第398話 会議
祝福の儀から数日経ったところで、王城から呼び出されたので、父様と二人で向かう。
「父様、今日は何の呼び出しか知っていますか?」
「マーリシャス共和国の件で色々と決まったみたいだね」
「思いのほか時間がかかりましたね」
「国一つがなくなったのだから簡単には決まらないよ。関係者を呼び出すのにも時間がかかるからね」
そうか、今回の祝福の儀に来ていない貴族を呼び出すのにも時間がかかるのだった。通信機を国内に普及させられれば時短になるのだが、そう簡単にはいかないのが難しいところだ。
◆
王城に到着すると会議の会場に案内されると、貴族は揃っていて、父様は大公席に僕は侯爵席に座ると宰相が話し始める。
「それでは、陛下お願いします」
「うむ、皆の者よく集まった。これより会議を始める!」
――ハッ!
一同が返事して会議が始まった。
「それでは今回緊急召喚した理由を知らぬ者もいるので説明しよう」
宰相がマーリシャス共和国がなくなったことを告げると、知らなかった貴族たちは当然驚く。
「静粛に。今回手柄を立てたのはフィレール侯爵のため。論功行賞より始める! それでは陛下よろしくお願い致します」
「うむ、それではまずフィレール侯爵に侯爵と伯爵の位を授与し、元マーリシャス共和国の土地はフィレール侯爵領とする」
会場がざわめく。
「ただし、フィレール侯爵より申し出があり、領地の一部をヴァッセル公爵、ハットフィールド公爵、エリオッツ侯爵、ヴェングラー伯爵、そしてライナー男爵に分け与える。その代わりフィレール侯爵領から新たに整備する街道やフィレール侯爵領整備のための資材提供等、最大限に協力するように」
「「「「はっ!」」」」
ライナー男爵は来ていないので、残りの四人が返事をした。何も意見が出ないということは予め話してあったのだろう。
「次にフィレール侯爵には宝物庫より宝石を与える。これはすでにフィレール侯爵に選ばせ授与してある。そして、フィレール侯爵には領内に城を建てる許可を与える」
――!
さすがに最後のは皆んなだけじゃなく僕も驚いたが、父様や公爵が驚いていないということは事前に知っていたのかもしれない。
「陛下! よろしいでしょうか?」
「シュタイン伯爵、どうした?」
「公爵でもないのに城を建てる許可というのはいかがなものかと思いまして」
シュタイン伯爵の考えと同じような貴族も一定数はいるようだ。
「シュタイン伯爵は最初の儂の話を聞いていなかったようだな」
「マーリシャス共和国がなくなったのなら、なおさら城など必要ないと思いますが……」
宰相の睨みにシュタイン伯爵は尻すぼみになっていく。
「さっきも言ったが、今回の件の裏にはイグルス帝国がいる。マーリシャス共和国の陥落を知らないイグルス帝国がいつ来るかも分からない状況で、今後はヴァッセル公爵領同様、海戦も行われる可能性が考えられる。それでもまだ城は必要ないと考えるのか?」
「申し訳ございません……」
「シュタイン伯爵」
「陛下、話を止めて申し訳ございませんでした」
「それはよい。シュタイン伯爵の他にも同じようなことを考えている者もいたようだからな」
そう言われて何人かの貴族が下を向いた。
「今回の城の件は大公並びに公爵と話し合って決めたことだ。できるだけ早く防衛体制を整える必要がある。フィレール侯爵はその辺りも考えて町造りするように」
「承知しました」
「それで、シュタイン伯爵……いや、ホルスよ、そなたのことはレイナードも心配しておった」
「伯父上がですか?」
「うむ、そなたは自分の若い時に似て短気だと心配しておった」
「伯父上が短気?」
「イグニスが生まれるまではかなり短気で、アルバンに注意されるようなやつだった。そんなレイナードからそなたへの伝言だ。『敵はイグルス帝国だ。間違えるな』と儂から伝えてくれと最後の手紙に書いてあった」
「――!」
シュタイン伯爵がバーンシュタイン公爵の方を見ると頷いているので、僕にも形見をくれたように、いろいろ書いていたのだろうな。
「儂に頼むほど気にしておったのだ。しかと心に刻め」
「承知しました!」
イグルス帝国への侵攻を控え、絶妙なタイミングだ。それにしても、おじい様に注意されるレイナードさんは、想像がつかない。
「さて、ハットフィールド公爵はトニトルス公爵とモトリーク辺境伯の手助けで忙しい。今回土地を分けてもらうヴァッセル公爵、エリオッツ侯爵、ヴェングラー伯爵は十分協力するように。エリオッツ侯爵はヴァールハイトへ向けての街道整備を命じる」
「承知」
エリオッツ侯爵は無口なタイプか……あまり僕の周りにはいないかも。
「陛下! フィレール侯爵に領地をもらうライナー男爵がいないのはなぜだ?」
ジェンカー伯爵にしては険しい表情だな。
「ジェンカー伯爵か。その辺りも説明しておこう」
陛下が答え、宰相の説明により、ジェンカー伯爵の表情が和らいでいく。そうか、ライナー男爵は未だに裏切り者と思われたままだったな。
「つまり、フィレール侯爵はライナー男爵を許すだけでなく、助けるということですな?」
「もちろんです。悪いのはイグルス帝国や困っているライナー男爵に手を差し伸べられなかった僕たちです。先程レイナードさんの言葉にもあったじゃないですか、『敵はイグルス帝国だ。間違えるな』と。これはシュタイン伯爵だけでなく、全ての貴族に共通するのではないでしょうか?」
「なるほど! そういうことなら儂も協力を惜しまないぞ」
「ありがとうございます」
フィレール侯爵領の件も決定し、ようやく次へ向けて進めるようになったのだった。
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これで第十三章 マーリシャス共和国編 終了となります。
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