第58話 Win-Win?
お互いが納得できそうな案を思いついたので、提案してみる。
「それではアキラさん。良い案を思いついたのでお話ししますが、その前に僕のことを話しますね」
僕が孤児であることやステータスに家名が残っていて、その謎を調べに行く最中であることを説明した。
「なるほど、エディ殿はこの国の貴族の血筋なのですな、言われれば納得できる話でござる。しかし今の話がどう繋がるのでしょうか?」
「僕は今、モイライ商会という商会の会頭をやっていまして。捨てられていたのを確認でき次第、僕を育ててくれた女性と合流する事になっています。その後はお店を開けそうな良い町を探しながら行商を行う予定となっていました」
ここまで話すと、コウサキ親子は頷く。
「それでここからが提案になりますが、僕が2人を雇いますから従業員や護衛として一緒に来ませんか? ただそれだけではアキラさんが納得できないと思いますので、それとは別に空間収納庫を僕に教えるのと、味噌を作って作り方も教えて下さい。材料については僕の方で用意しますから」
「ショウユの方はよろしいので?」
「秘伝のものを無理やり聞き出すつもりはないですよ。でも味噌と同じように材料は用意しますから、作ったらぜひ売っては欲しいですね」
「では大前提の『捨てられていたら』と言う部分が崩れてしまった場合はどうなりますか?」
「うーん、正直なところその可能性は低いと思います。貴族が暗殺する場合、確実に死んだ証拠を見つけるまで探し続けるのは、よくある話みたいなんです。仮にそうなった場合はどうなるか分からないんですが、商会は登録してありますし、それなりの稼ぎもあるのでどっちにしても約束通り雇いますよ」
「では雇われた場合はエディ殿に今すぐ同行するということでいいですか?」
「それについても考えがあって、アキラさんも、ツムギさんもすぐに旅をできるような状態ではないと思うのです。そこで僕が中級住宅街で家を借りるので、そこにしばらく住んで体力を回復してください。当然その分の費用も出しますから、安心して静養してください」
「しかしそれではあまりにも!」
「恩を受けすぎと感じるなら、その分は合流した後に頑張って下さい。ツムギさんの咳はこの家の埃やカビからくるものだと思いますので、この家にいる限り良くはならないと思いますよ」
「……」
そういえば最初に来た時よりカビ臭いのが治まってきているような気がする。慣れてきたのだろうか? ふと隣に座っているヴァイスを見て謎が解けた、コイツの仕業だ! ヴァイスがいるだけで空気が浄化されているんだ。エンシェントウルフも魔の森の一部も聖域化したって言ってたから間違いないだろう。
アキラさんが考え込んでいる間、僕も色々考えていると、ツムギちゃんが話し始める。
「お父様! ツムギは大丈夫ですので、お父様のお心のままに」
「うーん、僕も味噌と醬油が欲しくて提案しているのだから深く考えないでいいですよ。もし何か条件的に足りなければ言ってくださいね」
「たっ、足りないなんてことは……すまない。主君を失い、妻を失い、今度は娘を失おうとしているのに、未だちっぽけなプライドにしがみついているとは情けない。最初から迷う必要などなかったのに。エディ殿、提案をお受けいたしますので、何卒よろしくお願い申します」
「そうですか、それでは早速動きたいところなんですが、まずは2人の恰好を何とかしないと中級エリアに行くのは無理ですね。着替えって持ってますか?」
「いや、これしかござらぬ」
「そうですか、では服を買ってきますので、その間に体を洗っておいてください」
大きな木桶をいくつか出して魔法でお湯を入れる。
「このお湯と石鹼を使ってください。それと洗う時に使う布と拭く用の布です。拭き終わったら元の服は着ないで、この布で体を隠すように体に巻いて、隠しておいてくださいね」
そう言うと急いでセリーヌさんのお店に向かった。
◆
「セリーヌさん、ちょっといいですか?」
「あら、エディ君。どうしたの?」
「30代の男性の下着と服、5歳の女の子が着る下着と服ってありますか?」
「いったい何があったのかしら?」
先ほどの出来事を簡単に説明すると。
「エディ君はその2人を雇うの?」
「はい、そのつもりです」
「その親子はまだ王都にいたのね……」
「知っているのですか?」
「黒髪の親子は前に見たことがあるわ。とても仲がよさそうな親子だったけど、奥さんは亡くなっちゃったのね……」
「そうみたいですね」
「悪いことは言わないから、その親子と関わるのは辞めなさい」
「えっ、どうしてですか⁉」
「エディ君の後をつけてたヤツも、その親子を騙したのも全部同じ貴族に繋がるのよ。あとカティを騙したのも同じ貴族よ」
「カトリーヌさんもってどういうことですか⁉」
「裏で糸を引いているのが、ブラウ伯爵なのよ。今にして思えばカティも最初から捨てるつもりだったのじゃないかしら? 王都でも有名な服職人だったカティの作った服を独占するためだったのよ。相手は伯爵だから下手なことをしては危険だわ」
そうか……カトリーヌさんを悲しませたのはブラウ伯爵ってやつなのか……。
「なるほど、つまりカトリーヌさんの敵ってことですよね! だったら尚更雇いたくなってきました!」
「どうやらカティの話を持ち出したのは逆効果だったみたいね。まぁいいか、だったら協力してあげるわ! ただし、私も王都に住めなくなったら雇ってちょうだいね!」
「いいんですか?」
「いいわよ。取りあえず服を渡すから、その2人をここに連れて来なさい。話はそれからよ」
セリーヌさんから服を受け取り、再びコウサキ親子の所に向かうのでした。




