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第411話 空属性

 ウィズラの森での目的を果たし、帰路についた僕たちは、途中でピウスフリーシアン牧場に立ち寄った。


 もちろん、少なくなってきた空間収納庫内の牛乳の補充が目的だ。


 牛舎に近づくと、いつものピウスフリーシアンたちがのんびりと草を食んでいるのが見えた。こちらも以前は十頭だったが、順調に数が増えている。


 しかし、僕の姿が見えた瞬間。


「モモォォォォーー!!」


 突如として、近くにいた三頭が駆け寄ってきた。


「うわっ!」


 とっさに糸でバランスを取りながらかわすと、ピウスフリーシアンは僕の前でピタリと止まり、満足そうに頭を擦り寄せてきた。……かわす必要はなかったな。


「エディは随分と懐かれているのね?」


「牛舎を作ったときは、賢いとは思ったけど懐いてなかった気がするんだけど」


 メグ姉と話していると、ヒコヴォシが走ってきて、慌ててそのピウスフリーシアンを引き離した。


「すまねぇですだ! エドワード様に興奮したですだ!」


 誤解がないように言っておくが、興奮したのはヒコヴォシではなくピウスフリーシアンである。


「以前来たときは寄って来なかったと思うけど、何か理由でもあるの?」


「エミリア様から聞いておられないです?」


「エミリアから? 何も聞いてないな」


 話をまとめると、牛乳の出が悪かった時期に、僕の匂いが染みついた古い服を持ってきたところ、出が良くなったらしい。それ以来、牛舎に置いてあるそうだ。


 まあ、安定した牛乳の確保は必須なのでいいのだが、僕の服に行きついた経過は知りたいので、今度エミリアに聞いてみよう。


 牛の嗅覚は犬よりも優れているという話なので、本物? の僕が現れたことにより、ピウスフリーシアンが集まってきたのだな。


 匂いの元が現れたピウスフリーシアンの乳の出は凄かったようで、すぐに補充が完了した。


 残念ながら、奥さんのオリュヒメーは今回も出かけていて会えなかったのだが、ヒコヴォシの妄想でないと信じたい。


 補充が完了した僕たちは館へと戻る。


 

 ◆


 

 その晩、シュトゥルムヴェヒター研究施設に向かう。


 レギンさんも、しばらくフィレール侯爵領にいることになるので、シュトゥルムヴェヒターを回収してくるように頼まれていたのだ。


 フィレール侯爵領にも研究施設を作る必要があるなと考えながら、シュトゥルムヴェヒター研究施設へ降りていく。


 広大な水中ドームの中には、シュトゥルムヴェヒターが静かに横たわっていた。闇に浮かぶその巨体は、まさに神話の怪物のようだ。


「……さて」


 空間収納庫に巨大なシュトゥルムヴェヒターを収納する。かなり荷物が入っているにもかかわらず、まだ余裕がありそうだな。


「持って行くのかい?」


 突然背後から声をかけられた。


 「おばあ様!?」


 背後にいたのはおばあ様だった。突然声をかけられたので驚いてしまった。


「おばあ様、どうしてここに?」


「エディが歩いて行くのが見えただけよ」


「そうだったんですね。レギンさんから持って来るようにお願いされたんです。そうだ!」


 僕は慌てて空間収納庫から、レギンさんに託された武器を取り出す。


 おばあ様のために作られたその白銀色の武器は、今まで使っていたハルバードとは違い、両側に斧刃を備えた、ハルバードというよりは三国志演義に登場する方天画戟(ほうてんがげき)を思わせる一振りだった。


 これはおばあ様の使い方を見て、僕が提案したものだ。今回は簡単に曲がらないと思ったので、おばあ様に相応しく金や緑の宝石などで装飾を施してある。


「芯の部分に新素材のアダマンドを使用しているので、以前より遥かに強度がアップしています。ただ、おばあ様には軽すぎると思いましたので、炭化タングステンで重さも増しています。刃を両側につけたのも、おばあ様の戦い方に合っていると思ったのと、重量を増すためです」


 おばあ様は静かに手に取り、構えた。


「……ふむ。良いバランスだね。柄の太さも文句ないし。重さも丁度いい。いい感じね」


 目を細め、満足そうに頷く。


「それなら、よかったです」


「それでエディは、シュトゥルムヴェヒターで何を作るつもりなんだい?」


「空を飛ぶ移動手段にしようと思っています」


「……エディのことだから何か考えがあるんでしょうけど。シュトゥルムヴェヒターが空をね……」


 飛行船や気球など、空飛ぶ乗り物の知識ないので想像が難しいようだ。


「今後、イグルス帝国と戦うようになったとき、兵士を素早く移動する手段が必要になります。そうなった時のために用意しておきたいのです」


「そこまで考えていたのね」


「はい……実は、おばあ様に相談したいことがあります」


「あたしにかい?」


 僕は少し迷いながらも、意を決して口を開く。


「おばあ様。レギンさんに()()()の話をしてもよろしいでしょうか?」


 おばあ様の表情が一瞬だけ曇る。


「理由によるね。もしかして、シュトゥルムヴェヒターを飛ばすのに関係するのかい?」


「はい。どこまでできるのか不明ですが、この話をレギンさんにしたとき、『面白そうじゃ』とは言いましたが、『無理だ』とは言わなかったのです」


「なるほど。確か、日記に空属性の力を魔石に込めることが書いてあったということは、レギンの能力はもしかしたら魔石に関係するのかもね」


「はい、もしそうだとしたら、隠したい能力だと思うので、僕も空属性について話した方が良いと思いまして」


「…………」


 長い沈黙のあと、おばあ様はぽつりと呟く。


「あのバカでかい魚が空をね……」


「はい。魔石でどこまでできるのかわかりませんが、シュトゥルムヴェヒターの重さを限りなくゼロに近づけることができるのなら、最低でも浮かせることは可能なはずです」


 おばあ様はしばらく黙っていたが、やがて微笑みを浮かべた。


「おもしろいわね。レギンに話していいわよ。ただし、情報の取り扱いは注意するのよ?」


「ありがとうございます!」


「……それにしても、あたしにも新しいオモチャが届いたことだし、少し体を動かしたくなってきたね」


 おばあ様はハルバードの石突で、軽く地面を叩く。見た感じ軽くだったのに、少し床がひび割れる。


「……おばあ様、ここ、プレジール湖の中ですからね?」


「分かってるよ。手加減したさ」


 おばあ様はそう言って、愉快そうに笑ったのだった。

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