第40話 魔法と新たなる能力
旅を再開する前に、エンシェントウルフから魔法を習う。
「魔法というのは、ステータスに適性がなくても使えるのでしょうか?」
『少年よ、ステータスに出てくるのは得意な属性ということで、練習すれば全ての属性は使えますよ。但し、使うための魔力があればということになります』
「それなら僕でも大丈夫そうですね」
『得意な属性は威力のアップと消費魔力が減少するようです。あとステータスには出ないようですが、不得意な属性もあるようで、不得意な属性は威力のダウンと消費魔力が増えるとのことです』
「火属性がステータスに記載されていれば、反対属性である水は、不得意になるみたいな感じですかね?」
『その認識で大丈夫でしょう』
なるほど、得意な属性は魔力の消費量も下がるから覚えやすいが、不得意な属性は魔力の消費量も増えるから、保有魔力量によっては発動すらしないことなんだな。
『少年は魔法と魔術の違いは、なんだと思いますか?』
「違いですか? まだエンシェントウルフさんの火の魔法しか見たことないので、前世の知識を織り交ぜた予想になりますが。魔法とは高次の力を使う法則で、魔術とはその力を誰でも使えるように詠唱などを加えた下位互換ですかね?」
『ほう、エディはやはり物知りだな。その認識でだいたいいいだろう。魔法は神の力で、魔術とはその神の力を人の身で扱えるように、悪魔などが伝えたものだな』
「悪魔ですか⁉ この世界にもいるんですかね? いや地球にもいたってわけではないんですが」
『ここに我がおるのだから悪魔ぐらいいても不思議じゃないだろう』
「確かにそうですね……」
この子狼、見た目は可愛いがフェンリルだった。
『少年よ、魔法が高次の力というのは良い表現だと思います。私に魔法を教えた者たちは高次の知識やそれを開く扉のことなどをダアトと呼んでいました』
「ダアトですか?」
『そうです。まずは魔法を使うためには、そのダアトを感じなくてはなりません。彼らはダアトを感じるために、瞑想や修行というものをやっていましたが、少年には私が直接魔力を流して感じてもらいます』
「そんな方法があるのなら、誰でも使えそうですけど」
『誰でも感じられるわけではないようですよ。最初にこれをやってダメなら修行といった流れみたいですね。ただ私に魔法を教えてくれた者たちが亡くなって100年ぐらい経ったころには使えるものが減っていたように感じましたが』
「減っていたと言うのは?」
『そうですね、以前は比較的誰でも生活の中で使っていたのですが、戦い以外では使ってないように感じましたね』
「急に権力のにおいがしてきましたね」
『権力ですか?』
「そうです。かつては皆が使えてた魔法を力がある人たちで独占します。魔法を使える人が減ってきたところで、次に行使に簡単な魔術が現れます。威力は魔法の方が上ですが数で勝る魔術が勝利し、魔法を独占していた人たちは消えます。しかし戦いに勝った魔術も結局は力のある者が独占して、現在の力を持った人たち、つまり権力がないと魔術を使えない状況になるわけです」
『そういうことなんですね、納得しました。それでは早速魔力を流してみましょう。ダアトは首の位置ぐらいで感じる人が多いようですので、首の辺りを注意してみてください』
「分かりました、お願いします」
エンシェントウルフが僕に魔力を送り込む……特に変化はないなと思った瞬間、体中を激痛が襲う。
「なんだこれ、全身が痛い……」
『そういえば、この方法は痛みの中から魔力を探しだすと言っていたのを思い出しました』
そういうことは早く言って欲しい……っていうか魔法が廃れた主な原因コレじゃないの?
激痛を我慢していると、首の辺りが熱を持っているように感じる……痛みが邪魔をする、さらに集中してみるとたしかに首の辺りなのだが、そこには存在していない何か別次元から力が流れ込んでいるように感じた瞬間。全身の激痛が無くなったのだ。
『成功したようですね』
『さすがは我の契約者だ!』
「なるほどこれが魔力の源泉なんですね」
魔力の流れを感じられるようになった僕は、エンシェントウルフが出したような火をイメージしてみると、少し離れたところに20センチぐらいの火球ができる。
「できた!」
『これで魔法が使えるようになりましたね。魔法とは法則に則った現象を魔力を使って再現するそうです。私は簡単な魔法しか使えませんが、少年なら様々な魔法を使えるようになると思いますので、研鑽するといいでしょう』
「ありがとうございます!」
『そういえば、作った魔法に名前をつけると、次から行使が楽になるそうですよ』
「名前ですね! 分かりました」
『エディよ、これで魔法を使えるようになったのだがどうする? もう出発するか?』
「そうですね、実はグラウプニルを登録した時に糸の能力のレベルが上がったので、少しだけここで把握をしてもいいですか?」
『美味い食べ物が出てくるなら、出発のタイミングはエディの好きな時でよいぞ』
「分かりました」
取りあえずステータスを確認してみる。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】8
【HP】190
【MP】730/735
【ATK】180
【DEF】180
【INT】620
【AGL】190
【能力】糸(Lv4)▼、魔(雷、氷)
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス
「ステータスに魔法が追加されてる! しかもさっき使った火じゃなくて雷と氷って!」
『得意な属性は、エディの家系によるものなのだろう』
「ステータスには魔術とか魔法じゃなくて魔としか表示されてないんですね」
『つまり得意属性は魔法、魔術の区別はないということだな。エディの糸の能力はレベルによって何が変わるのだ?』
「そうですね、レベル1で植物素材の登録、レベル2で鉱物素材の登録、レベル3で魔物素材の登録、レベル4で素材の合成が可能になったようです」
『素材の合成だけ毛色が違うな』
「そうなんですよね、全て手探りなんで分からないことだらけなんです。素材の合成だから普通に考えると、金属などを合成して新しい物質を作り出すんだろうけど、鋼を作った時は鉄と炭素を一緒に登録したらできたんだよね」
『確かに鋼を作るのは素材の合成みたいだが、能力的には素材の合成ではないということになる。鉱物の登録はレベル2だから、レベル4である素材の合成はさらなる上の能力のはずだ』
「ステンレスやピアノ線とか作れそうだけど、鉱物が足りないな。クロムやニッケルがあれば、色々試せそうなんだけど」
『少年よ、そのクロムやニッケルというのはどのような物ですか?』
「そうですね、確かクロムの結晶は銀白色、含まれた鉱石は黒い石に白っぽいものが付着した感じかな。ニッケルは悪魔の銅って言われてるぐらいだから、銅鉱石に似てるんじゃないかな」
『少年の説明では分かりかねますが、すぐ近くに見せたい場所があるので、ついて来てもらえますか?』
エンシェントウルフの後をついて行くと、そこは洞窟で地面、壁、天井に至るまで色とりどりの鉱石や宝石の結晶らしきものが見て取れる。
「いったいここは……」
『元はただの洞窟だったのですが、主がこの地に来てから徐々にでき始め、今ではこの状態になりました。主が拘束されていた場所を中心に聖域化され、様々な現象が確認できます』
「聖域化……この辺りに魔物がいないのもそれが理由なのか。見た目はこんなだが、やっぱ神獣なんだな」
『ほらエディ、凄いだろ、我を崇めよ!』
偉そうに威張っているが、可愛いだけなので頭を撫でておく……この手触りはヤバいな癖になりそうだ。さすがは神獣!
「これは採掘してみても良いのでしょうか?」
『もちろん構いません。私たちには不必要なものですから』
「これって、壁とかにくっついたままのやつを登録できないのかな?」
試してみるが反応はない。ズルはできないらしい。
覚悟を決めて鋼の棒で破壊する。途中鋼の棒の方が負けて曲がってしまうものも出てきたが、そこは採掘用のハンマーで取り除いたりして、手当たり次第に登録しまくった。




