第45話 探索
トレントのおかげで使えるようになった蔓は、非常に使い勝手がよかった。
新しく蔓を生やすこともできれば、その辺に生えている蔓や草など、ある程度しなる植物ならコントロールすることも可能だった。しかも魔力消費ゼロという驚異的な能力だ。
試しに千本出しても全然平気なのだが、バラバラの動きは難しく、糸の能力と同じ本数しかできないようだ。ちなにみ練習の成果もあって、自由自在に動かせる本数は2本から3本に増えている。
出してしまった千本の蔓を束にして、ブルドーザーのように瓦礫を押してみたら、綺麗に動かすことができたのだが、操ってみてあることに気がつく。
「エンシェントトレントの蔓ってかなり凄いな。簡単な動きなら命令しておけば、自動で処理できるみたいだ」
『ほう、それは罠とかで使えそうだな』
「凄いよね! 今度ゆっくり検証しないとダメだけど、取りあえず今、一番気になるのはコレだな」
『実に興味深い!』
お前はどこかの天才物理学者か? と思いながら瓦礫をずらした後を見ると、そこには地下へ降りる扉があったのだ。
地下への扉を開けると、階段が現れた。暗闇のため何も見えないので、カンテラを灯して下りていく。階段を下りた先には直線の通路が広がり、左右に扉が2つずつ見える。
順番に調べるため、まず左側手前の部屋に入ってみると、木で作られた樽がいくつか置かれていた。
エンシェントウルフの話によると、100年以上は経っているはずなのだが、入り口の塞がれた暗い地下で空気も流れていなかったせいか、保存状態は良いようだ。
「これはワイン貯蔵庫みたいだね」
『我は飲まないからいらないな』
「へー、意外かな。神様って酒好きのイメージだったよ。結構古いワインみたいだ。貴重かもしれないから持っていこう」
『肉の方が良かったのだが』
「肉はさすがに残っていても、お腹こわすよ。オーク肉を今日は焼くから楽しみにしていてね」
『おお! 早く食べ比べしたいな』
奥の棚にガラス製の瓶を見つける。
「ガラス製品だ! この世界では教会にあるステンドグラスしか見たことがなかったけど、一応あるんだな、色は透明じゃないけど」
地球で無色透明なガラスが作られたのは、17世紀になってからと割と遅い。作り方は分かるので、自分の店舗を持てればチャレンジしてみたいところだが、貴族が力を持っているこの世界で、貴族と絡まらずに商売を続けることは難しい。慎重に進めないと絶対にトラブルが起きそうだ。ガラス瓶のワインも全て収納する。
「この部屋はこんなもんだね。次の部屋を見てみよう」
廊下に出て向かいの部屋に入ろうとした。しかし、ドアを開けた途端に、鼻を突くような悪臭が襲ってきた。今まで嗅いだことのない耐え難い匂いだった。
「うっ、なんだこの臭い!」
『かなりの死臭がするな』
怪しげな拷問器具や無数の骸骨、いたるところについた血痕のような痕、どうやらここは拷問部屋のようだな。
「こんな部屋持ってたり、瓶のワインを持っている、この屋敷の持ち主はかなり悪い人だったのかもね?」
『滅びて当然だったのだろう』
「それに巻き込まれた人たちは、いい迷惑だよね」
気持ち悪いので、すぐ部屋を出て次は右側の奥の部屋に入ると、そこには大きなベッドがあり、その横でミイラを見つけたのだが。
そのミイラはまるで、神に許しを請おうと懺悔をしているかのようなポーズだった。
「……この屋敷の持ち主かな?」
『ここに隠れたまま死んだのだな』
「きっと地下への入口の扉が、落ちてきた物で塞がれて、出られなくなったんだろうな」
『ここはつまらん次に行くぞ』
「そうだね」
最後の部屋へ入ると、そこには金貨や宝石、美術品などがたくさん置いてあった。
「凄い貯めこんでいたんだね」
『こんな物のために、命を落とすとは愚かなやつだ』
持てるだけ持って地下を後にする。
「なんだか1軒目で疲れちゃったね」
『うむ、くだらないものを見せられたな。次こそは食べられるものを探すぞ!』
ヴァイスが元気よく駆け出した。
「100年以上も経ってるのに、食べられるものなんかないよ!」
『我の勘が探せと遠吠えを上げているのだ!』
……食べ物ではないけど見つかりました。砂糖、塩、蜂蜜、そして元林檎酒だったと思われるリンゴ酢、元ワインだったワインビネガー。グラウプニルを切ろうとして折れてしまったナイフの代わりなど。
そういえばビネガーってお酒を醗酵させて作るんだったな。アルコール度数低めで密閉不十分なものに酢酸菌がついたのかもしれない。腹ペコ神獣の勘は凄いな。
火を起こして夕食の準備を始める。前回バンディエンテを焼いたときに思ったのだが、フライパンが小さい。僕1人なら十分なのだが、腹ペコ神獣の食べる量が半端ない。
そこで考えたのが、鉄板焼きスタイルだ。直径80センチ、厚さ6ミリの鋼糸を出す。もはや糸とは呼べないような気もするが、鉄棒を出した時点でアウトだと思うので、気にしないでおこう。もっと薄くすれば火の通りも早いのだが、厚いほうがジューシーに焼きあがると聞いたことがあるので、厚さ6ミリで試してみる事にした。
鉄板が温まってきたところで油を引いて、厚めに切った普通のオーク肉を、塩コショウして焼いていく。
『凄くいい匂いだな! 涎が止まらん』
涎は止めようよ。
「はいっ、まずは普通のオークの肉だよ」
『これは美味いぞ!』
「僕も食べるか……豚肉みたいに肉自体はあっさりして、脂身は甘みがあって美味しいな」
『エディ、おかわりだ!』
「まずは食べ比べだから、次にオークジェネラルの肉を焼くね」
同じようにオークジェネラルを焼く。
『こっちはまた違う美味しさだな!』
「うん、普通のオークより赤身肉が多くて、肉自体の味もしっかりあるね。脂身も凄く美味しいよ」
『次はキングだな!』
「どんな味がするのか楽しみになってきた。それじゃあ、焼くね!」
オークキングの肉は、前の2つとは肉色からして違うのだ。脂身が一切入ってない真っ赤なお肉、全身筋肉ってことなのだろうか。
しかし鉄板に乗せると、どこから出てきたのか肉汁が溢れ出て、凄くいい匂いがした。
『なんという美味しそうな匂いだ! 涎が止まらん』
さっきから流しっぱなしじゃん。
「これは凄いね! 脂身が全くないのに、肉汁が溢れ出てくる不思議なお肉だよ!」
興奮しているというか、口の中に涎が溢れ出てくる……ヴァイスはダラダラに垂れてた。そういえばフェンリルの涎で川ができたとかいう話があったような。ここには作らないで欲しい。
焼きあがったので、早速食べてみる。
1人と1匹が無言で食べる。美味すぎて喋るのがもったいないのだ。
『これは暴力的な味だな!』
「そうだね。これは別次元だよ! どんどん焼くから食べよう!」
……調子にのって食べ過ぎてしまった。2人共お腹がいっぱいで動けない、ヴァイスのお腹なんか、もう1匹ヴァイスがいそうなぐらい膨らんでいる。
時間が経ち、少し動けるようになったので、探索のときに見つけた燻製器を使ってベーコンを作り始める。全てを食べきることは無理なので、保存期間が生より長いベーコンにして持っていこうと考えている。予め下処理しておいた各種オーク肉を燻製していく。
ベーコンを燻して待っている間に、普通のオーク肉を焼いて女性たちの元へ持っていくことにした。決して忘れていたわけではないと言いたい。
コン、コン。ノックをするが反応がない、寝ているのだろうか?
ガチャ。ドタドタと走ってくる音と共に扉が開かれる。
「何ようだ?」
出てきたのはオリビアとかいう女性の騎士だった。僕を警戒しているのか、扉から顔だけを出している。
「オークの肉をたくさん焼いたので、皆さんもお腹が空いているのではないかと思いまして」
お肉のいい匂いに刺激されたのか、オリビアさんのお腹がクゥと鳴り、顔を真っ赤にした。
「あ、有難くいただくことにします」
そういって手を出し受け取り、中に入って行った。扉を閉める瞬間に見えてしまったのだが、彼女はお尻丸出しだった……。
その後、ベーコンの様子を見ながら、僕たちは何かあったら、すぐ対応できるようにエンシェントトレントの樹にハンモックをかけて寝ることにする。魔力の残りは500以下なので合成はできなかった。




