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第412話 再会

 朝焼けの空の下、城の前には見送りの家族たちが並んでいた。

 

「エディ、それじゃあカラーヤ侯爵の件は頼んだよ」


「任せてください! それでは、行ってきます!」


 カザハナに合図を送ると、来た方向とは別の方角へと走り出した。


 カザハナは水面を駆け、プレジール湖を渡ってそのまま魔の森へと入っていく。朝の漁をしていた漁師を驚かせてしまったので、次回は時間帯に気をつけた方がいいな。


 今回、魔の森に来たのは、カラーヤ侯爵領のサルトゥスへ向かうためだ。


 現在、王国では開拓ラッシュの真っ最中で、あちこちで新たな街道が整備されている。とくにイグルス帝国が怪しい動きを見せているため、魔の森側にある町々をすべて街道で結び、監視や連携がしやすいようにする方針らしい。


 サルトゥスから、ジェンカー伯爵領のヒルハイム、ハットフィールド公爵領のボーデンへと道を繋ごうとしているのだが、以前も苦戦した堅い木々が立ち塞がっており、作業は難航しているという。


 切り倒した木材は、大量の資材が必要となっているフィレール侯爵領へ持って行ってもよいなどの話があったため、今回の仕事を引き受けることにしたのだった。


 

 ◆


 

 しばらく進むと、カザハナは急に開けた場所へと降り立った。


「カザハナ、どうしたの?」


 そう口にした瞬間、目の前に現れたのは、懐かしい白銀の巨体。


『少年よ、また会いましたね。(あるじ)もお元気そうで何よりです』


「エンシェントウルフ! お久しぶりです!」


『うむ、(ワレ)は実に元気だ』


『久しぶり……でしょうか?』


 二年も経っているので久しぶりのはずなのだが、エンシェントウルフにとっては違うようだ。


『眷属よ、人は刹那的な時間を生きる。我らとは時間の尺度が違うのだ』


『なるほど。確かにそうですね』


 出た! ヴァイスのいうことは全肯定の狼界のメグ姉。今回は本物のメグ姉もいるし、新旧メグ姉の競演……いや、エンシェントウルフの方が元祖か。


「ところで、エンシェントウルフはどうしてここに?」


『異変のあった森の様子を見てきた帰りです』


「異変って……イグルス帝国の町を飲み込んだ件ですか?」


『そのイグルス帝国というのは分かりませんが、エンシェントトレントがトレントと共に町を襲った件ですね』


 やはり、イグルス帝国で間違いないな。


「どんな状態だったのか、聞いてもいいですか?」


『構いません。といっても、トレントたちの怒りが激しく、エンシェントトレントのもとには辿り着けませんでしたが』

 

 飲み込まれた町の周辺では、トレントたちの怒りが激しく、近づく者を見境なく串刺しにしているらしい。トレントたちを破壊しながら進めば辿り着けるかもしれないが、そこまでする必要もないと判断して帰ってきたそうだ。


『あの様子ではエンシェントトレントも同じ状態でしょう。それにしても、以前より少年からエンシェントトレントの力を感じますね』


「それは……」



 ニルヴァ王国で新たに力をもらったことを説明した。



『エンシェントトレントが力を……ですか。なるほど、主が少年を面白いと言った理由が分かったような気がします。さすが主です』


『そうだろう! 我は凄いのだ!』


 今までは疑っていたのだろうか……。


『それで、少年はこの森に何の用で?』


 カラーヤ侯爵領へ向かっていることを説明する。


『なるほど、少年の話によるとイグルス帝国がいろいろと関係してるようですね。十分に気をつけた方がいいでしょう』


「ありがとうございます。エンシェントウルフは住処に帰るのですか?」


『そうですね。私は主のいたあの場所が一番落ち着きますから。それでは、また会いましょう』


 そう言った瞬間、エンシェントウルフは目の前から消え去った。


「それじゃあ、僕たちも行こうか」

 

 カザハナの背に乗って、カラーヤ侯爵領を目指し、その後は何事もなくサルトゥスの町に到着した。


 

 ◆



 サルトゥスの町は、前回訪れた時よりもさらに拡張されており、現在も工事が進んでいるようだ。


 館に近づくと、カラーヤ侯爵夫妻が出迎えてくれた。


「やはり、エドワード様でしたか。部下から報告が入っておりましたが、本当に単騎で来られたのですね」


「はい。今後、フィレール侯爵領とヴァルハーレン大公領を行き来する必要がありますので、このカザハナの全力を試す意味でも、単騎で移動しておりました」


「確か、ニルヴァ王国の王族が使用するというロイヤルカリブーでしたな。雪以外でも早いとは、驚きですな」


「そうですね。元々カザハナは、ロイヤルカリブーの中でも最速の個体だったようです。それで、街道の整備の状況はどうでしょうか?」


「モイライ商会で作ってもらった特注の斧のおかげで、以前よりは幾分かマシになりましたが……。ルイドにはボーデン方面、マルシュにはヒルハイム方面の道の整備を指揮させておりますが、どちらも苦戦しております」


 なるほど。レギンさんは堅い木の存在を知っていたから、それを伐採できる斧を特注で作ったのか。


「それでは、早速手伝いに行こうと思いますが、どちらの方がいいとかありますか?」


「そうですな……それでは、マルシュの方からお願いできますでしょうか?」


「分かりました。それではマルシュ君の方に行ってきますね」


「移動でお疲れでしょう。一度休憩されては?」

 

「大丈夫です。久しぶりにマルシュ君にも会いたいので、そのまま向かいますね!」



 ◆



 伐採所に近づくと、木を斧で打ち付ける音……というよりは、まるで金属を叩いているような甲高い音が聞こえてきた。


 僕たちの姿が見えると、一瞬警戒されたが、すぐに解除された。


「エドワード様!」


「マルシュ君!?」


 近寄ってきたマルシュ君を見て、思わず驚く。身長が百八十センチ近くもあり、周囲の大人と同等か、それ以上だ。これが、十四歳の成長期の力か……。


「エドワード様?」


「ごめん、マルシュ君の身長がすごく伸びていたから驚いたんだ」


「それが、ここ半年で一気に伸びまして……。着るものがすぐに合わなくなって困っております」


 僕もそんな悩みを一度は抱えてみたい。まあ、能力でサイズ調整できるようになったけどね。


「街道の木の伐採、かなり頑張ってるみたいだね」


「はい! 以前は斧がすぐ駄目になっていたのですが、モイライ商会の斧に変えてから、少しずつ進むようになりました!」


 以前はほとんど切ることができなかったことを思えば、大きな進歩だ。ただ、まだジェンカー伯爵領までの三分の一ほどの距離といったところか。


「それじゃあ、ここから先の堅い木は僕が切るから、それ以外の木はお願いできるかな?」


「エドワード様が手伝ってくださるのですか?」


「そうだよ。魔の森の安全のためにも、早く開通させたいってことで、父様に頼まれているんだ」


「大公様から……」


 あれっ、なんだか悔しそうな表情……。そうか、遅れてるから手伝いに来たと勘違いされてるのかもしれない。


「マルシュ君も知ってると思うけど、現在フィレール侯爵領では資材が不足しているから、切った木をもらえるのは助かるんだ。それに道が早く完成すれば、マルシュ君もフィレール侯爵領に来られるんだよね?」


 父様から聞いた話では、当初すぐに来る予定だったが、道の整備の話が出て延期になったらしい。


「エドワード様は……私を必要としてくれているのでしょうか?」


「もちろんだよ! 早く来て、僕を手伝ってくれると嬉しいかな」


「エドワード様が……私を……」


 マルシュ君が空を見上げた。どうやら、僕の気持ちはちゃんと伝わったようだ。

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