第403話 ミズホ家
フィレール侯爵領の町の名前や今後のことを話し終えたあと、おじい様、アキラ、アザリエと話をすることになった。
「エドワード様、ツムギについての話とは、いったい?」
「ツムギの能力についてなんだけど」
「アカツキ国の人間の能力は、この国の人とは少し違うようなので、聞き慣れないでしょう。ツムギの能力は【ニンジュツ】か【シノビ】だったのでは? どちらも諜報に長けている能力なので、エドワード様のお役に立てるはずです」
アキラさんも、ツムギの能力を勘違いしているようだ。まあ、普段から忍者のような動きをしているので、そう思っても仕方がない。
「ツムギの能力は【ホウジョウ】というものだったのですが、どんな能力か知っていますか?」
「――!」
アキラの顔が驚きで青ざめる。
「アキラよ、驚いていても話は進まぬ。話しにくい内容なら、話せる部分だけでもよい」
「……アルバン様、隠すつもりはありませんが、あまりに衝撃だったので、申し訳ございません」
「構わぬが、【ホウジョウ】の能力について知っているということだな?」
「はい。【ホウジョウ】の能力は、アカツキ国での主君、ゲンゲツ・ミズホ様の能力でございます」
「なるほど。アキラの主君と同じ能力だったので、驚いたわけか?」
「アカツキ国で『大名』と呼ばれる者が持つ能力は、生きている血族に一人しか現れぬと言われております。ツムギに【ホウジョウ】の能力が現れたということは、ゲンゲツ様はもう……」
「あれっ? アキラの主君は討たれたって言ってなかった?」
「助かる状況ではありませんでしたが、もしかしたら、という思いもありましたので……」
「ツムギがミズホ家と血の繋がりがあるということは、アキラの奥方はミズホ家の者か?」
「はい。妻、ミユキはゲンゲツ様の娘です」
敗北を悟ったゲンゲツ・ミズホは、血筋を絶やさないため、アキラ一家に魔の森を越えさせるという賭けに出たそうだ。結果的に奥さんは亡くしてしまったが、ツムギが生き残ったことで、その賭けは成功したわけだな。
「それで【ホウジョウ】の能力とは、どんなものだ? 大名の血統にしか発現せず、生きている者で一人だけとなると……やはり【豊穣】ということか?」
「アルバン様の言うとおり、【豊穣】で間違いございません」
「豊穣をコントロールできるのか、それともいるだけで発動するのかは分からぬが……それは危険な能力だな」
「某も詳細は知りませんが、年に数回、作物の畑で何かをしているところは見たことがございます」
「なるほど、少なくとも何かしらの操作は可能ということだな」
「おじい様、『少なくとも』とは?」
「うむ。基本的には、いるだけで発動するが、何か別の手段で発動させることもできる能力も存在する。今の話から、後者であることは確定したということだな」
「なるほど」
ゲームで言うところの「パッシブスキル(常時発動スキル)」と「アクティブスキル(任意発動スキル)」という感じか。
「何かを別に発動させることができる……ですか。確か、発動させた時は害虫が発生したり、冷害などで作物の状態が悪くなった時でした」
「害虫や冷害か……それだけでも、十分に貴重な能力だな」
「アルバン様、このことは内密にしておいたほうがよいかと」
「しかし、アザリエ。王都で【ホウジョウ】の名を聞いていた者もいるだろう?」
「私が調べたところ、スカウトに来ている貴族は、基本的に戦闘系の目立つ能力以外はスルーしているそうです。それに、ツムギが受けたのは大公家の順番。一番最初の枠で祝福の儀を受けたので、ほとんど貴族もいませんでした。もし聞かれたら【チョウホウ】だったと言えば、分からないかと」
「確かに、各貴族は決められた時間に来る者が多い。しかも、平民とは別で行うから、聞いていた者は少ないな。それに、ツムギの能力が諜報系だったとしても、疑う余地のない動きをしている。アキラ、父としてどうしたい?」
「ツムギには、それで説明してみます」
「それが良いだろう。それにしても、アカツキ国は豊穣を失っても大丈夫なのか?」
「……そのことは考えておりませんでしたが、アカツキ国は元々、作物が育ちにくい土地。ミズホ家が治めるようになってから、十分な収穫ができるようになったと言われております。他の大名の能力は分かりませんが、害虫などに対応できる者はいないでしょうな」
「追っ手とか、大丈夫なのかな?」
「アカツキ国から魔の森を抜けるのは至難の業。某も死を覚悟した瞬間は幾度もありました。脱出できたのは奇跡でしょうな。そういえば……ツムギが大きな白い狼を見てから、魔物が出なくなったのでした……」
みんなが、僕の頭の上にいるヴァイスを見る。
「エンシェントウルフが、魔の森を出るまで見守っていたんだろうね。エンシェントウルフが睨みを利かせると、魔物が近寄らないってヴァイスが言ってたよ」
「何という巡り合わせ!」
「エディの話では、ニルヴァ王国の初代王もアカツキ国出身なんだろう? そっちもエンシェントウルフが関係してそうだな」
アスィミはヴァイスと関わりがあったし、二匹の狼は歴史の影に潜んでいるのかもしれない。
「盗賊なら容赦なく排除していただろうし……エンシェントウルフにも、何か助ける基準があるのかもしれないね」
「エドワード様、【ホウジョウ】の能力は検証なさらないのですか? 使いこなせれば、フィレール侯爵領にとって大きな力となるはずです」
「ツムギ次第かな。危険な能力には変わりないし、ツムギが求めている能力とは違うからね。アキラも、強制しちゃダメだよ?」
「騎士団長としては、使いこなせるようになってほしいですが……父親としては感謝いたします」
僕の【糸】や【タネマキ】の能力もそうだが、生産系の能力は、使いこなすまでに時間がかかるのかもしれない。精神系の能力は本人への負担が大きいし、攻撃系の能力が人気なのは、その手軽さも理由の一つなのだろう。
それと、ツムギの能力で気になることがある。
能力は生まれたときから備わっているとすれば、ツムギの能力は間違いなく【シノビ】か【ニンジュツ】のはずだ。【ホウジョウ】と判明するまで、実際それらしい動きをしていた。
王都で検証してみたが、気配を消す隠形術はそのまま使えていた。つまり、習得した技が消えるわけではないらしい。
もしかすると、【ホウジョウ】によって能力が消されたのではなく、ただ「表示されていない」だけの可能性も考えられる。今後も様子を見ていく必要がありそうだな。
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