第49話 新魔法
アナさんの後をついて歩いて行く。2階に上がりしばらく歩いて行くと、扉の前で止まり、アナさんが扉を開ける。
「こちらがアルトゥーラに滞在する間のエディ様のお部屋になります。何かございましたら、私や部屋の外に控えているメイドに何なりとお申しつけ下さい」
「ありがとうございます」
「湯浴みの準備はすでに整っていますが、すぐにご利用なさいますか?」
「えっ、じゃあお願いします」
「では、こちらに」
案内されたところは石造りの部屋に大きな木桶が置いてあり、木桶の中にお湯が入ってる。もう1つお湯を張った桶があり、そのお湯で体を洗い流して綺麗にしてから大きな桶につかるとのことだ。この世界にもお風呂があると分かっただけでも一安心だ。
アナさんが僕の体を洗おうと服を脱ぎだしたので、丁重にお断りしておいた。
それにしても、この置いてある石鹸は全然泡が立たないせいか、全然洗った感じがしない。折角風呂に入るのだからさっぱりしたいと言うことで、ちょっと実験してみることにした。
『エディよ、何をするのだ』
「ちょっと魔法で体を洗う実験をしようと思って」
『魔法で体を洗うのか! おもしろい発想だな』
まず、直径80センチぐらいの水球をだして温め、そしてその中に小さな泡をいっぱい発生させる。
シャワーのお湯だけでマジックを落とせるあれを再現できれば、体を綺麗に洗えるはずだ。
水球を出すのは簡単なんだが、ちょうどいい湯加減にするのが難しい。しばらく練習すると、温度設定にだんだん慣れてきたので、今度は泡を発生させてみる。
泡を小さくしようとチャレンジしてみるが、泡がなかなか小さくならず、集中を切らせるとすぐに水球を落としてしまう。
試すこと8回目、だんだんと水球が小さな泡で埋まっていき、真っ白な水球ができる。しかし、目に見えるような泡のサイズはまだまだ大きい証拠だ。さらに泡を小さくしようと頑張っていると、やがて泡が見えなくなり、水球は透明になった。
「おっ、成功したかな?」
水球に頭を突っ込んで、水球の中で水流を発生させる。
「これはすごく気持ちいいな……」
頭を抜いて髪の水気を切ってみると。
「凄くさっぱりした」
『エディ! 我も入ってみたいぞ!』
「分かったよ」
改めて水球を作り、泡を発生させると、なんとヴァイスはそこに飛び込んでしまった。
水流を発生させると、水球の中をヴァイスがクルクル回っている。まるでぬいぐるみを洗濯機で洗っているみたいだな……。
しばらくすると、水球から飛び出たヴァイスが体を振って水気を落とす。僕にめちゃめちゃかかるじゃん。
『エディよ! これは凄く気持ちが良いな! 体が軽くなったようだぞ』
「まだ全然拭いてないのに、毛が凄く軽くなったように感じるね。それじゃあ、僕はまだ体を洗ってないから、ちょっと待っていてね」
自分の体用の水球を作り中に入る。
「やばいな、暖かい水流が凄く気持ちいい……」
これは癖になりそうだ。かなり綺麗に洗えたのか、凄くさっぱりしたぞ。新しく作った魔法は名前をつけると次からイメージしやすいと、エンシェントウルフが言ってたから、この魔法名は『ミラブール』と名付けよう!
体が綺麗になったので、お風呂に浸かって疲れを癒す。フランシス様から逃げられなかったことは悔やまれるが、お風呂に浸かれて体を洗う魔法を作れたのは結果的にプラスだったな。
ゆっくり浸かった後、風呂から上がり体を布で拭く。うーん、バスタオルが欲しいな。タオル生地って何織なんだろうか。公爵家でもタオルやバスタオルを使ってないのなら、この世界にはまだないのかもしれない。
ヴァイスを布で拭いてから、僕も着替える。森の中を進んでいた時は目立たないように黒っぽい格好で移動してたので、ここはカトリーヌさん一押しの青の商人スタイルに着替えた。
脱衣所から出るとアナさんが待機していた。僕の姿を見てかなり驚いていたがどうしたんだろうか、この格好変なのかな? 失礼があったらまずいので、部屋に戻りながら聞いてみる。
「すいません、先程僕を見て驚いていたみたいですが、どこかおかしい所がありますか? 格好とか変だったり失礼になるようなら、着替えますから言って下さいね」
アナさんは真っ青な顔になり。
「申し訳ありませんでした!」
いきなり謝られてしまった。
「えっ、いきなりどうしたんですか?」
「まさか貴族のご子息だとは思わなかったので、失礼な態度を取ってしまいました! どうか罰をお与えください!」
「うーん、何を勘違いされているのか分かりませんが、僕は貴族ではありません、ただの商人ですけど」
「そのような綺麗なお顔が、一般市民なんてあり得ません!」
「綺麗って……僕は男なんですけど……」
今のはかなりのダメージを受けた。昔孤児院で女みたいな顔って言われていた、嫌な思い出を思い出したよ。あの時はメアリーが庇ってくれたっけ、そういえばメアリーは元気にしてるだろうか。
「もう一度言いますが、貴族ではないし、不快な思いもしてないので罰とか要らないので!」
「しかし!」
「ちょっと疲れたので休憩させてもらいますね」
そう言って扉を閉めて、部屋から出て行ってもらったのだった。




