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第52話 Side ハットフィールド家

 ――ハットフィールド公爵夫人視点――


 ことの発端は三女のアリシアがバザルトへ視察に向かう道中、オークが襲撃してきて行方不明になったとの知らせを受けたことです。


 主人がすぐにバザルドまで向かおうとしますが。タイミング悪いことに王都から召喚するように命じられました。イグルス帝国に戦争の動きがあるとのことで、息子をつれてすぐに王都へ向かいました。

 

 すでに長女のフランシスがソルの町からバザルドに引き返しているとの知らせが入っているので、あとはフランシスに任せるしかありません。


 まだ7歳のアリシアがオークにと考えただけで気が狂いそうになります。侍女のエマには最悪な状況が起きた時のために毒薬は渡してありますが、どちらにせよ明るい未来は待っていないでしょう。


 しかし、数日経ったところで明るい知らせがフランシスから届きました。アリシアをオークの集落から救い出した少年を連れて行くので、もてなす準備をして欲しいとのことでした。


 王都の主人にアリシアが無事だった知らせを出して、もてなす準備をするように屋敷のメイドたちへ指示を出します。



 娘たちは夕方に無事到着し再会を喜びます。アリシアはかなり汚れて髪や顔も酷いことになっていたので、すぐに湯あみをさせます。恩人の少年も既に湯あみに向かわせたのことなので、フランシスから事情を聴くことにしました。



「今回はジェームス不在の中、よくアリシアを救出してくれましたね」


「お母様、アリシアの運が良かっただけですわ。でもオークに襲われたってことは、やはり運がないのかしら」


「それでアリシアは何もされていないのですね?」


「オークに捕まえられてすぐにエディ様がオークを殲滅したため、大丈夫だったようです」


「そうですか、報告ではアリシアと同じくらいの歳と書かれていましたが?」


「間違いなくアリシアと同じ7歳です」


「その年齢でオークの集落を殲滅できるものなんでしょうか?」


「普通は無理だと思います。大人でも一人では難しいかと、おそらく隠してはいますがオークの上位種もいたと推測されます」


「オークの上位種ですか。その辺りについてはジェームスが帰ってきてからもう一度話をしましょう。アリシアの精神状態はどうでしたか?」


「それも問題ないようです。エディ様がアリシアたちに作った料理がかなり美味しかったようで、今はそちらに関心が移ってます。ただアリシアを含めて生き残った5人共、オークに縛られ身動きを取れないときに粗相してしまったらしく、その状態を見られたことを気にしているようでしたわ」


「そうですか、オークに辱められることを思えば小さな悩みですね……それにしてもオークに襲われたことが気にならなくなるほど、少年の作る料理が美味しかったのでしょうか?」


「それについては隠そうとしていましたね、というかエディ様はかなり貴族が嫌い……いえ貴族を警戒されているようで、ここまで連れてくる方がよほど大変でした」


「貴族に恩を売りたい者たちが多い中、それは気になりますね……過去に警戒するような出来事があったと推測すべきですね」


「そうですね。アルトゥーラの城や町を見たときには7歳の子供らしく驚いていたので、どこかの貴族のご子息ってことはないと思うのですが……そうですわ! モトリーク辺境伯領のコラビの町が出身と言ってました」


「コラビですか……魔の森を監視するためだけの、何もない小さな町だったと記憶してますが」


「そうなんですね、私は辺境の町ということぐらいしか知りませんでしたわ」


「ジェームスが帰ってくるまでは滞在して欲しいところですが、可能ですか?」


「それも難しいですわね。急ぎの用事でニルヴァ王国を目指していると言っていましたので」


「コラビからニルヴァ王国ですか……それは遠いですね」




 その後、商人ギルドの副ギルド長に丁寧な対応をお願いし、晩餐会を迎える準備をする。


 アリシアはかなり念入りに洗ったようね。ドレスもお茶会用を着ていますし、気合が入ってるわね。



「奥様の準備が整い次第呼ぶように命じたはずだがどういう事だ? 大体この席はどういう事だ!」


「エマ様もその少年に騙されているのです!」



 エマとメイドのミアの大声が聞こえたので3人で入ります。


「エマとミア、声を荒らげてどうしました? 廊下の外まで聞こえていますよ」


 フランシスが質問する。


「ミアのやつが、エディ様に嫌がらせをしていたようで……」

「やっぱり嫌がらせだったんですね……」


 少年が答える。なぜ私たちよりも先に少年が? 今はそんなこと考えている場合ではないわ。

 

「私はナンシー・ハットフィールド、此度は娘の窮地を救ってもらいありがとうございます。夫と長男が王都の方に呼ばれて不在ですがハットフィールド家を代表してお礼いたします。それとうちの者が無礼を働いたようで大変申し訳ございません」


「奥様! このような下級商人に頭を下げる必要などございません!」


「ミア! あなたエディ様になんてことを!」



 ミアはさらに失礼な態度を取り、フランシスが怒る。

 

「公爵夫人からお礼の言葉もいただいたので、これにて失礼いたします」


「エディ様、どういう事ですか?」


 この少年、どこかで見た雰囲気が……。


「ヴァイス、行こうか!」


 少年が従魔に話しかけている。


「フランシス様、どうも僕は公爵家ではあまり歓迎されていないようです。それだけならまだしも、嫌がらせを受けてまでここに留まるつもりはありませんので、先ほども言いましたが、これにて失礼します! アリシア様もお元気で」


「お待ちになって!」

 

 少年が従魔を頭に乗せ、食堂を飛び出すと近くの窓から飛び降りたのです!


「エディ様!」


 アリシアが叫び窓の下を覗く。


「シンディ! 騎士にエディ様を探させて!」

「畏まりました!」


 フランシスが少年を探すように手配しました。



 次の指示を出さなくてはいけないのですが、エディと呼ばれた少年の容姿にどこか引っかかりを覚えます。


 そうよ、大公夫人にそっくりな顔立ちよ! 大公のところのお子様は見たことないわね……。


 そうだわ、生まれてすぐにご病気にかかったとかで誰もお会いしたことないのよ。


 夫人も長いこと公の場には出てないし。お子様となにか関係があるのかしら……。


 確かご子息だわ。お祝いの品を贈ったはず、名前は……。

 



「お母様、どうされました? 何か考えごとをしていたようですが」



 フランシスが心配そうに尋ねてきます。



「二人共、ごめんなさい。どうしても少年の顔立ちが気になってしまって」


「エディ様の顔立ちがですか?」


「ええ、今思い出しました。少年はヴァルハーレン大公夫人にそっくりなのです」


「お母様、いくら何でも話が飛びすぎていないでしょうか? エディ様のお父様はコラビの町でお亡くなりになったと言ってましたし」


「そう……あなたたちは勉強不足のようね。あの髪色にあの瞳の色の組み合わせはニルヴァ王国の王族の証よ」


「「――!」」


「そして7年前、大公家にご子息が生まれた時に贈り物をしたのだけれど、名前はエドワードだったわ」


「「そんな!」」


「と言っても公の情報でエドワード様は生まれてすぐご病気になられて、今もご静養中となっています」


「ではやはり別人では?」


「アリシアはまだ考えが甘いわね。オークの集落を一人で殲滅したり、あれほどの胆力を発揮できる平民は普通いないわ。でもヴァルハーレン大公のご子息だとすれば納得できるのよ」


「ヴァルハーレン大公は、それ程のお人なのでしょうか?」


「あなたたちは、もう少し国外に対する勉強も必要ね。かつてニルヴァ王国へイグルス帝国が攻め入った際、14歳になられたばかりの今の大公が、たまたま近くのファーレンの町にいて、そのまま単騎で駆けつけ、イグルス帝国の兵2万を殲滅させたらしいわ。その事件がきっかけでニルヴァ王国の第二王女様と結ばれたのよ」


「そこまで強いのですか?」


「ええ、雷の魔術に加え剣術もヴァーヘイレム王国で一番。他国からは迅雷と呼ばれ恐れられているわ」


「そういえば、エディ様は知らないと仰ってましたが、私がオークに捕らえられている際に、ドーンと大きな音と地響きがあったのです。もしかして雷の魔術なのでしょうか?」


「その可能性もあるわね。とにかく今は少年を見つけることが先決なのだけれど、まずはミア! なぜあなたはアリシアの恩人に失礼な態度を?」


「お嬢様に纏わりつく虫を追い払っただけでございます」



 この子は何を言ってるのかしら?


「ミアの行いを止めなかったあなたたちも同じ言い分なのかしら?」


「わ、私はミアが図々しい下級商人を懲らしめるというので!」



 私は自分の使用人の管理が甘かったことにショックを受けながらも兵士たちに指示を出します。


「そこの3人を牢屋に入れておきなさい。ジェームスが帰ってきたら罰を決めましょう」


 メイドたちに目が行き届いていなかったわたくし自身にもバツが必要ね。


 兵士たちが連れて行くのを眺めながら。少年が見つかることを願います。



 しかし、門でのチェックや捜査でも少年を見つけることはできませんでした。


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