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第406話 案内

 折角婚約者の四人が来てくれたということで、復興中の町を案内することになった。復興には何年もかかり、結婚すればフィレール侯爵領に来ることもあるだろう。現在の状況を知ってもらうのはもちろん、四人の意見も聞きながら、町の未来を一緒に考えていきたい。



 館の前で馬車の準備を整え、アザリエたちとどこを見てもらうか相談していると、エリーが元気よく手を振りながら走ってきた。


『エディ様! 早く行きましょう!』


「エリー、エドワード様を急かしてはダメですよ?」


 隣にいたノワールが、微笑みながらエリーに注意するが、その顔は早く行きたそうに見える。


「ふふっ、エリーらしいですね。でも、焦らなくても町は逃げませんよ?」


 ロゼが落ち着いた口調で諭すと、エリーはむぅっと頬を膨らませる。


「エドワード様、私も早く町を見てみたいです!」


 フラムがエリーに賛同すると、エリーは嬉しそうにフラムに抱きつく、フラムもすっかり三人と打ち解けているな。


「分かったよ。じゃあ、みんな乗って」


 四人を乗せ、復興中の町へと向かう。



 ◆



 最初に訪れたのは、仮設の商店街だった。蔦で作られた簡易的な建物が立ち並び、商人や職人たちが商品を並べている。戦火によって多くの店が失われたが、それでも活気は戻りつつあった。


 ロゼが、驚いた様子で周囲を見渡す。


「これは、初めて目にする変わった建物です……もしかして、エドワード様が?」


 そういえば、以前、ロゼとファンティーヌの城で、蔓で作ったバケットに乗ったことがあったな。


「そうだよ。町の復興を少しでも早めるために、簡易的な店舗を用意したんだ」


「確かに、こうすればすぐに商売が再開できますね。それにしても、以前エドワード様が作られた、蔓の乗り物とまったく違うのですぐに分からなかったです」


「蔓を結合できるようになったり、慣れてきたのもあって、かなり上達したかな」


「さすがエドワード様です!」


 フラムたちも感心しながら建物を見ている。


『モイライ商会があります!』


 エリーが驚いて指差した方向にはモイライ商会出張所があった。出張所は親衛隊のメンバーが日替わりで店番しており、今日は撫でられ隊の番のようだ。


「エドワード様に、奥様方。視察でございますか?」


 みんなで近くに行くと、僕たちに気がついたリーリエが声をかけてきた。ちなみに、まだ奥方ではない。


「「「奥様方!」」」


 エリー以外の三人が反応し、顔が赤くなった。


『みんなピンク色になりました』


 エリー、色が見えない僕でも分かったから、解説するのは止めなさい。


「エリー様、まだ本格的なお店ではないので、ぬいぐるみは置いてないのです」


 リーリエがエリーに説明した通り、モイライ商会出張所は食べ物や服などを格安で売ったり、物々交換して物資不足に対応しているのだ。


 フラムは、店奥に並ぶ剣を興味深そうに見つめた。


「装備なども取り扱っているんですね。それも良い品ばかりです」


 フラムに剣の良し悪しが分かるとは、意外な一面もあるようだ。


「最低限だけどね。でも、冒険者ギルドからの依頼もあって、徐々に品揃えは増やしているんだけど、剣が好きなの?」


「はい、実はおじい様が『魔術しか使えない儂のようになるな』と口癖のように言ってまして、お父様もそうですが、わたくしも剣術を学んでいるのです。姉はおじい様のようになりたいから嫌だと言ってやりませんでしたけど」


「そうだったんだね! ここには普通の剣しか置いてないから今度フラム用の剣も作ってもらおうか?」


「ありがとうございます!」


 思った以上に剣が好きなようだ。


 四人はそれぞれ、商店街の賑わいに興味を示し楽しんでいた。



 ◆


 

 次に向かったのは、旧マーリシャス共和国の貴族たちが使っていた屋敷だ。戦火を逃れたいくつかの建物がまだ残っており、再利用できるものがないか調べる予定のひとつ。マーリシャス共和国が初めての四人に、マーリシャス共和国の文化を取り壊す前に見てもらおうと連れて来た。


「この屋敷は、元マーリシャス共和国の元貴族が使っていた建物なんだ」


 ロゼが、興味深げに壁の装飾を撫でる。


「まだ綺麗に残っていますね。建築技術はヴァーヘイレム王国のどの技術とも違うように見えます」


 ヴァーヘイレム王国にある城自体、もともとあった城を利用しているので建築技術はそれぞれ違う。確かにロゼが言うように、ヴァーヘイレム王国にある五つの城とも造りが違うな。


「帝国の影響を受けているのかもしれませんね」


 ノワールが冷静に分析した。


『ここは、わくわくしそうな雰囲気なのです!』


 エリーが屋敷の奥を指さし、勢いよく駆け出す。


「エリー、ちょっと待って!」


 慌てて追いかけると、エリーは行き止まりの壁で何かを調べていた。


『この壁が怪しいのです!』


「どれどれ……」


 エリーが調べていた石の壁をよく見ると、上下左右に隙間がありそれを土で埋めた痕跡がある。


 手で押してみるがびくともしないな。ここは蔓の力でと考えていると。


「エディ様、私にお任せください!」


 護衛でついて来ているシプレが胸を揺らしながら壁に向かって突進すると、衝撃で埋めてある土が崩れたのか、壁が少しずれた。


「シプレ、凄い音がしたけど、体は大丈夫なの?」


「もちろんです!」


 アスィミ並みに頑丈みたいだ。壁は回転扉になっているらしく、シプレとアザリエで押すと動いた。



 中から現れたのは、小さな隠し部屋だった。埃が積もっていたが、中には古びた本棚や、いくつかの宝箱が置かれていて、かなり古い時代の物のようだ。


「すごい……本当に隠し部屋だったんですね」


 フラムが驚いた表情を浮かべる。


「ここには何が……」


 ノワールが慎重に周囲を観察する。


 宝箱を開けてみると、中には書類や金貨、装飾品が入っていた。


「重要な書類かもしれない。持ち帰って確認しよう」


 部屋にあるものすべてを空間収納庫に格納する。


「エリー、大発見ですね」


 ロゼが褒める。


『えっへんなのです!』


 エリーが誇らしげに胸を張る。こうして、思わぬ発見をしながら、旧マーリシャス共和国の屋敷を後にした。


 

 ◆


 

 最後に向かったのは、港だった。ここは帝国の影響を受けた設備がそのまま残っているが、町が完成するまではこのまま使用する予定だ。


「この港もフィレール侯爵領になるのですね」


 ロゼがしみじみと眺める。


「うん。交易の中心にするつもりだよ」


「帝国の技術……うまく活用すれば、私たちの強みになりますね」


 ノワールが冷静に分析する。


 港の一角では、新しい船を確認していたアンさんが僕たちを見つけ駆け寄って来た。


「あたいの船、なかなかいいじゃないか!」


「アンさん、気に入ってもらえた?」


「もちろんさ! これなら十分航海もできるわ!」


「フィレール侯爵領も、これから海とのつながりを強くしていくのですね」


 アンさんの姿を見て、ロゼが感慨深げに言った。


「もちろん。交易が増えれば、町の発展にもつながるからね」


「今はまだ何もありませんが、素晴らしい未来が待っていますね!」


 ロゼが微笑み、周りにいたみんなが頷いたのだった。


 

 ◆


 

 町を一通り巡った後、城を建設する予定の丘の上にみんなで座り、復興中の町を眺めた。


「エドワード様、本当にすごいことをしているのですね」


 ロゼが真剣な表情で言った。


「いや、まだまだ始まったばかりだよ」


「でも、ここまで復興が進んでいるのは、エドワード様のおかげです」


 フラムが続ける。


「うん……僕一人の力じゃないよ。みんなが協力してくれたから、ここまで来れたんだ」


「それでも、未来の領主として、しっかりみんなを導いていかなくてはなりませんね。エドワード様ならきっとできます!」


 ノワールが珍しく力いっぱい励ましてくれた。


『エディ様なら大丈夫なのです!』


 エリーの言葉に、みんなが笑顔になる。やり取りを見ていると、短い単語ならロゼとフラムにも伝わるようだな。


 これからも大変なことはたくさんあるけれど、こうしてみんなと共に未来を築いていくのだと、改めて決意を固めたのだった。

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