表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
408/435

第403話 ミズホ家

 フィレール侯爵領の町の名前や今後のことを話し終えたあと、おじい様、アキラ、アザリエと話をすることになった。


「エドワード様、ツムギについての話とは、いったい?」


「ツムギの能力についてなんだけど」


「アカツキ国の人間の能力は、この国の人とは少し違うようなので、聞き慣れないでしょう。ツムギの能力は【ニンジュツ】か【シノビ】だったのでは? どちらも諜報に長けている能力なので、エドワード様のお役に立てるはずです」


 アキラさんも、ツムギの能力を勘違いしているようだ。まあ、普段から忍者のような動きをしているので、そう思っても仕方がない。


「ツムギの能力は【ホウジョウ】というものだったのですが、どんな能力か知っていますか?」


「――!」


 アキラの顔が驚きで青ざめる。


「アキラよ、驚いていても話は進まぬ。話しにくい内容なら、話せる部分だけでもよい」


「……アルバン様、隠すつもりはありませんが、あまりに衝撃だったので、申し訳ございません」


「構わぬが、【ホウジョウ】の能力について知っているということだな?」


「はい。【ホウジョウ】の能力は、アカツキ国での主君、ゲンゲツ・ミズホ様の能力でございます」


「なるほど。アキラの主君と同じ能力だったので、驚いたわけか?」


「アカツキ国で『大名』と呼ばれる者が持つ能力は、生きている血族に一人しか現れぬと言われております。ツムギに【ホウジョウ】の能力が現れたということは、ゲンゲツ様はもう……」


「あれっ? アキラの主君は討たれたって言ってなかった?」


「助かる状況ではありませんでしたが、もしかしたら、という思いもありましたので……」


「ツムギがミズホ家と血の繋がりがあるということは、アキラの奥方はミズホ家の者か?」


「はい。妻、ミユキはゲンゲツ様の娘です」


 敗北を悟ったゲンゲツ・ミズホは、血筋を絶やさないため、アキラ一家に魔の森を越えさせるという賭けに出たそうだ。結果的に奥さんは亡くしてしまったが、ツムギが生き残ったことで、その賭けは成功したわけだな。


「それで【ホウジョウ】の能力とは、どんなものだ? 大名の血統にしか発現せず、生きている者で一人だけとなると……やはり【豊穣】ということか?」


「アルバン様の言うとおり、【豊穣】で間違いございません」


「豊穣をコントロールできるのか、それともいるだけで発動するのかは分からぬが……それは危険な能力だな」


(それがし)も詳細は知りませんが、年に数回、作物の畑で何かをしているところは見たことがございます」


「なるほど、少なくとも何かしらの操作は可能ということだな」


「おじい様、『少なくとも』とは?」


「うむ。基本的には、いるだけで発動するが、何か別の手段で発動させることもできる能力も存在する。今の話から、後者であることは確定したということだな」


「なるほど」

 

 ゲームで言うところの「パッシブスキル(常時発動スキル)」と「アクティブスキル(任意発動スキル)」という感じか。


「何かを別に発動させることができる……ですか。確か、発動させた時は害虫が発生したり、冷害などで作物の状態が悪くなった時でした」


「害虫や冷害か……それだけでも、十分に貴重な能力だな」


「アルバン様、このことは内密にしておいたほうがよいかと」


「しかし、アザリエ。王都で【ホウジョウ】の名を聞いていた者もいるだろう?」


「私が調べたところ、スカウトに来ている貴族は、基本的に戦闘系の目立つ能力以外はスルーしているそうです。それに、ツムギが受けたのは大公家の順番。一番最初の枠で祝福の儀を受けたので、ほとんど貴族もいませんでした。もし聞かれたら【チョウホウ】だったと言えば、分からないかと」


「確かに、各貴族は決められた時間に来る者が多い。しかも、平民とは別で行うから、聞いていた者は少ないな。それに、ツムギの能力が諜報系だったとしても、疑う余地のない動きをしている。アキラ、父としてどうしたい?」


「ツムギには、それで説明してみます」


「それが良いだろう。それにしても、アカツキ国は豊穣を失っても大丈夫なのか?」


「……そのことは考えておりませんでしたが、アカツキ国は元々、作物が育ちにくい土地。ミズホ家が治めるようになってから、十分な収穫ができるようになったと言われております。他の大名の能力は分かりませんが、害虫などに対応できる者はいないでしょうな」


「追っ手とか、大丈夫なのかな?」


「アカツキ国から魔の森を抜けるのは至難の業。某も死を覚悟した瞬間は幾度もありました。脱出できたのは奇跡でしょうな。そういえば……ツムギが大きな白い狼を見てから、魔物が出なくなったのでした……」


 みんなが、僕の頭の上にいるヴァイスを見る。


「エンシェントウルフが、魔の森を出るまで見守っていたんだろうね。エンシェントウルフが睨みを利かせると、魔物が近寄らないってヴァイスが言ってたよ」


「何という巡り合わせ!」


「エディの話では、ニルヴァ王国の初代王もアカツキ国出身なんだろう? そっちもエンシェントウルフが関係してそうだな」


 アスィミはヴァイスと関わりがあったし、二匹の狼は歴史の影に潜んでいるのかもしれない。


「盗賊なら容赦なく排除していただろうし……エンシェントウルフにも、何か助ける基準があるのかもしれないね」


「エドワード様、【ホウジョウ】の能力は検証なさらないのですか? 使いこなせれば、フィレール侯爵領にとって大きな力となるはずです」


「ツムギ次第かな。危険な能力には変わりないし、ツムギが求めている能力とは違うからね。アキラも、強制しちゃダメだよ?」


「騎士団長としては、使いこなせるようになってほしいですが……父親としては感謝いたします」


 僕の【糸】や【タネマキ】の能力もそうだが、生産系の能力は、使いこなすまでに時間がかかるのかもしれない。精神系の能力は本人への負担が大きいし、攻撃系の能力が人気なのは、その手軽さも理由の一つなのだろう。


 それと、ツムギの能力で気になることがある。


 能力は生まれたときから備わっているとすれば、ツムギの能力は間違いなく【シノビ】か【ニンジュツ】のはずだ。【ホウジョウ】と判明するまで、実際それらしい動きをしていた。


 王都で検証してみたが、気配を消す隠形術はそのまま使えていた。つまり、習得した技が消えるわけではないらしい。


 もしかすると、【ホウジョウ】によって能力が消されたのではなく、ただ「表示されていない」だけの可能性も考えられる。今後も様子を見ていく必要がありそうだな。

『糸を紡ぐ転生者2』5/30日にKADOKAWAエンターブレインから発売します!

是非、予約購入して応援してもらえると助かります(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ