第397話 加護と能力
ノワールがラケシス様の加護を持っていたのか……。つまり、モイラの加護を持っている人物三人が婚約者というのは偶然にしては出来すぎている。まあ、決めたのは僕なんだけど。
「ノワールはエドワード様がモイライの加護を持っていることは知っていたのかしら?」
ロゼが尋ねる。確かにそうだな。ノワールは僕より三つ年上だから、加護自体は僕より先に持っていたことになる。どの時点で気づいたのかは気になるところだ。
「そうですね。持っていたのを知ったのは今ですが、関係あると思ったのはエドワード様のパーティーですね」
「それまではどうしてたの?」
「家族にも言っていないので誰も知りません。唯一知っているのはクロエ様ですね」
「おばあ様が知っているの?」
「はい。ローダウェイクで私がクロエ様と二人で話をしたのは覚えていますか?」
「おばあ様が僕の味方がどうとか言ってた件だね?」
「その時に証明の一つとして言いました」
「そんなことがあったのですね。それにしても、モイライ商会の名前が出ていたとはいえ、パーティーに参加しただけでよく分かりましたね」
「ロゼは鋭いですね。それは私の能力に関係しているのですが、これを話すともしかしたら私は遠ざけられてしまうかもしれません」
『エリーは離れません!』
エリーがノワールに抱きついた。エリーは知っているのだな。
「ノワールの人となりはわかっているつもりです。今更能力を聞いたところで変わりません。それにしてもノワールも珍しい能力なんですね」
「ロゼ、ありがとうございます。あなたはすでにエドワード様の正妻に相応しい能力を持っているのですから自信を持ってください」
「ノワール……ありがとうございます」
「それで、私の能力ですが【シンガン】といいます」
「「……シンガン?」」
ロゼとフラムの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。シンガンということは真贋、心眼、神眼辺りかな? みんなに教えると遠ざけられる可能性が高いということは、心眼か神眼ということかな。
「もしかして、ノワールは人の心が読めるのかな?」
「「人の心をですか!?」」
「さすがエドワード様。仰る通り、人の考えていることや過去について知ることができる能力です」
「それでは、ノワールはパーティーの時に?」
「はい。普段は私自身の心が押し潰されてしまうので能力を閉じているのですが、エリーが珍しく興味を示したので申し訳ありませんが読ませていただきました」
「そうだったんだね」
僕が転生者だと知っているのだろうか? もしかして、僕の前世も知っているのなら聞いてみたい気もする。
「ノワールはエドワード様の過去まで?」
ロゼは僕の考えを読めているのだろうか?
「過去は見ていません。過去を見るのは私にとって精神の負担がとても大きく。使えばしばらくは寝たきりになるでしょう」
「そんなリスクのある能力なのですね……もしかして、ノワールが親族から遠ざけられているのは?」
「この能力のせいですね。テネーブル家はそれぞれ仕えている人が違いますので、考えていることを読まれると困るからです」
能力のせいで実の家族からも遠ざけられているのか……。
『エディ様、ノワールはほとんど能力を使ってないの! だから遠ざけないでください!』
ノワールが僕の考えをずっと読んでいたとしたら、逆に気味悪くて近寄らない気がする。僕が知っているノワールは、友達思いでデザートが絡むと少しポンコツになる女の子。心が読めるからといって変わるものではない。
「エリー、大丈夫だよ。ノワールの能力が分かったところで何も変わらないから」
『エディ様、ありがとう!』
エリーと会話できるのはシンガンの能力か加護が絡んでいるのかもしれないな。僕も会話できることを考えると加護が関係している可能性が高いのか?
「エドワード様の言う通り、ノワールの能力が分かっても何も変わりませんが、フラムの能力同様、口外しないようにしなくてはなりませんね。いっそ結婚を急ぐのはどうでしょう……」
そう言いながらロゼは頬を染める。
『ロゼから赤とピンクが溢れています!』
エリーの実況が一番怖いな。
「エリーとノワールについては分かりましたが、ツムギも能力が希望通りではなかったのですか? 確か【ホウジョウ】と言ってましたね?」
ロゼが話を進めてくれた。
「はい、エドワード様に役立てる能力をと思い鍛錬してきたのに、まさか【ホウジョウ】になるとは……」
「ツムギはその【ホウジョウ】がどんな能力か知っているのかしら?」
「いえ、聞いたことない能力です」
知らない能力だったのか……ホウジョウね……忍者のことばかり考えていたけど、北条じゃなくて豊穣の方かな? だとしたらすごい能力っぽいけど。
「ツムギがエドワード様のために努力していることはみんなが知っています。能力でその努力が無駄になりません。良ければステータスを教えてもらえますか?」
ステータスを知ってどうするのだろう? ツムギはエリーのステータスを書いた紙の横に自分のステータスを書く。
【名前】ツムギ・コウサキ
【種族】人間【性別】女【年齢】7歳
【LV】1
【HP】32
【MP】4
【ATK】15
【DEF】4
【INT】26
【AGL】24
【能力】ホウジョウ
「やはり、そうですね。ツムギのステータスはレベル1にしてはとても高い値です。通常、祝福の儀の前は上がりにくいと言われていますが、この値を見ればエドワード様のお役に立てるのは間違いないと思いますよ?」
確かに高いな。僕が祝福の儀を受けたときより高い項目もある。
「ロゼの言う通り、ツムギは祝福の儀の前から十分に戦えているし、マーリシャス共和国では異形とも戦ったのだから気にすることないよ」
「ツムギは異形と戦ったのですか!?」
「戦ったといっても、エドワード様の策で最後にとどめを刺しただけです」
「いや、おじい様とおばあ様がツムギの動きを褒めていたから、【ニンジュツ】の能力はなくても同じようなことはすでにできているんじゃないかな?」
『あれを倒したツムギはすごいのです!』
エリーがツムギの手を取って力説している。エリーたちは王都であれの恐ろしさを知っているからな。
「エリーがツムギをすごいと言っています。私もあれは王都で見ていますが、あれの前で動けるだけでも勇気があると思います。私は思考を読むのに失敗して、まったく動くことができませんでしたから」
あの時、ノワールがぐったりしていたのは能力の使用に失敗したのか。エリーが声を失った原因もそうだが、精神系の能力は本人への負担も大きいのかもしれない。
「ツムギは【ホウジョウ】の能力だったら、鍛錬は止めるのかな?」
「もちろん止めません」
「だったらきっと大丈夫だよ。能力は後から増えることもあるから諦めないのも大事なんじゃないかな」
「エドワード様は後から増える説を信じておられるのですか?」
「えっ、メグ姉にそう教えてもらったんだけど、もしかしてロゼは信じてないの?」
「実際に増えたという話は聞いたことがないので、噂程度だと思っていました」
「それなら大丈夫。実際に僕は増えたから本当の話だよ」
「そうなんですか!?」
「うん、きっかけみたいのはあったけど、増えたよ」
「どのようなきっかけだったかお聞きしても?」
ツムギよりロゼの方が興味あるようだな。
「うん、あの時はジョセフィーナの傷を癒したいと強く願ったかな」
「ソフィア様は回復魔術の使い手、元々エドワード様の中に眠っていた能力が開花したのかもしれませんね」
「血統魔術なんかは後から出やすいとメグ姉が言っていたけど、一般情報ではなかったみたいだね」
「エドワード様! 血統魔術が後から出やすいというのは本当なんですか!?」
フラムまで食いついてきた。
「メグ姉にはそう教えてもらったし、僕も実際にそうなっているから間違いないよ」
「それは良いことを聞きました!」
「フラムも欲しいの?」
「はい、できればおじい様のように【炎】が欲しいです!」
「レイナードさんは【火】じゃなくて【炎】だったの?」
「はい、おじい様の魔術はどれもカッコいいので憧れていたのです!」
「確かに、異形のとき、誰も魔術を扱えない空間で、すごい魔術を使用したバーンシュタイン公爵はカッコよかったですわ」
「ロゼ、その話、詳しく聞きたいです!」
一時はどうなるかと思ったが、何とかみんな立ち直ったようで安心したのだった。
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