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第410話 乱視?

 フィレール侯爵領へ出発する前に、購入した食材を空間収納庫へしまいながら、在庫の確認をしていた僕は、思わず声を漏らした。


「……あれ、玉子、こんなに少なかったっけ?」


 ウィズラの玉子の残りは、数えてみると、たったの三十個ほどしかない。


 毎朝の朝食、昼食の軽食、スイーツやお茶会でのプリンにケーキ。玉子を使う場面は数えきれない。となれば、すぐに底をつく可能性もあるだろう。


「これは……補充しておかないと」


 僕は軽く背伸びをし、空間収納庫を閉じると、軽装の上着を羽織って広間へ向かう。


 ちょうど、朝食を終えたメグ姉とおばあ様が、紅茶を楽しんでいるところだった。


「メグ姉、おばあ様。ちょっとウィズラの森に行ってくるよ。玉子の在庫が少なくて」


「あら、それなら私も行くわ」


「おもしろそうだから。あたしも行くさ」


 おばあ様はそう言って、ニヤリと笑うが、玉子を貰いに行くだけなので、おもしろそうなことなんて起きないと思うんだけどね。


 こうして、僕、メグ姉、おばあ様というお馴染みのメンバーで、牧場近くにある()()()()()()へと出発することになった。

 


 ◆


 

 森の輪郭が見え始めた頃、僕はある違和感に気づく。


「……あれ? 柵が……設置されてる?」


 森の周囲が木製のしっかりとした柵で囲まれており、入口には二人の警備兵が立っていた。入口は閉じられていないが、明らかに関係者以外の侵入を制限する空気が漂っている。


「エディ様、いらっしゃいませ。ご用件は玉子の補充でしょうか?」


「ああ、そうだよ。入って大丈夫かな?」


「もちろんです。お気をつけてどうぞ」


 警備兵たちは快く通してくれたが、まさか森にまで警備が配備されるとは思っていなかった。ということは、それだけウィズラの森が注目されているということだろうか?


 柵の中に足を踏み入れた途端。


「……木の上だけじゃない。地面にも……ウィズラの巣?」


 目の前に広がっていたのは、僕の記憶にある()とはまるで違う光景だった。


 かつては木の高い位置に巣を作り、枝葉の間で静かに暮らしていたウィズラたちが、今では地上にまで巣を構えていた。木の根元や灌木の下。藁や枝で丁寧に編まれた巣があちこちに点在し、中には大小さまざまな玉子が納まっている。


「ウィズラの巣が地面に……私も初めて見るわ、こんなの」


 メグ姉も驚いた様子で辺りを見回している。元冒険者のメグ姉も初めて見るようだ。


「元々は木の上を好む習性のはずだけど……これはどういうことなんだ?」


「そういえば、ハリーが言ってたわよ。森を守るために柵を設置して見張りをつけたら、危険が減ったのか、ウィズラたちが地上にも巣を作り始めたって」


「なるほど……脅威が少なくなったから、地上での生活を選ぶようになったってことか。つまり、それだけ繁殖も順調だったってことだね」


 周囲のウィズラたちは、僕らの姿に特に驚くこともなく、まったりと羽を休めていたり、餌をついばんでいたりする。森全体に、平和で穏やかな空気が流れていた。


「ちょっとした保護区みたいになってるね」


 そんな会話を交わしながら、僕たちは森の奥へと進む。


 やがて、例のツリーハウスのある木の下へと到着した。


「梯子じゃ時間がかかるから、バケットで上がろうか」


 手早く蔓で編んだ簡易リフトを作り、三人で上へ上がる。



 ◆


 

「……え?」


 ツリーハウスに辿り着いた瞬間、僕は思わず目を疑った。


 ツリーハウスの上、そこに見えるのはクイーンウィズラが二羽……?


 一羽だけだったはずのその隣に、もう一羽そっくりな姿が並んでいる。


「……まだ目が悪くなったわけじゃないよな……?」


『片方は食べても問題なさそうだな?』


「ヴァイスにも見えるのなら本当に二羽いたのか。あと、事情が分かるまでは食べないでね」


 いや、事情が分かってもだめだった。


 

 ◆



「ギョエッ」


 近づくと、左側のクイーンウィズラが右の羽を挙げて多分挨拶している。つまり、以前からいたクイーンウィズラは左側なんだろうが、見分けがつかない。


「スノー。右のクイーンウィズラは誰か聞いてもらえる?」


「ピィ! ピィ、ピィッ?」


「ギョエ! ギョギョ」


「ピピィピィ」


「えっ!? 娘なの!」


 あの時のクイーンがいつの間にか娘を産んでいたとは。成長の早さも驚きだけど、なんというか……本当に見分けがつかない。


「ギョギョギョ?」

「ピピッ」

「ギョエ」

「ピィピィ」

「ギョギョギョ」

「ピピッ」

 

 クイーンウィズラが何を話しているのか分からないが、スノーの返しから判断すると「最近見なかったわね?」的なことだと思う。


 それにしても、人間にも「ギョギョギョ」って言う人、どこかにいたような気がするんだけど……うん、思い出せないので気のせいということにしよう。


「スノー、この場所って、やっぱり手狭だよね? もう一つツリーハウスを作るって提案、してもらっていいかな?」


「ピッ!」


 スノーが了解と、左の羽を挙げる。スノーって左利きなんだろうか……。


「ピピッ、ピィ?」

「ギョギョ」

「ピィピィ」

「ギョギョギョ」

「ピピッ」

「ギョエッ」

「ピッピ、ピピピ」


 激しさはないが、テンポの速いやりとりが続く。


「スノー、それ本当なの?」

「ピッ!」


「ちょっと、エディ。私たちには何が起きてるのか全然分からないんだけど? このままじゃ、小鳥に話しかける可愛いエディしか分からないわ」


「マルグリット、もう少し見ていても良かったんじゃない?」


 メグ姉とおばあ様、やけに静かだと思ったら僕を観察していたのか……。


「右のクイーンウィズラは娘だそうです。そして……娘はこの森の寒さが苦手だから、フィレール侯爵領の環境が合うなら、移住してもいいって」


「フィレール侯爵領でも安定して玉子が手に入るのはいいわね」


「エディ、フィレール侯爵領は遠いけど、ウィズラたち、自力で移動できるの?」


 そうだ。その問題があった。


「確かにそうですね。スノー、聞いてもらえるかな」


「ピッ!」


 スノーは任せて! とクイーンウィズラに話を聞いてくれる。ウズラはキジ科の鳥の中では唯一の渡り鳥とされているのだとか、ウィズラが同じなのか知らないけどね。


「なるほど。ウィズラは長距離移動が得意なんだって」


「それなら安心ね」


「じゃあ、こっちで新しいツリーハウスを用意して、餌の準備もしておくね!」


 そういうと娘のクイーンウィズラは右羽で器用にサムズアップを決めたのだった。

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