第417話 水路
西の森にウィズラの巣を作ってから数日後、ウィズラたちがやって来て、玉子の安定供給も可能となった。クイーンウィズラの要望により、柵は蔓で作ったけどね。
あとは農地をなんとかしなければならないのだが……。
「これは失敗だな」
「エドワード様、プランターにスライムの糸を入れて何をなさっているのでしょうか?」
ジョゼフィーナが、部屋に置かれたプランターを見て、不思議そうに聞いてきた。プランターの中には、直径十センチのウォータースライムが入っている。
「ウォータースライムに野菜の種を蒔いたら育たないかなと思って試してみてるんだけど、失敗したっぽいね」
「ウォータースライムに種を、ですか?」
ウォータースライムに種を蒔いて水耕栽培が可能なら、水不足対策になると思って実験してみたが、失敗したようだ。ジョゼフィーナは『ちょっと何言ってるか分からない』みたいな顔をしているな。
「野菜は水の中ではなく、土の中です。試すならアーススライムの方がいいのでは?」
アスィミにまで突っ込まれてしまった。水耕栽培なんて概念がないのだからしょうがないが、確かにアーススライムの方が良かったかもしれない。
「おじい様に相談してみるか……」
◆
おじい様とアキラ、クレストたちを集めて相談してみる。
「おじい様、地図を見て思ったのですが、アルクロの北東や北西にある川の近くに農地を作るのはどうでしょうか?」
「クレストよ。地図に描いてある北東の川の付近はどのような状況だ?」
「北東は山から流れている川で、農地を作るには大変な場所かと。作るなら北西の方が適していますが……」
「アルクロから離れ過ぎているというわけだな」
「仰るとおりでございます」
「例えば、農業をする人向けの小さな集落を作るのはどうでしょうか?」
「集落か……残念ながら、その集落の人間を守るだけの余力がないな。この辺りはまだ魔物が結構出るので、平民だけにするわけにもいかないな」
「そうですか……」
なるほど、この世界は魔物が出るので、平民だけの集落を作るというわけにはいかないのか……。
「でしたら、北西の川から水路を作って水を引くのはどうですか?」
「水路を作る? この距離を作ろうと思うと、それだけで何年かかるか……もしかして、エディの能力でなんとかしようというのか?」
「アーススライムの糸を使おうと思います」
「なるほど。それなら短期間で……しかし、領主自らというのもな……」
「アルバン様、エドワード様がなさることはスケールが違うので問題ないのでは? 先日のウィズラの森の柵についても、突然出現したと話題になっております」
「ちょっと待って。クレスト、話題になってるって本当なの!?」
「もちろんでございます。突然、高さ二メートルの柵が森を囲っていれば、噂になるのは当然かと」
玉子のことしか頭になかったな。
「もともと海神を討伐したということで招かれていたのです。それだけで海と生きる者たちにとって畏怖の対象となりますが、エドワード様の怒りを買った結果、マーリシャス共和国とイグルス帝国軍は滅び、フィレール侯爵領になったのです!」
マーリシャス共和国は寝ている間にほぼ滅んでいたし、フィレール侯爵領になったのは陛下の判断なんだけどな。
「フィレール侯爵領となった途端、スライムの井戸を設置したり、食料を配布したりと、今では畏怖は信仰に変わりつつあります。ここで常人には計り知れない御業がひとつ増えたところで、変わりはないでしょう!」
水路を作らない方がよい気がしてきたが、安定した食事のためには気にしている場合ではない。
「なるほど、シュトゥルムヴェヒターを倒したエディだからか……よし、エディの思うようにやってみるがいい。失敗したら……その時に考えればいいだろう」
「ありがとうございます!」
◆
話し合った結果、アルクロ北西の川から分岐させて、街道に沿って新たな水路を造ることになった。
水路の幅は三メートルぐらいで、深さは一・五メートル。増水したときを考えて、堤防や高水敷という常に水が流れる水路より一段高い敷地も用意しておけば大丈夫だろう。
今回は、復興中の住民の手を借りるわけにもいかないので、騎士団を水路のラインを引く班、アーススライムで掘った水路を整地ローラーで固める班、堤防を作る班に分けて作業する。
◆
「うぅっ……ぐぐぐっ!」
「ギャハハハ! アレン、まったく動いてないぞ!」
アレンがタングステン製の整地ローラーを押しているが、ほとんど動いていない。それを見て、ワイルドウィンドのアンディがからかっている。
「うるさい! アンディは押せるのか!?」
「あったりまえだ!」
アンディはそう言うと、タングステン製の整地ローラーを押そうとアレンの下へ向かう。鉄製の整地ローラーでギリギリのアンディに、タングステン製が押せるとは思えないが……。
「よっ、せ、のぉ……っ!?」
余裕だったアンディの顔が、徐々に赤くなっていく。
「ちっ! な、なんだこの重さはっ! うぉぉりゃあああ!」
うるさいだけで、まったく動いていない。アレンの方がまだマシだな。アレンはアキラとおじい様にしごかれているだけあって、伸び率が大きい。
「二人とも、全然動いてないじゃない。シプレ、手本を見せてあげなさい」
「わっかりましたぁ」
今度はシプレが押すのか……アザリエは押さないんだな。
「んっ、んんんんんっ!」
シプレが艶っぽい掛け声を出しながら押すと、タングステン製の整地ローラーが――動いた!
「んっ! んっ!」
掛け声とともにシプレの象徴も上下に揺れる。アレンとアンディの頭も上下に揺れてるな……。
「エディ様ぁ――。凄いですかぁ?」
シプレが手を振るので、振り返しておく。シプレのパワーは凄いな。おばあ様が能力で重さをコントロールしているが、シプレは純粋な怪力だ。
結局、タングステン製の整地ローラーを押せたのは、おじい様、アキラ、シプレ、ノーチェの四人だけだった。僕と身長の変わらないノーチェが押せたのには、みんなも驚いていた。
◆
その後。水路の工事は、あっという間に完成――とはいかなかったが、それでも一ヶ月ほどで完成できたのは早い方だろう。
水路を掘るのはすぐに終わったのだが、堤防を作るのに時間がかかった。
強度が必要なところは、硬化したアーススライムで補強し、その上からモルタルや土で覆っている。いろいろと実験して分かったのだが、スライムの糸は魔力に弱いが、表面を土などで覆うだけでも、魔力の影響を受けなくなるようだ。
もちろん、表面が割れた状態で魔力を浴びれば壊れてしまうが、戦闘以外ではほとんど考えられないため、今回の水路の工事ではかなり役に立った。
おじい様と相談して、今後は住民の家の骨格をアーススライムで作り、その上から漆喰を塗る計画も立てられたので、町の建設も早まることだろう。
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水路の補足地図です
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