第61話 北へ
昨日は久しぶりに和食を堪能できたのだが、どうにかしてこの世界に様々な調味料を普及させないとダメだな。
最終的にはどこでも美味しい料理が食べられるようにするのを当面の目標としよう。
料理の後、宿に戻って能力の金属を1つ追加したが、レベルアップはしなかった。
【能力】糸(Lv4)
【登録】麻、綿、毛、絹
【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル
【特殊】元素、スライム、ジャイアントスパイダー▼、蔓、グラウプニル(使用不可)
【媒染剤】鉄、銅、アルミ、ミョウバン
【魔物素材】ホーンラビットの角(18)、ダウン(3)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【作成可能色】24色▼
【解析中】無
元素シリーズのマグネシウムを追加してみた。マグネシウムはアルミより軽い金属なので、そのうち何かに使えるかもしれないだろう。種類を増やすより、やはり合成をもっと使いこなさないとレベルアップしないのかもしれないな。
それと【形状】布の項目が1つ増えたのだ。
【布】平織り、綾織り、繻子織り、刺し子織り
この刺し子織りだが、アキラさんが着ていた道着のような服の織り方らしい。アキラさんに端切れがないか聞いたところ、破れて着られなくなったものがあったので、それを裁断して登録したのだ。
今日で宿の契約が終わりなので、受付で挨拶をしようとしたら、支配人のソントーンさんがいたので挨拶する。
「ソントーンさん、3日間お世話になりました」
「王都は満喫できましたでしょうか?」
「はい、とても楽しめました。まだ見てない所はたくさんあるので、また次に来た時にはお世話になりますね」
「心よりお待ちしております」
次にセリーヌさんのお店に顔を出す。店の前に豪華な馬車が止まっているな、お客さんだろうか。
「セリーヌさんいますか?」
「あら、エディ君いらっしゃい。お客様の対応をしてるから、少し待ってもらえるかしら?」
「いいですよ」
奥でセリーヌさんがお客さんと会話しているようなので、しばらく店の中を見て回っていると、セリーヌさんと会話していたお客さんが2人、出口に向かって歩いてくる。
1人は女性の騎士のようで、かなりの美人さんだが、強そうな雰囲気を纏っていた。
もう1人はフードを深く被っていて顔はよく見えないが、背格好が僕と同じぐらいなので、歳が近い女の子なのかもしれない。
フードを被った女の子が僕の前で足を止め、じっと僕を見ている。
「えっと、何か?」
「えっ? 失礼、何でもないわ」
そう言って店を出て行き、外に停めてあった馬車に乗り込み帰って行った。
「エディ君ごめんなさい。お客様がいらっしゃってたから」
「大丈夫ですよ。出発の挨拶に来ただけなので」
「えっ、もう出発しちゃうの?」
「ええ、確認だけはできるだけ早くしておきたいので」
「そうよね。でも美味しい料理がもう食べられないかと思うとね……」
寂しいのはそっちかい!
「次に来るときにはもっと美味しい料理が作れるようにしておきますね、アキラさんたちのこと、よろしくお願いします」
「了解よ。任せておきなさい」
「あとお願いがあるのですが、これを見てもらえますか?」
セリーヌさんに刺し子織りで作った布をみせる。
「あら変わった生地ね。凄く丈夫だけど、なんて織り方なの?」
「刺し子織りっていうらしいんですよ。アキラさんが着ていた服の織り方らしいです」
「へぇ、そうなのね」
「アキラさんたちが元々着ていた服が結構傷んでたので、時間がある時でいいので同じようなものを作ってもらえないかと思いまして」
「おもしろそうだからいいわよ。参考になる服はアキラさんが持っているのね?」
「はい、今は目立たない格好がいいですけど、僕と旅立つ時は元の形に近いものを着て欲しいので助かります」
「新しい生地には興味があるから気にしないでいいわ」
「それから、アキラさんにも渡しておきますが、念のためこのお金を一応預かってもらってもいいですか?」
金貨の入った小袋をセリーヌさんに渡す。
「分かったわって、金貨が20枚も入ってるじゃない!」
「アキラさんには金貨2枚分を銀貨で渡しておくので念のためにと思って」
「余程のことがない限り、それで大丈夫だと思うけど、一応預かっておくわね」
「お願いします。それではアキラさんのところに寄ってから出発しますので、お元気で」
セリーヌさんから借りている家に行くと、アキラさんとツムギちゃんが出迎えてくれた。
「アキラさん、おはようございます」
「エディ殿、おはようございます」
「エディ様、おはようございます」
アキラさんたちは早速味噌と醤油づくりを始めるらしく、樽を洗ったりと準備している最中だった。
「朝から精が出ますね」
「エディ殿の作った料理で目が覚めました。ミソやショウユには無限の可能性があるのですね!」
「えっ⁉ どういう事ですか?」
話を聞いて分かったのだが、アキラさんがいたアシハラ国では、醤油はかけるだけで味噌も溶かして味噌汁にするぐらいの使い方しかやらないらしい。
「味噌と醤油についてはお任せしますね。あとこれが当面の生活費なので持っていてくださいね」
アキラさんにお金が入った小袋を渡す。
「かなり多いようですが?」
「金貨2枚分の銀貨400枚入ってますので、普通に生活するなら1年は大丈夫だと思いますよ」
「「銀貨400枚!」」
「一応、セリーヌさんにも少し預けてあるので、足りない場合には相談してみてくださいね」
「何から何までかたじけない」
「僕にとっては味噌と醬油がそれほどの価値があるだけなので、気にしなくていいですよ。それでは行ってきますね!」
「「道中お気をつけて!」」
アキラさんたちと別れた僕は、王都ヘイレムの北門を出て、イーリス街道を使いヴァルハーレン領を目指す。
余談だが、イーリス街道というのは大公や公爵などの貴族が、王都へ高速に移動できるように作られた街道らしく、道幅も広く綺麗に整備されている。つまり、ヴァルハーレン領の主都ローダウェイクまではイーリス街道を使えば一本道で行けるということなので、今回も街道沿いに森があれば森の中を通るつもりだ。
道のり的には半分は超えたみたいなので、残りの道のりを頑張ろうと決意して進むのだった。




