第389話 王都
ライナー男爵領を出発した僕らは、アルトゥーラでハットフィールド公爵に事情を説明して、王都に来てもらうことになった。
先を急ぎつつも、できるだけ目立たないように王都に入るため、夜明けギリギリの早朝に到着する。
王都のヴァルハーレン家の屋敷へ行くと、父様が出迎えてくれた。
「エディ、大変だったね。体は大丈夫かい?」
「大丈夫です。心配かけました」
「とりあえず中で話そうか」
屋敷の中に入ると母様がロティを抱えて待っていた。ロティは寝ているようだな。
「母様、ただいま戻りました」
「大丈夫そうね。顔を見て安心したわ」
母様はロティをコレットに預けた後、少し涙ぐみながら僕を抱きしめた。
「エディが動くと予想もつかないことが起きるから、心配が尽きないのよね。今は私の勘も働かないから大人しくしてほしいのだけど、どうしようもないわね」
「勘に働かないとかあるのですか?」
「エディのときは初めての経験で戸惑ったけれど、ロティで確認できたの。おそらく、子供を産む前後は働かないのね」
「そうなんですね。体調には気をつけてください」
「もちろんよ。勘が働かない以外は大丈夫よ」
母様の勘は、ほとんど特殊な能力のようなものだから、働かないと不安なんだろうな。
「それじゃあ、陛下へ遣いを走らせているから、戻ってくるまでに話を聞こうか」
さすが父様、段取り完璧です!
部屋に入ると、おじい様が父様にマーリシャス共和国での出来事を説明する。こういうのはおじい様に丸投げが一番だ。
「通信機で大体聞いた通りだけど、問題なのはエディ個人が狙われたということだね」
「王都で異形を倒したからじゃないでしょうか?」
「その話が漏れているのだとすれば、もっと問題だね」
「そうか、箝口令が敷かれているのに、帝国に伝わっているとしたら、ブラウ以外にもスパイがいるということですね?」
「そうだね。さすがにそれは信じたくない所だけど、ブラウの件で王家も各貴族を調べなおしていると思うよ」
「ハリーの言う通りだな。ライナー男爵領にテネーブル伯爵がいたのも、その調査の一つだろう」
「では、父様とおじい様は、どこから情報が漏れたと思っていますか?」
「流れたとしたらブラウ伯爵の家令だった、アヴァールが情報を流していた可能性が高いな」
僕の問いかけに、口を開いたのはおじい様だった。
「父様、アヴァールもエディがブラウと共に討伐しましたが?」
「うむ、それ故にエディの情報はブラウが王都入りするまでか、捕まるまでの情報なんだろう。連絡が無くなったら、作戦は失敗したということにしておけばよいからな、オクルスプスを倒した情報が、そのルートから伝わっている可能性は十分にある」
「おじい様、オクルスプスを倒したのは父様です」
「そんな細かいことは各貴族には伝わってないだろう。エディがキングタウルスを倒した話の方が噂になっていたはずだ」
キングタウルスを倒したのはウルスなので、それも僕ではありません。
「ブラウは可能性に過ぎないが、確実なのはシュトゥルムヴェヒターの件だ」
「なるほど、マーリシャス共和国に呼ばれたのも海神を倒したエディを招待したいということでしたし、ベニードとアヴァールは別という可能性が高いですね」
「うむ、ニルヴァ王国のダンジョンの件やスタンピードなど、様々な所で暗躍していただろ? マーリシャス共和国のベニードも、エディの情報をさほど把握していないことを考えると、それらが繋がっている可能性は低いだろう」
「どのルートにせよ、エディを狙った以上、許すつもりはありませんけどね」
父様が拳を握ると雷が弾けたような音と光が出たんですけど!
色々話をした後、久しぶりの家族での団欒の昼食をとり、ゆったりとした時間を過ごした。そして、昼過ぎになって陛下からの使者がやって来たので、会談に向かう。
◆
「ヴァルハーレン大公、フィレール侯爵、前大公もよく来てくれた! マーリシャス共和国陥落の知らせと聞いてとりあえず非公式での会談にした」
グレイベアード宰相が口を開く。会談に参加するのは、こちら側は父様、おじい様、僕の三人、陛下側は陛下に宰相、アルバート殿下にトニトルス公爵ことバージル殿下だ。おばあ様は行きたくないとのことで、屋敷に残って母様と風呂に入るとのことだった。
「まさかマーリシャス共和国が帝国の手に渡っていたとは、調査不足であった。まずは三人に謝っておこう」
陛下が僕たちに謝罪する。元々おかしな話ではあったが、僕たちも、まさかいきなり攻撃してくるとは思っていなかった。誰も予想出来なかったのはしょうがないだろう。
「今回の件は怪しかったとはいえ、いきなり攻撃を仕掛けてくるのは予想外です。その分、エディに報酬を弾んでくださいね」
「それはもちろんだ。これからイグルス帝国に乗り込むにあたって、最大の功績といえよう」
「それでは、ここからは私が仕切っていくが、まずは詳細な内容を聞きたい。現地にいたアルバン頼んだぞ」
おじい様が説明し、時折宰相が質問を入れる形でマーリシャス共和国での顛末を話し終えた。
「なるほど、ブラウのような異形が二十体もか……」
「正確にはエディの方にも二体出ているから二十二体だな」
「父上、私とバージルは見ていないのですが、異形とはそこまで恐れる敵なのでしょうか?」
「そうだな、あの時は城の中で皆が魔術を使えない状態だったとはいえ、傷口が瞬く間に治ってしまうのは驚異的だ」
「傷が瞬く間にですか?」
「二人ともオクルスプスの名は聞いたことがあるだろう? オクルスプスは動きが遅いという弱点があったが、異形はその弱点を克服している。腕を斬り落としても次の瞬間には再生するのだから私でも厄介な敵だよ」
「「オクルスプスよりも強いのか!?」」
二人はオクルスプスなら分かるんだな。
「そもそも、ハリーが驚異的と感じるのなら確かに危険だな」
「兄上、私はこれから帝国に攻め入ろうとしているのですよ!」
「両殿下。今は聞き取りが先です。それでは、王都の異形とマーリシャス共和国の異形、両方と戦ったエドワードの意見が聞きたい」
さすが宰相は冷静だな。
「そうですね。ブラウと比べるとマーリシャス共和国で戦った異形は弱かったです。僕が戦ったやつは失敗作だったようなので、簡単に作れるわけではないようです」
「失敗作か、そのためにマーリシャス共和国の人間が何人も犠牲になったということだな」
「おそらくは、そうですね」
「異形については、フィレール侯爵騎士団も戦ったということは何か秘策があるのであろう?」
「「エドワード、そうなのか!?」」
両殿下の食いつきが半端ないというか、宰相はおじい様が濁して説明した内容を、正しく解釈できるのだな。
「そうですね。一応、今回は作戦が成功したようです」
「対策があるのなら、まだまだ、話さなければならないことが多いので、今は後回しにしよう」
宰相は武力を除けば父様より賢そうだと思ったのだった。
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