第415話 会議
アルクロに帰って来た僕は、みんなと会議をすることになった。
「カザハナを使えばローダウェイクまですぐに行けるのは、大きな収穫だな。しばらくは食糧や資材不足が続くから、すぐに調達できるのは大きい。マルシュが加わるのも助かるし、今回の実験は大成功だな」
「しかし、アルバン様。このまま食料の調達が外部頼みというのも、いかがなものかと?」
「アキラの言うとおりだな。エディ、このフィレール侯爵領、調べてみたところ、かなり問題点の多い土地のようだ」
おじい様が言うと、クレストたちも頷いた。
「どのような問題があるのですか?」
特に今のところ大きな問題はないんだけどな。
「うむ。エディの空間収納庫に、冷蔵庫や冷凍庫があるせいで皆気がついておらぬが……一番の問題は、水と食料だ」
それは確かに問題だな。
「儂らがこの地に来てから、雨が降ったのは数回だけだ。クレストに聞いたが、冬の間だけ多少まとまって降るぐらいで、それ以外は気温も高く、乾燥しているそうだ」
確か、フィレール侯爵領のモデルにしたギリシャのサントリーニ島も雨が少ない土地柄、平らな屋根で雨水を集めているんだったな。
「クレスト。今まで、飲み水はどうしてたの?」
「今はエドワード様に設置していただいた、スライムの井戸がありますが……マーリシャス共和国だった時は、雨水を貯めた水瓶か、ワインですね」
スライムの井戸はレギンさんと共同で作った、魔力を流すとスライムから水が出てくる井戸だ。平民でも魔力を流せる人がいたり、騎士団の人間でも流せるので、水位が下がったら水を補充するようにしている。
「なるほど。飲み水が貴重なことから、農業などに回す分がないのですね?」
「その通りだ。エディはハリーの小さい頃より飲み込みが良いな」
最高の誉め言葉と言いたいところだが、僕の場合、知識があったりウルスがいたりと、かなりインチキがあるので父様はやはり凄い。
「クレスト、マーリシャス共和国って何が主食だったの?」
「圧倒的に多いのは魚になります。穀物では小麦や豆ですが、エドワード様が持っていらっしゃるヴァルハーレン領産の小麦とは違う種類かと」
クレストがサイモンに合図をすると、サイモンが小袋の中から小麦と豆を取り出し、僕に見せる。他にもあるようだが、よく食べるのはこの二つということだ。
『ウルス、これが何か分かる?』
『そうだね……見た感じ小麦は古代小麦の「スペルト小麦」、豆は「レンズ豆」に近いかな。どっちも乾燥に強い植物だね』
スペルト小麦は初めて聞いたが、レンズ豆は聞いたことあるな。
「実は、ヴァルハーレン領産の小麦。美味しすぎるのが、今後問題になってくる可能性がございます」
詳しく話を聞くと、小麦と豆はポリッジ、つまりお粥のように煮て食べるのが一般的で、美味しいパンやパスタなどに慣れてしまうと、とても食べられないとのことだ。
「そう言えば、イグルス帝国とは何を取引していたのか分かる?」
「もちろんです。イグルス帝国はマーリシャス共和国産の塩を大量に購入していたようです」
「イグルス帝国でも塩は作れるよね?」
「戦争ばかりしているから、足りないのだろうな。戦争になると大量の保存食が必要になる。そのためには、大量の塩が必要になるわけだ」
「なるほど。それではそのうち、マーリシャス共和国が無くなったことを知らないイグルス帝国が、塩を買いに訪れる可能性もあるのですね?」
「そうだな。マーリシャス共和国の陥落がまだ伝わっていないとすれば、その可能性もありえるだろう」
バレるまで、色々な物資が補給できそうだな。
「作物については、早急に考えていかないとダメみたいだね」
「いつまでも外部に頼るわけにはいかないからな。とは言っても、儂は農業について明るくないので、クレストたちと相談して決めた方がよいな」
「分かりました。クレスト、後でお願いね」
「承知いたしました」
「ところで、おじい様。ヴァルハーレン領から新しく生まれたクイーンウィズラとウィズラがフィレール侯爵領に来るのですが、どこか良い森はないでしょうか?」
「……ちょっと何言ってるか分からないのだが?」
少し説明が足りなかったようなので、詳しくヴァルハーレン領での出来事を説明する。
「なるほど……まとめると、玉子が安定供給されるということだな」
「そういうことです」
ウィズラのお引越しは省いて、強引に結論だけ飲み込んだようだ。
「近くの森となると、北か西の森か……ワイルドウィンドよ。冒険者としての意見を聞きたい」
ワイルドウィンドの三人がノーラを見る。ノーラに任せたということだろう。
「冒険者にとって価値のある魔物がほとんどいない、西の森がよろしいかと」
西の森に強い魔物はいないようだ。
「それでは、西の森をウィズラの森としよう。エディよ、森の立ち入りを制限した方がよいか?」
「そうですね。ヴァルハーレン領のウィズラの森は、柵が設置されてました」
「柵については、クイーンウィズラが来たら聞いてみてくれ。必要なら、エディの蔓で対応可能か?」
「大丈夫です。任せてください」
「うむ、今は一刻も早く城を何とかせねばならん。エディの能力頼みになってしまうが、頼んだぞ」
「僕の方こそおじい様頼みになってしまって、ありがとうございます」
「……と、当然のことだ。気にするな」
そう言って照れたおじい様の表情は、とても嬉しそうだった。
その後、町のことなどの話をして会議が終了となったので、クレストと農業についての話をする。
「それじゃあ、クレスト。もう少しマーリシャス共和国の作物について教えてもらえるかな?」
「どうせなら、実際に農地を見てみませんか? マーリシャス共和国は、そこまで農業が盛んではないのと、農地も遠くない場所にあるので、見た方が早いかと」
「じゃあ、そうしようか」
◆
馬車でしばらく移動すると、畑が見えてきたが、確かにヴァルハーレン領と比べると小さい。
見たところ、大きなキュウリに白いナス。あとはリッコも育てているのか……何も作ってない畑があるな。
「もしかして、向こうの畑は休耕地?」
「仰るとおり。土壌が弱まってしまうので、交代しながら作物を育てているようです」
二圃制なのか……。ヴァルハーレン領は三圃制だったので気にしていなかったが、もしかして二圃制の方が多かったりするのだろうか?
ヴァルハーレン領では現在、三圃制を辞めてノーフォーク農法の手法で、土地を四つに分け輪作を行っている。生産性は良くなっているという話なので、フィレール侯爵領でも取り入れたいが、クローバーを飼料とする動物がいないのなら、三圃制でもいいのかな。
「ミルクを出す魔物……ピウスフリーシアンをテイムしている人っていないかな?」
「ピウスフリーシアンはいないですね……ただ、ミルクを出す魔物をテイムしている者はいます」
「本当!? なんて魔物なの?」
「アジュール・サーペントホーンという魔物なんですが、町の人たちから恐れられて、テイマーと共に町から離れた所に住んでいるのです」
強そうな名前だな。
「それじゃあ、今から行ってみようか」
「えっ!? 見に行かれるのですか?」
「もちろんだよ! 美味しいミルクなら、ぜひ購入したいからね」
「ミルクは美味しいのですが、かなり気性の荒い魔物でして……」
クレストにしては歯切れが悪いな。
「エドワード様。クレスト様は以前、追いかけられた経験があり、苦手としております」
「サイモン、それは言わないでくれ……」
まあ、犬よりも怖そうな魔物だったら、トラウマになってもしょうがないだろう。
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