第54話 スライムの糸?
スライムの核が実は魔石だったと言う事は、この際どっちでもいいのだが、スライムの糸が出せるというのはどんな糸なのか興味があるので、早速試してみる。
「スライムの糸よ出ろ!」
直径3センチぐらいの透明な糸? が出る。
「うーん、糸と言うよりはゴムだな」
『エディよ、この糸は伸びておもしろいな!』
「おもしろいね、何に使えるかな……そうだ!」
直径60センチ、長さ20センチで出してみる。
『かなり短いが何に使うのだ?』
「こうするんだよ」
座ってみると丁度いい座り心地で、ビーズクッションよりもフィット感が良い。
『エディよ、我も座ってみたいのだ!』
「いいよ。はいどうぞ」
『こっ、これはヒンヤリして気持ちいいな! 寝るときには下に敷いて欲しいぞ』
「それいい考えだね! ハンモックに乗せればホールド感アップだし、枕も作っちゃおう!」
枕も作り、一休みもしたので、そろそろ出発する。
魔の平坦な道が続くなか、馬車が前方から来ているので、邪魔にならないように道の端を歩く。
とても豪華な馬車が、高速で道を駆け抜けて行く。おそらくどこかの貴族なんだろう。
ところが、馬車は僕らとすれ違って、ちょっとしたところで停まったのだ。
中から人が出てきて、こっちに向かってくる。
「少年よここで何をしている?」
若い20歳ぐらいのイケメンが、話しかけてきた。
「王都に向かっている最中です」
「そなた1人でか?」
「頭の上にいるのが従魔なので、1人と1匹ですね」
「この街道は大きく安全な方とはいえ、稀に魔獣や盗賊が出ることもある。少年1人では危険だぞ」
「ご忠告ありがとうございます。しかしどうしても先を急がなければならなく、仕方なく出発した次第です」
「そうであるか……」
話をしていると、いつの間にか現れた40代ぐらいの男性に声をかけられる。若い男と顔立ちがよく似ているので、親子なんだろう。
「ふむ、1人で旅をするとは余程自信があるのであろう。少年は冒険者か?」
「いえ、旅商人でございます」
「その歳で商人とは珍しいな。ギルドカードを見せてもらえるか?」
「はい、こちらに」
【商会名】モイライ商会
【会頭】エディ
【ランク】E
親子に見せると、2人とも驚いたような顔をする。
「その若さでEランクとは、とても優秀なのだな。商材は何を扱っておるのだ?」
「糸や布でございます」
「ほう、布か! この方角から来たということはアルトゥーラから来たのであろう。確かアルトゥーラでは今、質の高い布を集めておったはずだが、どうであった?」
「いえ、安く買い叩かれそうになったので、王都の方へ行くついでにそちらで聞いてみようかと考えております」
父親の方の雰囲気がちょっと怖くなった。
「何! それはまことか? 良ければその布を見せてもらえることは可能か?」
「いいですよ」
リュックから絹布を取り出す。
「これは素晴らしいシルクだな。1メートル大銀貨12枚……いや今なら15枚ほどかと思うが、どうだ?」
「その価格ならお売りしたのですが、最初1メートル大銀貨9枚と言ってきたので、すぐに断りましたけど」
「そんなアホ商人ギルドにいたか? ちなみにどのようなヤツだった?」
「うーん、確かアントニーとかいう20歳ぐらいのいけ好かない男の人でした」
「父上、その男なら2年ぐらい前にギルド長が入れた者で、あまり評判が良くないので、ギルド長には改善するよう、要望書を提出しています」
「私の町にそのような男がいたとは、エディ殿、すまなかった」
……私の町? この人、アリシアのお父さん? つまりハットフィールド公爵じゃん! もう一人は留守中の長男ってことか! あまり関わっちゃダメだ、早く離れよう。取りあえず向こうは名乗ってないし知らない感じで通そう。
「いえ、悪いのはその男なのでお気になさらず、王都に売る当てもございますので」
「ほう、王都に当てあるのか……これほどのシルクはなかなか手に入らぬというのに、商人ギルドは何をやっておるのだ……そうだ! お詫びもかねて1メートル大銀貨20で買い取るがどうだ?」
「20枚! いえ、お詫びとか必要ないので大丈夫です」
「なるほど。その若さでEランクになるだけのことはあるな」
すいません。あなたに借りを作りたくないだけです。
「こうなったら最後の手段だ」
ゴクリッ。何をするんだ?
「頼む! 娘にドレスを贈りたいのだ、私に売ってくれ!」
ビックリしたことに、ハットフィールド公爵は両手を合わせてお願いしてきたのだ。
「父上!」
「うるさい! 私は腹芸が苦手なんだ、しょうがないだろうが! どうしてもこのシルクが欲しいんだ!」
「はぁ、しょうがないですね。エディ殿、シルクなどの布は現在高騰してきてるので、父が提案した値段でも不思議ではないのですよ。妹のためなら私からもお願いするので、売ってはもらえないだろうか?」
「ご家族のためと言われると、売らないわけにはいかないですね。1反でよろしかったですね?」
「むっ! この品質のものがまだあるというのか! できれば4反頼む!」
「4反もですか?」
「私には妻と娘が3人おってな、娘1人分だけ作るとうるさいのだ。これだけの品質のシルクで作ったドレスなら、絶対ごねるに決まっている」
夫人は何か考え事をしてたみたいで、会話をしてないけど、フランシス様なら確かに言いそうだな。
仕方ないので、残りの3反をリュックに手を入れて、収納リングから取り出す。
「残りの3反です」
「おお! 感謝する! これで娘を祝うことができる」
「それでは旦那様、私が長さを計り金額を計算してきますので」
執事みたいな人が、布を持って計りに行った。
「それにしても立派なシルクだ、エディ殿はいったいあれをどこで仕入れたので?」
ハットフィールド家長男が聞いてくる。
「すいません。さすがにそれは言えない約束をしていますので」
「だろうな。あれ程の品だ、相当変わり者の腕利きの職人が織っているのであろう」
すいません。能力ですぐできちゃうんです。
「しかし、エディ殿はここらでは見ない容姿をしているが、どこから来たのだ?」
「旅立ったのはコラビの町ですが、亡くなった父がもしかしたらニルヴァ王国出身なのかもしれません」
「ほう、お父上を亡くされたのか。それはすまないことを聞いた」
「もう昔のことなので、お気になさらず」
若い商人が珍しいのか、色々聞かれていると、執事っぽい人が帰ってくる。
「旦那様、1反25メートルございましたので、4反で大銀貨2000枚になります。したがって金貨100枚ご用意いたしました」
袋に入った金貨を受け取り、そのままリュックにしまう。
「確認しなくてよかったのか?」
「はい。問題ないです」
「ちょろまかしてるかもしれんぞ」
「その時はその時です。僕の人を見る目がなかったという事だけなので」
「なるほどな」
「それでは、僕も先を急ぎますので、これにて失礼いたしますが、よろしいでしょうか?」
「うむ。良い取引をできて、こちらも助かった」
「こちらこそありがとうございます。それではまた」
僕はまた王都に向かって歩き出したのだった。
――Sideハットフィールド公爵――
「父上、彼は何者でしょうか?」
「おそらく、生まれてからずっと病気で療養しているというヴァルハーレンの所の嫡男であろう」
「大公様の! なぜそのような結論に至るのでしょうか?」
「奥方はニルヴァ王国の姫だ。あの容姿はニルヴァ王国の王族と一致する。正確には髪色と瞳の色だが。ニルヴァ王国は少し変わっていてな、血がつながっていても、あの髪色にあの瞳の色でなくては、王族とはみとめられんそうだ」
「では彼は2つの国の王族ということになるのでしょうか?」
「そうだな……」
「療養中のはずが、何故こんなところに?」
「それが一番の謎だな。亡くなった父親はニルヴァ王国出身かもしれぬと嘘を言っておったし」
「そうですね。そろそろ私たちも行きましょう。いくら無事の一報を受けたとはいえ、アリシアが心配です」
「それはそうだな。アルトゥーラに急ぐぞ!」
「「「はっ!」」」
それにしても、あの異常な魔力量は、いったいどういう事だ? 俺の感覚がおかしくなったのかと思ったぞ。




