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第414話 師匠?

 ジェンカー伯爵と別れた僕たちは、マルシュ君のお兄さん・ルイドさんが街道を整備しているボーデン側にも向かい、街道を開通させた。

 

 その後、サルトゥスでマルシュ君たちと共に、お待ちかねのナイトクラブを堪能する。


 カニの普及活動は、蓋を開けてみれば大成功だった。最初はあの独特の見た目に、カラーヤ侯爵家の人たちも抵抗を覚えていたが、一度口にすれば、その濃厚な旨味の虜になっていた。


 プリプリの身が口の中でとろけ、広がる芳醇な香りは、まさに至福の味。


 気が付けば、皆が我先にとカニに食らいつき、皿はあっという間に空になっていた。


 今後は街道が整備されたことで、カラーヤ侯爵領だけでなく、ジェンカー伯爵領からも、このナイトクラブを目当てに訪れる人々で賑わうことだろう。

 

 カラーヤ侯爵領での滞在を終えた僕は、フィレール侯爵領へ向かうため、メグ姉と共にカザハナに跨り、サルトゥスを出発した。


 そういえば、カラーヤ侯爵からマルシュ君を騎士団に入れるよう正式にお願いされたので、もちろん承諾した。マルシュ君は部下を二十名ほど連れてくるそうで、準備ができ次第フィレール侯爵領へ向かうとのことだ。到着すれば、騎士団の人数は一気に倍増するだろう。


 カザハナは、カラーヤ侯爵領の高い木々の上を翔け、魔の森へと入っていく。


「さて、と。まずは魔の森を抜けないとね」


「そのまま向かっても良かったのじゃないかしら?」


「そうなんだけど、ついでだからセラータに寄ってみようと思って」


「エディがエンシェントトレントから能力を貰った場所ね?」


「そうなんだ。また魔物が住み着いてたら嫌だなと思って」

 

「それはそうね」



 カザハナが木々の上を翔ける様子を、じっくりと見てみる。


 レギンさんが言っていたように、カザハナが自身にかかる重力をコントロールしているのは間違いない。ただ、見ていてもその仕組みはさっぱり分からないまま、セラータへと到着した。



 ◆



「ここが、セラータの町……だった場所。魔物の気配もないし、静かね」


 メグ姉が周囲を見渡しながら呟く。以前、エンシェントウルフと訪れた場所で、あのときはオークが住み着いていたが、今はその気配も感じられなかった。


「本当だね。オークが住み着いていないのは良いことだけど、ここは魔の森だし、他の魔物すらいないのは、ちょっと不自然かな」


『ふむ……恐らく、眷属が縄張りにしているのだろう。それでも寄ってくるのは定期的に片付けているのではないか?』


「なるほど、ヴァイスの言う通りかもしれないね」


 マーキングでもしてるのかな? それはそれで、エリア全体の管理は大変そうだけど……。


「そうだ! 良いことを思いついた!」


 空間収納庫からヴァイスの毛を取り出す。アスィミの村では魔物除けにヴァイスの毛を使っていたのだから、効果があるはずだ。


 どこに設置しようかと見渡すと、元エンシェントトレントの木が見えたので、そちらへ移動してみる。


 エンシェントトレントの木をぐるりと回ると、根元にうろがあったので、その中にヴァイスの毛を入れ、石で蓋をしておいた。


(ワレ)の毛をどうするのだ?』


「アスィミのいた村で、魔物除けにしていたのを思い出したんだよ」


『毛に脅える魔物というのは、どうなのだ?』


「さすがにゴブリンとかには効かないと思うけど」


「エディ、魔の森でゴブリンは他の魔物の餌になっちゃうから入って来ないわよ」


「そっか、ある程度強い魔物じゃないと、魔の森では生きていられないのか」


 一息ついたところで、メグ姉が紅茶を淹れてくれた。カップを受け取りながら、会話を続ける。



「それにしても、カザハナの走りは独特よね。まるで重さを感じさせないわ」


「うん。レギンさんが言ってたけど、カザハナは自分の体重を軽くする能力を持っているみたいなんだ。だから、あんなに大きな体でも木の上を軽々と走れるんだろうね」


 そういえば、カザハナの背に乗っていると、時折ふわりと体が軽くなるような感覚がある。あれが、カザハナの能力なのかもしれない。


「ねえ、カザハナ。その体を軽くする方法、僕にも教えてくれないかな?」


 ダメ元で尋ねてみると、カザハナはブルルと鼻を鳴らし、僕の顔に鼻先を摺り寄せてくる。どうやら、教えてくれるらしい。


「よし、試してみよう!」


 カザハナに乗り、その体に触れながら魔力を集中する。カザハナがどうやって体を軽くしているのか、その感覚を探るように意識を同調させていく。

 すると、カザハナは町の中を走り、時折能力を使って飛び上がってくれる。


 最初は何も感じなかったが、何度か試すうちに、カザハナの体から微かな魔力の流れと、ふっと軽くなるような感覚を捉えることができた。


 その感覚を頼りに、今度は自分自身の体に空属性の魔力を巡らせる。カザハナがやっていたように、体の芯から余分な重さが抜けていくイメージで――


 ――! 今、足元がほんの少しだけ軽くなったような気がした!


「おっ、少しだけど軽くなったかも!」


 今度は、カザハナから降りて自力で試してみよう。


『エディ、頑張るのだ!』


 ヴァイスの応援を受け、さらに集中する。カザハナの感覚を思い出し、魔力の流れをよりスムーズに、より広範囲に行き渡らせる。


 徐々に体が軽くなっていくのを感じた。まるで羽毛のように……とまではいかないが、確かに体重が軽減されている。


 試しにジャンプしてみると、かなりの高さまで飛び上がることができた。


「やった! できたよ、メグ姉!」


 ジャンプしながら報告する。


「凄いじゃない、エディ! もうコツを掴んだのね!」


 ところが――高く飛び上がったその瞬間、制御に失敗し、急に落下速度が加速する!


「ヤバい!」


 そう叫んだ瞬間、カザハナが飛び上がって僕を背中で受け止めてくれた。


「カザハナ、ありがとう」


「エディ、大丈夫?」


「うん……慣れてきたと思ったけど、コントロールが甘かったみたい」


 反省して、しばらくは魔力を自然に流せるよう練習することにした。


 魔力の流れに集中していると、重力をコントロールしようとした時、魔力が左足から流れているような感覚がある。魔力って、用途によって流れる場所が違うのだろうか?


 

 ◆



「かなりコントロールできるようになってきたかな。そうだ! メグ姉にも試してみていい?」


「もちろん、いいわよ」


 今までは無機物しかできなかったけど、今ならいける気がする。


 一度深呼吸してから、メグ姉に意識を集中する。僕が自分を軽くした時と同じように、空属性の魔力でメグ姉の体を包み、その重さを軽減していく。


「メグ姉、いくよ!」


「ええ!」


 そっと抱きかかえる。


「きゃっ……!」


 小さな声を上げたメグ姉を、羽のように軽く持ち上げることができた。


「成功だ!」


 そのまま自分も軽くして、メグ姉を抱えたまま走ったり、ジャンプしたりすると、まるで力持ちになった気分だ!


「ちょっと、エディ。はしゃぎ過ぎよ!」

 

「ごめん、あまりにも上手くいったので、つい……」


「ふふっ。こんなにはしゃぐのは、初めて糸を出せた時以来じゃない?」


「そんなこともあったね! カザハナ、ありがとう!」


 撫でてやると、カザハナはどういたしましてと言わんばかりに頬を摺り寄せてくる。


 セラータで十分に休憩を取った後、僕たちは再びカザハナに乗り、フィレール侯爵領のアルクロの町へと出発した。


 道中、自分とメグ姉の体重を軽減させてみる。その結果、カザハナの負担は格段に減り、以前よりもさらに速く森を駆け抜ける。


 そして――


 僕たちは驚くほどの速さで踏破し、あっという間にアルクロへ到着することができたのだった。

『糸を紡ぐ転生者2』5/30日にKADOKAWAから発売されました!


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