第59話 引っ越し先
服を持ってコウサキ親子の住んでいる廃墟に戻る。
「服持ってきましたよ!」
「あっ!」
扉を開けると、ツムギちゃんが体を拭いている最中だったが、所詮は5歳だ。
「はいっ、これがツムギちゃんの服だから着替えてね。ところでアキラさんは?」
「で……」
「で?」
「出て……外に出ていてください!」
外に追い出されてしまった……。
外には僕が出した布を1枚巻いているアキラさんがいた。
「あれっ、アキラさん、どこに行ってたんですか? ツムギちゃんに追い出されたんですけど」
「某も追い出されたのでござる」
「アキラさんも! アシハラ国ではそれが一般的なんですか?」
「いや、エディ殿に出会うまでは某が動けないツムギの体を拭いていたのでござるが、子供の成長は早いのでござる……」
アキラさん泣いてるよ。
「それじゃあこれアキラさんの分の服です。着替えたら移動しますので、ナルハヤでお願いします」
「分かりました……」
アキラさんが着替え終わるころ、ツムギちゃんも着替え終わったらしく、扉が開けられるがツムギちゃんの顔は真っ赤になっている。僕が5歳のときはメアリーと普通に水浴びしていたんだけどな。
「用意ができたようですね。桶を回収して早速行きましょう。そういえば着ていた服はどうしますか?」
「汚れてボロボロなのは分かっているのだが、持って行ってもよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ。持っていくなら洗ってからにしましょう。ミラブール」
魔法で水球を作る。
「この水球の中に汚れた服を入れてください」
アキラさんたちが着ていた道着のような服を中に入れると、水球の中で水流が発生して服が回り、同時に汚れが浮き上がる。
汚れだけが水球の外へ出るように設定してあるので、汚れが落ちてどんどん綺麗になっていく。
「よし、こんなもんですね」
「エディ殿、今のは?」
驚くほど綺麗になった服を見ながら、アキラさんが質問してくる。
「汚れを取る魔法です。僕が体を洗う時はこの魔法で洗っていますね」
「そ、それで私を洗ってもらうことはできますか⁉︎」
食い気味でツムギちゃんが聞いて来た。
「できるけど僕に肌を晒すことになるけど大丈夫?」
「――!」
さっき見られたのを思い出したのか、真っ赤になる。
「まあ、今はとにかく急ごうか。二人共目立ちますので、この外套で頭を隠して下さい。あとツムギちゃんはまだ歩けるほどは体力が回復してないと思いますので、アキラさん背負ってもらえますか?」
「畏まったでござる」
「では、僕の後について来てくださいね」
2人を連れてセリーヌさんの店に向かう。
「セリーヌさん、連れて来ました」
「中に入って座ってちょうだい」
中に入ると商談スペースのような所に座る。
「ミユキさん、本当に亡くなっちゃったのね……」
「妻をご存じでござるか?」
「何回か布や糸を買いに来ていて、その時に知り合ったのよ」
「そうでござったか……」
「エディ君から聞いたわ、もっと早くに気がついてあげられなくてごめんなさいね、あなたたちの事は他の町に引っ越ししたって噂が流れてたのよ」
「いや、全ては某の不徳の致すところなので」
アキラさんの奥さん、セリーヌさんと知り合いだったのか。
「それではコウサキ親子には話をしたのですが、セリーヌさんにも説明しますね。家名を出すと危険かもしれないので伏せておきますけど、祝福の儀で僕のステータスに家名がまだ残っていたので、捨てられたのかをこっそり確認しに行くので数日後に旅立つ予定となっています」
「ちょっと待って、エディ君、今の話本当なの?」
「ええ、でも家名は聞かないで下さいね。危険かも知れないので」
「エディ君、その事カティは知ってるのかしら?」
「はい、カトリーヌさんは《《全て》》知ってます」
「そうなのね……」
「話を戻しますけど、コウサキ親子はかなり体が弱っているので、すぐ旅に出発するとかは無理と判断して、僕が部屋を借りるのでそこで体力を回復してもらおうと考えています」
セリーヌさんがコウサキ親子を見て答える。
「確かに今の娘さんに旅は無理そうね」
「はい、それでセリーヌさんには僕からの依頼という形で2人をサポートしてもらえないかと考えています」
「1ついいかしら、家を借りると言ってたけど当てはあるのかしら?」
「いえ、商業ギルドでお願いしようと思っていますがまずいですか?」
「まずいわね。今の商業ギルドはダメよ。ブラウ伯爵の息のかかった職員がかなり増えているから、そこから情報が漏れるわ」
「ブラウ伯爵だと!」
「アキラさん、落ち着いてください。気持ちは分かりますが、ツムギちゃんのためにもこらえてください。どうもブラウ伯爵は僕の敵でもあるようなので、そのうち痛い目をみせてやりますから」
「エディ殿……」
「一応聞いておきますが、アキラさんを騙した商会って何て商会ですか?」
「ウェチゴーヤ商会でござる」
「エチゴヤ商会?」
「違います、ウェチゴーヤ商会でござる」
「……」
うーん、響きだけで悪どく感じるのは、どうしてだろうか。
「かなり大きな商会よ! エディ君も注意するのよ」
「そうですか、そうなると宿屋を長期契約したほうがいいですかね?」
「それもありだけど、費用がかさむわよ。それよりもいい案があるのだけど。ちょうどこの店の裏の家が私の持ち物なんだけど、使ってないから使うといいわ」
「セリーヌさんが住んでいるんじゃないんですか?」
「私は元々上級住宅街に住んでて、店は売ったけど家はそのまま住んでるのよね。中級住宅街にも買ったのだけど、ほとんど使ってないのよ」
「そういうことならお借りします。費用は僕に請求してくれて大丈夫です」
「うーん、エディ君ならただでもいいんだけどなー」
「じゃあ、お金の代わりにこれなんてどうですか?」
絹布を一反机の上に乗せる。
「えっ、ちょっとこれどういうこと!? 絹布なのに、こんなに真っ白なんてどうして!?」
「僕のとっておきですよ」
白っぽい布はあっても真っ白な布はこの世界? 少なくともこの国にはないとカトリーヌさんから聞いていたのだ。
「それを差し上げますので、代金の代わりにどうですか?」
「一生住んでもいいから、定期的に欲しいわ!」
「多くても数か月ですよ」
「なかなか凄い切り札を持っているわね」
「出所は僕がお店を開くまでは内緒でお願いします」
「了解よ!」
「あっ、でも命の危険に晒されるようなら言ってもいいですからね」
「あらそんなの馬鹿正直に言わなければいいだけよ。たまたまいた露店のおじいさんから買ったことにしておくわ」
「なるほど」
「取りあえず2人がしばらく住む家に行きましょうか」
本当にセリーヌさんのお店の真裏で、中に入るとそこそこ広い2階建ての家だった。
「ベッドもあるし、水の出る魔道具や魔道コンロもあるから、すぐに住めると思うわよ」
「今日はこのままここで寝ることができそうですね」
「何から何までかたじけない」
「卵粥はまだありますね?」
「はいこちらに」
アキラさんが空間収納庫から取り出すが、まだ暖かい。
「あれっ? まだ暖かいですけど、アキラさんの空間収納庫って時間停止してたりしますか?」
「その通りでござる」
これは絶対必要なやつじゃん。さっさと用事を片付けて練習しないと。
「いい匂いの食べ物ね。エディ君が作ったのかしら?」
「そうですよ。良かったら明日、ここで皆の分を作りますから一緒に食べますか?」
「えっ! いいの?」
「もちろんです。残ってもアキラさんの空間収納庫に入れておけばしばらくは作らなくても大丈夫でしょう? アキラさんは味噌と醤油作りに必要な材料や道具がありましたらこれに書いておいてください。生活に必要なものでもいいですよ。早ければ1か月、最長で半年ぐらいで戻ってこれるはずなので、しっかり考えてくださいね」
「分かり申した」
「それでは、僕は一旦宿屋に帰りますので、また明日きますね」
色々あって疲れたので、そのまま宿へ帰ることにしたのだった。




