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第47話 ハットフィールド公爵家長女

 近づいてきたオリビアさんが馬から降りる。


「アリシア様! 首尾よく応援部隊を手配できま……」


 喋っている途中で鼻をスンスンと鳴らす。敵か何かの匂いを嗅ぎ取ったのだろうか?


 オリビアさんがアリシア様たち4人の方をキッと睨むと、4人は目を逸らしてとぼけた顔をする。


 オリビアさんは涙ぐんで僕を睨む。いったい僕は何を見せられているんだ……。

 

 そうこうしてる内に豪華な馬車がやって来て近くで停まり誰か降りてくる。


 馬車から降りてきたのは18歳前後の女性で、腰まで伸びた透明感のあるオリーブアッシュ色の綺麗なストレートヘアー、琥珀色の瞳、母性溢れるお胸様の超美人だった。

 

 彼女は降りてくるとアリシアの前まで行って、アリシアを抱きしめる。


「心配しましたよ! アリシアが行方不明になったと報告を受けて、ソルの町から慌てて引き返してバザルトの町へ着いた所で、ちょうどオリビアを見つけたのですよ」


「お姉さま!」


 お姉ちゃんだったのか! 全然似てない? こともないのか、そういえば最初に見たとき顔は泣き腫らし、髪や服も泥と埃まみれだったからな。頑張れアリシア。


 亡くなった兵士たちを荷台に乗せているのを眺めながら、ヴァイスの頭を撫でる。



「迎えも来たからもう大丈夫そうだね」


『うむ、これで依頼完了だな。(われ)はさっきの肉をまだ食べたいのだが』


「ビネガー炒め、気に入ったんだね。でもアレってまだ完成ではないんだよ」


『なに! アレよりまだ美味くなるのか!』


「もちろんだよ。また足りない調味料を探そうか?」


『それは楽しみだな』


「さて、問題はどっちに行くかだよね」


『こんなことなら眷属を待機させとけば良かったな、我は全く分からんぞ』


「ここがどこかって事だよね」



 コラビの町で買った簡単な地図を広げて見てみる。


「そういえば、ハットフィールド公爵って言ってたから大体この辺りってことか。こっちが魔の森ってことは、バザルトとかいう町の反対側に向かえってことだね」


『さすがエディだ。では向かうか』

「そうだね、行こう」


 そう言って立ち上がろうとすると声をかけられる。


「あら、どちらに行かれるのですか?」

「どちらって、あっち……」



 声のした方を見上げるとお胸様が喋っていた……じゃなくてお胸様に顔が隠れていたアリシアのお姉ちゃんだった。


「あっちはバザルトの町ではなくてよ」


「知ってますけど。えっと、何かありました?」


「何かじゃありませんわ、あなた今どこへ行こうとしました?」


「だから、あっち?」


「向こうはバザルトではなくてボーデンですわ」


「へーあっちにも町があるんですね、教えてもらってありがとうございます」


「どういたしまして……じゃなくて! どうして! バザルトに! 行かないのかを聞いてるのです!」



 なんか、最初の清楚なイメージと違う残念なお姉ちゃんだったのか……美人なのにもったいないな。凄くもったいない……。



「なんですか! その残念そうな目は!」


「そんな目はしてないですよ。それにしてもおかしな事を聞きますね。あなたはアリシア様のお姉さまで合ってますよね?」


「その通りですわ。ハットフィールド公爵家、長女のフランシス・ハットフィールドと申します。妹のアリシアを窮地から救って下さったようで、本当にありがとうございました」


 興奮してないと美人なのにもったいないな。実にもったいない。


「いえ、偶々なんでお気になさらず。それでバザルトへ行かない理由ですが、フランシス様が騎士を連れてアリシア様を迎えにきたので、僕がバザルトへ行く必要がなくなったからですよ」


「だからどうして私が来たことで、あなたが行かなくてよい理由になりますの?」


「えっ? ちょっと何言ってるか分からないんですけど」


「なんで分からないんですの!」


 フランシス様、揶揄うとおもしろいな。


「確かに、僕がアリシア様に頼まれたのはバザルトまでの護衛でしたけど、フランシス様が騎士を率いて迎えに来た以上、もう必要ないと思われますが?」


「一度受けた護衛の依頼なら、最後まで護衛するのが筋ではないのですか?」


 どうやら僕をバザルトの町まで連れて行きたいようだ。しかし、そう思い通りには行かせない!


「僕が冒険者で正式な依頼を受けているとかならそうなりますけど。僕は冒険者でもなければ、正式な依頼でもないですし。安全が確保出来ているなら、付いて行くのもどうかと。僕が行きたい方角なら付いて行っても良いのですが、残念ながら反対の方角なので時間の無駄かと」


「むぅ、しかし妹の恩人に対し何もお礼しないというのは、公爵家として許されないのです!」


「貴族って面倒ですね。それならこういうのはいかがでしょうか? 僕も先を急いでいるので、褒美として護衛はここまでにして欲しいです」


弱りまし(ブツブツ)たね。なかなか手ごわいです。アリシアと同じぐらいにしか見えませんのに、お父様を相手にしてるようですわ」


 何かブツブツ言っているが、声が小さくて聞こえないな。


「そうですね。ならば、何処へ向かおうとしているのか教えていただけますか?」


 フランシス様、思いのほか粘るな。


「ニルヴァ王国です。ちょっと家族のことで問題がありまして急いでいるのです」


「ニルヴァ王国ですか……そうですわ! でしたらこうしましょう。目的地をバザルトではなくハットフィールド公爵領、主都のアルトゥーラにしましょう。お父様やお母さまもいらっしゃいますし、そちらの方がちょうど良いですわ。お礼が終わったのち当家の高速馬車で王都ヘイレムまでお送りすることをお約束しましょう。これならニルヴァ王国までの道のりを短縮できてエディ様へのお礼の1つにもなりますし丁度良いです」


「えっと……」


 なんだか余計まずい方向になってきたような……。


「皆分かりましたか? 目的地をアルトゥーラに変更します。アリシアは湯浴みをしたいでしょうけどもう少し辛抱してね」


「はい。お姉さま!」


「テオドール! あなたはバザルドまで行って調整をお願い」


「はっ! 畏まりました」


「さあ、エディ様。馬車の方へどうぞ。アリシアも来なさい」


「はい。お姉さま!」


 逃げ場を失った僕は馬車に乗せられて、ハットフィールド公爵領、主都アルトゥーラに向かうのでした……。

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