第46話 脱出
朝になり。すっかり元のお腹へ戻ったヴァイスに朝食を作った後、蔓の能力を使って大きな穴を掘り、そこにオークの犠牲になった女性たちを入れていく。
作業をしていると、助けた女性たちが近づいて来た。
「おはようございます。何をなさってるのでしょうか?」
「おはようございます。オークの犠牲になっていた人を埋葬しようと思いまして」
「私たちも手伝います。皆お願い」
女性陣も手伝ってくれたので早く終わり、そこへ墓標代わりにエンシェントトレントの枝を刺して冥福を祈った。
「準備も終わったので出発しようと思いますが、どうするかは決まりましたか?」
「はい、厚かましいお願いで申し訳ないのですが、近くの町、おそらくはバザルトの町までお願いできますか?」
一番面倒なパターンになってしまったな。
「分かりました。それでは出発しましょうか」
「少しお待ちください。出発の前によろしいでしょうか。私はハットフィールド公爵家三女アリシア・ハットフィールドと申します。この度は窮地を救っていただき、ありがとうございました。やはり救ってもらいながら、名前すら名乗らないというのは礼儀に反するため、名乗らさせていただきました」
「私はアリシア様の侍女をしております。ヴァーグ子爵家次女、エマ・ヴァーグと申します。この度は本当にありがとうございました。残りの者は騎士オリビアとモニカ、侍女のヘレナになります」
「騎士のオリビアです」
「同じく、モニカです」
「侍女のヘレナです」
名乗られてしまった……公爵家って結構偉いよな、これは僕も名乗らなければならない流れなんだろうか?
考えていると、ジーっと見られていることに気がつく。
「あっ、失礼。まさか名乗られるとは思っていなかったので動揺してしまいました。僕の自己紹介も必要ですかね?」
「そうですね、恩人の名前ぐらいは知っておきたいのと、できればフードで見えない、お顔も見せていただけたらありがたいのですが……」
しょうがないなと思いフードを外して顔を見せる。
「――!」
人の顔を見てびっくりするなんて傷つくじゃないか。メグ姉やカトリーヌさんには可愛いって言われて、育ててもらってたんだからね!
「エディといいます。布などを取り扱う行商をやっております。こちらがギルド証になります」
ギルド証を見せると、侍女のヘレナさんが答える。
「その若さでEランクですか!」
「どういうことでしょうか?」
「アリシア様、商人ギルドでは登録したての商人はFランクからスタートします。ランクは信用度として扱われますから、通常はどんなに頑張っても4、5年はランクが上がらないと聞いたことがあります。つまり登録したてでもランクが上がるほど、ギルドに貢献をしたのではないかと。昨日身体を拭くよう渡された布もかなりの上物でしたから、お若いですが、かなりやり手の商人ではないかと」
「そうなのですね!」
「まあ、僕のことは置いておいて、早速森を抜けましょう。僕の後をついてきてください。ヴァイス案内お願いね」
フードを被りなおして先へ進む。
話を遮られたことにアリシアは不満そうだが、こっちも町まで送らなければならないので、早く出発したかったのだ。
ヴァイスを案内に使っているように見せかけて、実際はエンシェントウルフが先導しているので、魔物も寄り付かない。アリシアたちを町まで送らなければならないので、エンシェントウルフとはこの森を抜けたらお別れする予定となる。ショートカットできなくて非常に残念なのだが、しょうがないだろう。
「それにしても魔物と遭遇しませんですね」
騎士のオリビアさんが不思議そうに言う。
「それはヴァイスが鼻を効かせて避けてるからですよ」
「優秀な従魔をお持ちのようですね」
「ええ、まあ」
会話が続いたことによりアリシアがチャンスとばかりに質問してきた。
「エディ様はどうしてセラータの町に?」
「えっ⁉ あの町セラータって言うんですか? 僕はたまたま魔物を避けながら森を進んでいて、見つけただけですよ」
「そうなんですか……」
なぜかションボリするアリシア。何を期待してたのだろうか……。
そして途中休憩を挟みながら歩き続けること7時間、ようやく森を抜け街道に出られたのだった。
ようやく森を抜けて街道に出ることができたが、ここが何処なのか全く分からない。
「なんとか森を抜けられましたね。バザルトの町はどちら側にあるのか分かります?」
「右の道ですね」
侍女のエマさんが答える。
しばらく道を進むと倒れた馬車、死んでいる人やオークを見つける。
アリシアが亡くなった騎士の側へ行くと、騎士の手を掴んで何かを言っているようだ。
エマさんに尋ねてみる。
「この辺りで襲撃にあったのですか?」
「そうです。最初前方に現れ、アリシア様を安全のため後方に移動させたところで、後ろからも襲われ挟み撃ちになりました」
「そうだったんですね……」
「そうだわ! エディ様、オークたちはかなり統率がとれていました。オークの上位種は見てないでしょうか?」
「上位種ですか?」
「はい、オークはキングやジェネラルなどの上位種がいると、ランクが跳ね上がると聞いたことがあります」
「そうなんですか、見てないですね。上位種がいたなら、僕が不意を突いたぐらいでは勝てませんよ」
嘘である。さすがにオークキングやオークジェネラルを倒したことは、色々と問題がありそうなので言うことができない。
「そうですか。確かにそうですよね……」
若干怪しんではいるが、自分を納得させるかのように呟いている。
「さて、僕では町までどのくらいの距離があるのか分かりません。このまま全員で町まで行くか、ここで片付けをする人と、町まで誰か呼びに行く人で分かれるのか、どちらにします?」
少し思案していたアリシアが答える。
「亡くなった兵士たちをこのままにはしておけません。この中では一番体力のあるオリビア、あなたが先行して馬車と亡くなった兵士たちを運ぶ台車を手配してきてもらえますか?」
「畏まりました。すぐに呼んで参ります」
オリビアさんはそう言うと街道を走って行った。アリシアは走って行ったオリビアさんの方を心配そうに見つめている。
「では亡くなった兵士を、街道横に手分けして運びましょう」
うまく行けばここで別れられそうだなと、亡くなった兵士を集めながら考える。
兵士たちを並べ終わったので、あらかじめ入れておいた布を、リュックから取り出し兵士たちにかけていく。
「エディ様、商品である大切な布を申し訳ございません」
「このまま置いておくのも可哀想なので、あと気になっていたのですが僕に『様』は必要ありませんので」
「恩人にそのような無礼なことが出来ません」
即答で返されてしまった。
「オークはどうしますか? 肉はもう食べられそうにないですが、魔石だけ抜きましょうか?」
「そこまでエディ様に手伝ってもらうわけには行きません。モニカ、魔石だけお願いします」
「畏まりました」
モニカさんがオークの魔石を抜き取る作業を始める。することが無くなってしまった。
「オリビアさんはどのくらいの時間で、応援を呼んで来ることが出来るのか、分かりますか?」
「そうですね、オリビアの足なら町までおよそ2時間、呼んで馬車を連れてくるのに1時間の、合計3時間くらいでしょうか」
まだ1時間しか経ってないから、あと2時間も待つのか……色々ボロが出そうだから、出来るだけ会話はしたくないのに。
よし、ちょっとお腹も空いたので、料理でもして時間を潰そう。
大きめの石を集めてかまどを作り。木の枝を集め魔法は見せたくないので、魔道具で火をつけた。オーク肉を取り出し、カットして塩コショウする。
次にフライパンに油を引いて、肉の両面を焼く。ワインとワインビネガーを加え蓋をして、ゆっくり蒸し焼きにして。最後にもう一度、塩コショウで味を調えて完成だ。
醤油やバターなどが欲しいところだが、今後の課題かな。お皿に乗せてヴァイスの前に置いてみると、食べ始める。
『これは少し酸味が効いていて、とても美味しいぞ!』
凄い勢いで食べているな。一応成功したのか? 匂いに釣られたのか、アリシアたちが近寄ってくる。
「エディ様それは何と言うお料理でしょうか?」
「オーク肉のビネガー炒めみたいな感じですかね? ヴァイスが美味しそうに食べてるので、問題ないと思いますが食べてみますか?」
5人が頷く。いや4人と1匹か……いやヴァイスよ、お前は今食べたばっかりだろうが。
結局、自分の分も含め7枚焼いた。1枚多いのはヴァイスがさらに追加注文したからだ。
女性陣が目を見開いて、鬼気迫る勢いで食べているのが非常に怖かった。しかも現在進行形で、何かこそこそと話している。
片づけをしていると、1頭の馬が近づいてくる。
救援を呼びに行ったオリビアさんが帰ってきたのだった。




