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第48話 主都アルトゥーラ

 馬車に揺られながら居心地の悪さに現実逃避しながら、馬車の外を眺めていた。


 しかし、初めて馬車に乗ったのだが、意外と快適でびっくりした。ほとんど揺れがないのだ。話を聞くと一般的な馬車の乗り心地は最悪らしく、今乗っている馬車はハットフィールド公爵家でも2台しか所有していない魔道馬車の1台で、魔道具を組み込み乗り心地や馬車自体の重さを軽減していてスピードアップを図っているそうだ。


 もう1台の方は、この馬車よりもさらにスピードがでる仕組みになっているらしく、その馬車を使い王都まで送ってくれる予定になっている。


 会話は、始めアリシア様がオークに襲撃されてから森を抜けるまでの一部始終をフランシス様に報告するような形で行われ、途中アリシアが涙ぐむとフランシス様が抱きしめるといった姉妹の仲の良さを感じ取ることができた。途中オークキングを倒すときに出た轟音がアリシア様にも聞こえたらしく、そのことを聞かれたが音がした方向に行ったら町があったことにしておいた。


 そして話は僕の作る料理の話になる。


「先ほど作られたお料理は凄く美味しかったですが、エディ様はどこかで料理の修行をなされたのですか?」


 アリシア様がおかしなことを聞いてきた。


「全くしてないですよ」


「それなのに、あのような美味しい料理を作ることが出来るとは、商人より料理人の方が向いてるのではないでしょうか?」


「美味しい料理って言っても、オークの肉を焼いただけですよ。アリシア様は長時間何も食べていなかったので、美味しく感じたんじゃないですかね。空腹は最高のスパイスと言うぐらいですし」


「そんな事は! ……あるのでしょうか?」


「あると思いますよ。今までにこんなに長い時間食事を取らなかったり、7時間も歩き続けたことはありますか?」


「確かに、ありませんわ……」


「でしたら間違いないですよ、僕の料理と本物の料理人が手間暇かけて作った料理を比べるのは、料理人に失礼ですよ」


「気をつけます……」



「では、エディ様はどちらのご出身でしょうか?」


 フランシス様が話を変えてきた。


「物心ついた時には亡くなった父と一緒に行商をしておりましたので、僕の出身は分かりませんが、父がニルヴァ王国出身なので、ニルヴァ王国の可能性が高いかと。父と最後に訪れ亡くなったのがコラビという辺境の町なんです、ご存知でしょうか?」


「モトリーク辺境伯領にある町の1つですね。お父様と同じ派閥なので、名前だけは存じておりました」


「同じ派閥ですか?」


「ええ、お父様やモトリーク辺境伯は中立派に属する貴族ですわ」


「中立派ですか……」



 確かお父さんは国王派だったが、仲が悪いとかあるのだろうか?


「エディ様は中立派に悪いイメージでもお持ちなようね。中立派といっても日和見主義ってわけではなく、お父様は民に寄り添った思想を持っていますのよ」


「いえ、悪いイメージとかじゃなくて、派閥とか言われてもピンと来ないだけです」


「なるほど、一般市民からするとそのような感覚なのですね」


 そう言えば聞きたいことがあるんだった。


「ところでアリシア様は廃墟の町をセラータの町と呼んでいましたが、どういった町なんでしょうか?」


「セラータの町ですって⁉︎」


 フランシス様も驚きのようだ。


「はい、まだこの辺りをハットフィールド家が治める以前の話なのですが、一夜にして森に飲み込まれたという伝承があります。町の中を詳しく見たわけではないので確証はありませんが、ハットフィールド公爵領近くの森に飲み込まれていた大きな町でしたので、間違いないかと」


「アリシア、それが本当なら大発見よ! お父様に相談して探索部隊を編成しなくては!」



 エンシェントトレントの眠りを邪魔されるのは、凄く嫌な感じがする。


「うーん、ただの意見の1つとして聞いてほしいのですが、あの森を荒らすのは辞めておいた方がいいと思います」


「あら、それはどうしてかしら?」


 フランシス様が答える。


「そうですね、あの町にいる間ずっと何かに見張られているような感覚もありました。セラータの町のことは知りませんが、あの町は何かの呪いを受けているんじゃないですかね? もし本当にそうであるなら、下手に刺激すると、今度は近くにある別の町が飲み込まれる可能性もあると思うんですよ」


「「――!」」


 僕が意見を言うと、二人は何か覚えがあるかのようにビックリする。やはりこの辺りの人たちには何か伝わっているのだろう。


「確かにセラータの町が森に飲み込まれたのは、この地をハットフィールド家が治めるようになる遥か昔のことですが、バザルトの町ではまだ村だった時の言い伝えとして残っているようで、その内容は決して魔の森を刺激してはいけないと言うものでした」


「へーそんなのがあるんですね」


「言い伝えを知らなかったエディ様が言うのであれば、何かあるのかもしれませんね」


「まあ、何か確証があるわけでもないので、参考程度ってことでお願いします」


「それでは、そういった意見も含めてお父様へ報告する事にしましょう」



 様々な話をしているうちに日も傾きだした頃、丘の上に建てられた大きな城壁が見えてきた。初めて見たこの世界のお城に思わず興奮してしまう。


「凄い大きな防壁ですね! 主都と言っていたので、少し大きめの町を想像してたのですけど、城塞都市だったんですね!」


「あの大きな防壁は魔の森からのスタンピード対策として建てられたのですよ。このヴァーヘイレム王国には王都以外にも大公家と3公爵家の4つが大きなお城を所有しているのですが、ご存じないですか?」


「初めて聞きました。あんなに大きな町を見たのも初めてなくらいですし」


 こんな遠くからでも分かるぐらい、大きな2重の防壁で外側の防壁が12メートルぐらい、内側の防壁はさらに大きく20メートルぐらいはあるだろうか、まるでフランスのカルカッソンヌ城塞都市をさらに大きくしたような城壁だ。


 馬車は大きな門をノーチェックで進んで行く。ハットフィールド家の主都だから当然か。


「すいません、どこか適当な所で下ろしてもらえると助かるのですが」


「どうされましたか?」


「ヴァイスの従魔登録と宿の予約、あと折角大きな町に来たので、商人ギルドに寄って布の相場も聞いておきたいと思いまして」


 お城へ一緒に行くなんて絶対に嫌なので、ついでに逃げられれば最高なんですが。


 フランシス様が少し考えると答える。


「そうですね。宿についてはこの町に滞在中の間は城に泊まればよいので必要ないですし。従魔登録などについては商人ギルドの職員を後で呼び寄せるので、お気になさらなくても大丈夫です。ついでに相場も調べてくるように言っておきましょう。シンディ、城に戻ったら手配をお願い出来るかしら?」


「畏まりました」


 フランシス様の侍女らしき人が答える。


 どうやら脱出に失敗したようだ。フランシス様はことごとく逃げ道を塞いでいく、やはり貴族が相手というのは疲れるな。



 馬車は城門を(くぐ)り城内に入って行き大きな扉の前で止まる。


「さあ、着きましたわ。降りましょう」


 フランシス様に促されて下りると、扉が開いて使用人らしき人たちが整列している。使用人が着ている服はバラバラだ。


 使用人の間を、フランシス様とアリシア様の後をついて行く。


「アナ。先に報せを出していましたが、この方がアリシアの恩人であるエディ様です。くれぐれも失礼のないよう丁重にもてなすように。エディ様をお部屋に案内して湯浴みの手配もお願い」


「畏まりました。エディ様はこちらへ」


 僕はフランシス様やアリシア様と別れて、メイドのアナさんの後をついて行くのだった。


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