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第395話 マカロン

 今日は午後から婚約者たちが来るということで、厨房にやって来た。

 

「ロブジョンとピエールも王都に来ていたんだね」


「今回は同行したほうがよいとソフィア様が仰られたので」


「母様が?」


「はい、今回は皆様が王都に集まるので、我々もちょうど良いと同行したのですが、確かにソフィア様の言う通りでした。クレア」


「はい、師匠!」


 後ろで仕込みをしていた料理人の中から、クレアと呼ばれた二十代半ばぐらいの女性が走ってくる。この世界で女性の料理人は初めて見た。


「彼女はカトリーヌ殿の旧知だそうで、カトリーヌ殿が王都で見かけて連れて来たのです」


「エドワード様、お初にお目にかかります。クレアと申します。以前はコラビの町でクリーターという料理店を営んでおりましたが、スタンピードで潰れてしまいましたので、再起をかけて冒険者をしていたところ、カトリーヌに拾っていただきました」


「クリーターはメグ姉と行った店ですね! 女性の料理人だったとは驚きです」


「カトリーヌの提案で、料理人が一切見えない個室スタイルにしていたのです」


 この世界では料理人というのは大体貴族に仕えているため、女性がなるのは難しいらしい。コラビという辺境の町で、顔を出さないスタイルだから店を出せたのだろう。


「冒険者をしていたの?」


「はい、もともと店を開くために冒険者をしていましたので、また資金を溜めようと一から頑張っていたところ、カトリーヌと再会したのです」


「それじゃあ、これからはうちで働くってことでいいのかな?」


「よろしくお願いいたします!」


「そこで、エドワード様に少しお願いがございます」


「ロブジョンからのお願い?」


「はい、彼女は冒険者もしていたので、ある程度戦闘もこなせます。そこで、エドワード様の部隊の専属シェフとして同行させていただけないかと思いまして」


「僕の部隊の?」


「はい。ハリー様にはエドワード様の許可がいただければ問題ないと言われております」


 さすがロブジョン、根回しがいいな。

 

「クレアはそれで大丈夫なの? 料理に専念したいんじゃないの?」


「師匠の話を聞いて、エドワード様の作られる料理を後世に伝えるのは、【クックブック】の能力を持った私しかいないと思っております!」


 初めて聞いたのに、聞きなれたような名前の能力が出て来たな。


「クレアの能力は【クックブック】と言うの?」


「はい、目にした料理や自分で作った料理を記憶する能力です!」


 なるほど、レアな能力だけど、自分で作ったり見たりするだけで覚えられるから気がついたのだな。それより、彼女を同行させれば、レシピをいちいち記録しなくてもロブジョンたちに伝わるということか……凄く便利な能力じゃん。


「父様の許可まで取っているのなら問題ないけど、一応アザリエの許可も……」


「すでに取ってあります」


 さすがロブジョン。料理に関してパーフェクトな男。


「それなら反対する理由はないかな。クレア、よろしくね」


「あっ、ありがとうございますぅ!」


 ……号泣するほど嬉しいの!?


「そういえば、エドワード様はどうして厨房に?」


 ようやく本題に入れるようだ。

 

「今日の午後に婚約者たちが来ることになったから、お菓子を作ろうと思ったんだよ」


「ほぅ、つまりそれは()()を作るということですな?」


「手伝ってもらえるかな?」


「もちろんでございます」


 

 ◆



 料理人たちの全面協力の下、マカロンを完成させる。アーモンドを粉にする工程が面倒だから道具が欲しいと思った。


「これは何というお菓子でしょうか? 見た目が可愛いですな」


「マカロンというらしいです」


「なかなか温度管理が難しかったですな」


「そうだね。想像以上に難しいけど、何度も失敗したおかげでマグマスライムのちょうどいい温度を見つけたから、次回からはもう少し楽に作れそうだね」


 リュングとロヴンに頼んで箱を作り、中にマグマスライムをつけたオーブンを作ったのだ。


「これは間違いなく流行りますが、その前に食べられる婚約者の方々もお喜びになるでしょう」


「あとは、もっとカラフルにできる色をたくさん見つけたいかな」


 今回は、ビーツやブルーベリーの汁を使って色を付けたけど、もっと様々な色がほしいところだ。


「その辺りは我々にお任せください!」


 今晩には色が増えてそうな勢いだな。



 ◆



 午後になり婚約者たちが来たのだが、四人揃ってくるとは思わなかった。フラムも馴染んでいるようで安心した。


「ご無事で何よりです。しかし、マーリシャス共和国での話はクロエ様の方が迫力がありましたね。」


 ロゼがそう言うと、三人が頷いた。


「おばあ様に会ったの?」


「エドワード様が王都入りしてすぐに伺ったのですが、王城へ向かわれた後でした。その代わりにクロエ様が話してくれたのです」


 ノワールが説明してくれるが、おばあ様はそんなこと言ってなかっただけに、何を言ったのか気になるな。


『フラムの夢と一緒でした。フラムは凄いのです!』


「そうだね。今回フラムが見た夢は、以前よりもはっきりした夢だったみたいだね」


「どうせ見るなら、エドワード様が橋をかけるところなど、危険じゃない場面が良かったです!」


「フラム。それだと、ただの楽しい夢になりますわ。今回はフラムが知らせてくれたから、集まることができました。フラムの能力に感謝します」


「手配してくれたのはお父様ですが、きっと三人と仲良くなるためだったのかもしれないです」


「イグニスさんなら考えそうだね。心配かけたお詫びにお菓子を作ったから、お茶にしようね」


 合図を送るとメイドたちがお茶の準備を始める。


「「「『可愛い!』」」」


 四人とも気に入ったみたいだな。


「エドワード様、この可愛いお菓子はなんというのですか!?」


 ロゼもノワールと同じで、デザートやお菓子を前にすると若干性格が変わるな。


「マカロンというお菓子だよ。食べてみてね」


 みんなが食べるの見て、頑張って作って良かったと思う。


「エドワード様! 外はサクサク、中はしっとり! 口の中いっぱいに甘さと香りが広がってとても美味しいです!」


 やはり、デザートやお菓子を食べるときの反応は、ノワールが一番だな。

 

『エディ様、大変です! エリーのがもう無くなってしまいました!』


 食べてしまえば無くなるよね。


「良かったら僕のも食べていいよ」


『ありがとうございます!』

 

「エリー、代わりにあれを出したらどう?」


『ノワール、ダメなのです。あれをマカロン様の前に出しては失礼なのです』


 マカロンに様は必要ないかな。

 

「でも、エドワード様のお菓子がないわよ?」


 エリーは何か悩んでいるな。いつも即決のエリーにしては珍しい。


『エディ様! エリーが作ったクッキーです!』


 そう言って箱を出した。


「エリーが作ったの!? 開けるね」


 箱を開けると不揃いなクッキーがたくさん入っていて、エリーの頑張りが窺えた。


「食べるね」


 一つ口に入れると、サクサクしてとても美味しい。


「とても美味しいクッキーだよ。みんなも食べてみて」


 みんなも食べ始める。


「先日言っていたクッキーですね。とても美味しいですわ」


『ロゼ、ありがとう!』


「どうせなら、エドワード様に可愛い形で作るコツを聞いたらどうかしら?」


『さすがノワール、ナイスなアイディアです!』


「可愛い形?」


『エディ様のは、お花とか雲とか形も可愛かったのです。エリーが作ると石になってしまうのです』


「なるほど、良い物があるから少し待ってね」


 

 厨房に行って型を取ってくる。エリーが作るので、動物の型は止めておこう。


「エリー、生地を薄く広げて、これで型抜きするといいよ」


『いろいろな形がいっぱいです!』


「たくさん同じ形を作るなら、抜き型を使うと楽なんだ」


『エディ様、ありがとう!』


「エリーが美味しいクッキーを作ったのに驚いたよ。作りたい形があったら型を作るから言ってね?」


『分かったのです』


 マーリシャス共和国へ行って以来、こんなにゆったりとした時間が流れたのは久しぶりだなと思ったのだった。

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