらいエディの敵ではないだろう』
「そうなの? ヴァイスが言うのならそうなのかな」
蔓の中からキラータイパンの毒が出るイメージをして、大きなボアの顔に突き刺さす。
攻撃されて怒ったボアが立ち上がろうとするが、そのまま倒れてしまった。
「あれっ? 効いたのかな?」
『うむ、死んでおるな』
「あれだけで?」
『かなり強力な毒のようだな』
「あの大きさの魔物が秒殺なんて、どんだけ強力なんだ……」
『エディよ! アレは美味そうだぞ! 今度こそ絶対に食べるのだ!』
「でも毒で倒しちゃったんだけど」
『絶対に大丈夫だ! さっきの蛇もおそらく大丈夫だぞ。我の勘がそう言っておる』
蛇をスルーしたのは、美味しそうな匂いじゃなかっただけか。
「分かったよ。川の匂いはするかな?」
『もう少し奥だな』
取りあえず大きなボアをリングに収納して川に向かう。
解体作業に入ろう。頭を落として川に浸けて血抜きする。大きな魔物を解体するのに、大きな魔物も軽々持ち上げることができるエンシェントトレントの蔓はとても役に立つ。
血抜きを待っている間に肉を焼く準備をしよう。火を起こし、以前作った厚さ6ミリの鉄板を出して熱しておく。
ステーキ以外にも何か作りたいので鍋も出す。
血抜きの終わったボアを解体して、厚めと薄めに切る。麦飯も用意しつつ鍋で薄く切ったボアを焼き、玉ねぎ、醤油、蜂蜜酒、砂糖などを加えて、なんちゃってすき焼きを作る。それを、麦飯の上にかけて、すき焼き風ボア丼の完成だ。
厚めに切った肉を鉄板で焼いて、塩コショウしてシンプルなステーキを作る。隣を見るとヴァイスの涎が凄いことになっていた。
「ボアのステーキとボア丼の完成だよ!」
『我はもう我慢できん! 食べるぞ!』
ヴァイスはそう告げると、ウマウマ言いながら一心不乱に食べ始める。
僕も食べよう、まずはステーキからだ。よく猪の肉は癖があるというけど、これは食べやすいな、オーク肉より身は締まっているが、硬すぎずちょうど良い噛み応えで噛めば噛むほど旨味が溢れ出てくる。オークキングには勝てないが、普通のオークよりこっちの方が好きだな。
次はボア丼だ。すき焼き風の味付けにしたのは正解だな。ボアの旨味を何倍にも感じる、麦飯との相性もバッチリだ。
僕が食べ終わる頃にはヴァイスはまた涎を垂らして待っていて、結局ヴァイスのおかわりを3回作った。
「凄く美味しかったね!」
「我はしばらく動けんぞ」
お腹がヤバいぐらいに膨れあがったヴァイスが答える。
「じゃあ今日はここで泊まることにして、僕は能力を試してみるね」
まずはジャイアントスパイダーの糸やスライムの糸に毒を付与してみる。ジャイアントスパイダーの糸はダメだったが、スライムの糸は付与できるようだ。スライムの糸では傷もつけられないけどね。
金属の糸ではやはりだめなようで全滅だった。ミスリルの糸には期待してただけに非常に残念だ。ミスリルの糸を見ているとヴァイスが質問してくる。
『エディよ、今持っている金属は魔法を通しやすいんじゃないか?』
「そうだよ。よく分かったね」
『ならば魔法と組み合わせんのか?』
「魔法と?」
「そうだ、せっかく魔法を覚えたのだから、組み合わせたらおもしろいと思わぬか?」
「組み合わせられたら凄いね! 早速試してみるよ!」
どうやってやるんだろう。まずはミスリルの糸を木に巻き付けて、雷の魔法を軽く流してみると。
パチンッ!
雷の魔法は問題なく流れたみたいで、木の幹が弾けた。
「できた!」
『凄いではないか!』
「ヴァイスのアドバイスのおかげだね! また何か気がついたら教えてね!」
『フハハハハハ、我に任せておくがよい!』
次に火の魔法を流してみると、木に巻き付いている部分から炎が上がった。すぐに水の魔法で消火したけど。
水の魔法は接触部分がじんわりと濡れるだけで、勢いよく水が出ることはなかった。
土の魔法は全く変化が起こらず、変化が現れたのは氷魔法だった。氷魔法を流した途端、接触部から木が凍って氷の木になってしまった。
「使えそうなのは雷属性、火属性、氷属性ってところで、やっぱり得意属性の雷と氷は効果が桁違いかな」
『風属性は試していないのではないか?』
「本当だね! 忘れてたよ」
木に糸を巻き付けて風属性の魔法を流すが特に変化は起きない。
『エディよ、風を吹かせるだけが風属性ではなかろうが』
なるほど、風属性の魔法って火を起こす時ぐらいしか使ってなかったからな……ウィンドカッター的なやつならいけるのかな?
糸にウィンドカッターを使うイメージで魔法を流す。
スパンッ! 木は糸の接触部から綺麗に切れて木が倒れる。
「……」
『凄いではないか!』
「憧れのファンタジー的、糸の使い方じゃん! ヴァイス凄い! 超天才!」
『フハハハハハ! もっと褒めよ! 讃えよ! ひれ伏せよ!』
「いや、ひれ伏すのは違うだろ」
この後、色々検証した結果。
・ミスリルは発動するしないにしても、魔法自体は全て流れる。
・その他の金属は特性通りの雷、火、氷は流れる。ただし、融点の低い金属は溶けてしまうので切れてしまう。
・普通の糸やジャイアントスパイダーの糸は流れない。
・グラウプニルもミスリルと同じ結果。
スライムの糸だけは他と特性が異なり、火や風は全く流れずに氷や土属性は全体的に固まり、水属性に限っては糸の任意の場所から流すことができた。
ヴァイスの思いつきにより、糸の能力が飛躍的に向上したのであった。




