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第408話 帰還の報告

 ローダウェイクの城門が見えた瞬間、メグ姉が口を開いた。


「……本当に、着いちゃったのね。まだ三日しか経ってないのに」


「森だけのルートがあればもっと早く着きそうだね」


 カザハナは木の上なら、何も気にすることなく全速力で走れるのだが、森が途切れた道を走る場合、早すぎて人にぶつかる可能性があるためスピードを落とさないとダメみたいだ。


「この距離を三日で移動できるのなら十分じゃないかしら? カザハナが早すぎて体の方がもたないわ」


 途中からスライムクッションで衝撃を吸収したけど、体にかかる重力まではどうにもならない。カザハナに重力のコントロールの仕方を習えれば一番いいんだけど。

 


 ◆


 

 城の中へ入ると、父様と母様、それにおばあ様がすぐに出迎えてくれた。


「エディ、予定よりずいぶん早かったね! 早すぎて驚いたよ」


 父様や母様には出発前に言ってあるので、来ることは分かっていたのだが、その時は七日ぐらいかなと話していたのだ。


「カザハナの能力は予想以上ね。カザハナ、あたしもいいかしら?」


 おばあ様が言うと、カザハナも『いいわよ』といった感じでファーレンの方へ向かって駆けて行った。


「カザハナちゃん、疲れてないのかしら?」


「どちらかというと、乗ってるだけの僕たちの方が疲れましたからね」


「中で詳しく話を聞こう」



 ◆


 

 紅茶を飲みながら一息つく。そういえば、コーヒーって見たことないな。タンポポの根から作るタンポポコーヒーなら作れそうだから今度探してみよう。


 それよりも気になるのはこのお菓子……。


「王都でエディが作ったマカロンより大きいわね」


 そう、メグ姉が言うように、王都でロブジョンやピエールに教えたサイズより遥かに大きい。間にクリームが挟まっているものもある。


「マカロンを召し上がったクロエ様が、もっと大きなサイズで食べたいということで、このサイズになりました」


 ピエールが答えた。さすがおばあ様! 確か、大きなマカロンを韓国語で「トゥントゥンハンマカロン」(太っているマカロン)、略して「トゥンカロン」といったはずだ。まあ、指摘すると面倒なので、大きなマカロンで十分だろうけど。


 ヴァイスはお皿に積み上げられた巨大マカロンを美味しそうに次々と食べている。


「父様と母様は普通のサイズなんですね?」


「そのサイズのを食べたらすぐにお腹がいっぱいになっちゃうからね。お茶菓子にはこのサイズがちょうどいいよ」


 おばあ様の胃の中にブラックホールでもあるのだろうか……重力を扱うだけに?


「それにしても、三日で移動できると分かっているだけで安心感が違うから、カザハナの件は嬉しい誤算だね」


「そうね、一カ月に一度は帰って来てほしいわ」


「そういえば、プラータまでの道を整備した際に出てきた木材などを集めてあるから、帰りに持って行くといい」


「父様、ありがとうございます。資材は助かります」


「本当はトゥールスまでの道と、ベルティーユ侯爵領のキュアノスまで整備した際に出た木材もあるのだけど、トニトルス公爵もこれから資材が必要になるからね」


「イグルス帝国に進軍するのでしたね。王国としてはそちらが最優先でしょうね。僕の方はヴァッセル公爵も協力してくれているので安心してください」


「ところでエディに相談があるんだ」


「僕にですか?」


 父様はそういうと地図を広げた。


「イグルス帝国のシュトライトの町付近の調査をしたところ。本来、シュトライトから次に向かう町はトロンデアなのだが、森に侵食され近寄ることができない。念のため確認だけど、魔の森には手を出さない方がいいんだよね?」


 父様はヴァイスに聞いてほしいようだ。ヴァイスは興味ないと言わんばかりにマカロンを食べているけど。


「ヴァイスはどう思うかな?」


『何の話だ?』


 顔を上げたヴァイスの口の周りにはまだマカロンの粉が大量に付着して可愛い。どうやらマカロンに夢中で、話を聞いていなかったようだ。ヴァイスはのんびりとした様子で口の周りの粉を舐め取る。


「エンシェントトレントに飲み込まれた森は入らない方がいいのって話」


『……ふむ。エディよ。今の森がどんな状況かは知らぬが、以前行った森については、我が眷属より話を聞いておる』


「エンシェントウルフから?」


『あの森を飲み込んだエンシェントトレントは、長き年月をかけて徐々に意識を失い、ただの木となり、やがて風に揺れるだけの存在と化すのだ』


「じゃあ、今はまだ……意識が?」


『可能性は高いだろうな。エディが能力をもらった時のように、数百年も経た後でもわずかに力を残していたぐらいだ。数年やそこらなら、まだ怒りで暴走した状態だろうな』


「暴走?」


『近づく者すべてを攻撃すると言っておったな。眷属も攻撃されたらしいぞ』


「エンシェントウルフを攻撃するんじゃ僕たちが入ってもダメそうだね」


『エディなら入れるかもな』


「エンシェントウルフでもダメなんだから、僕でもダメじゃない?」


『忘れたのか? エディはエンシェントトレントから能力を二つももらっているのだ。いける気がしないか?』


「……そんな都合よくいくかな?」


 ここまでの話を父様たちに説明する。



「なるほど、確かに森を覗いたところ、木の枝でめった刺しになった死体が無数にあったそうだ」


「近寄らない方が無難そうですね」

 

「ヴァイスちゃんの言うようにエディなら行けそうだわ」


「母様、エンシェントウルフでも無理なんですよ?」


「僕もフィアと同じで、エディなら大丈夫なような気がするけどね。ただ、トニトルス公爵から相談を受けているだけなので、今のところ行く必要はないよ」


「そうなんですね。ところで、地図を見るとシュトライトからシュミットに道を作るのは難しいのでしょうか?」


「そこには大きな山があって、街道を整備するのが難しいらしいよ」


「だとしたら、シュトライト付近を手に入れてもあまり意味がないのですね?」


「そうなんだ。頑張れば魔の森付近に道は作れそうだけど、大きな街道は難しいみたいだね」


 基本的にヴァーヘイレム王国とイグルス帝国の間には大峡谷があり、行き来できない。


「確か以前、ブラウが帝国軍を招き入れたときは、峡谷の狭い所に橋を作ってシュミットから招き入れたんですよね?」


「なるほど、現在はトニトルス公爵領だから、同じ位置に橋を作れば渡ることができるな。邪魔をされなければだけど……」


 そうか。イグルス帝国に内通していたブラウの時と違って、邪魔される可能性があるのか。


「進軍するタイミングでエディがスライムの糸で橋を作れば、一気にシュミットを落とせる可能性はある。占領したあと正式な橋を架ければ、今後の進軍にも役立つだろう」


「占領してしまえば邪魔される心配も少ないですからね」


「エディがライナー男爵領で橋を架けた話はすでに周知の事実だ。進軍の際にはエディに手伝ってもらわないとダメだけど、この案をトニトルス公爵に提案してみてもいいかな?」


「まだ峡谷を見たことはありませんが、元々人の手で橋を架けられていたのなら、間違いなく架けられるので大丈夫です!」


 実はどのくらい大きいのか見てみたかったんだよね。


「ありがとう。トニトルス公爵にはそう言っておくよ」


「そうだわ! エディ、マーちゃんの所に行くわよ」


「マーウォさんの所にですか?」


「頼んでいた指輪が完成したのよ。とても素敵な出来だったわ」


「それは楽しみですね!」


 マーウォさんの所へみんなで向かうことになったが、珍しく父様も付いて来るようだ。


 ――――――――――

 現在の王国周辺マップです。

挿絵(By みてみん)

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