第387話 Side エリー
王都のロゼの屋敷で、こんなに美味しいスフレパンケーキを食べられるとは思いませんでした。おかわりしたので、お腹がパンパンです!
困りました、このままではアイスかプリンぐらいしか入りません。
フラムがロゼを褒めていますが、難しいことはノワールとロゼに任せておけば安心なのです。
「マーリシャス共和国へ向かわれたエドワード様が、何らかのトラブルに巻き込まれそうなのは分かりましたが、わたくしたちはこれからどうしたらいいでしょう……」
ロゼが難しい顔で考え込んでいますね。エディ様はエディ様なので、大丈夫です!
「フラムの夢によると、マーリシャス共和国で何かが起きるか、すでに起きている可能性もありますが、どちらにせよ王都まで知らせが来るのはまだ先でしょう」
「ノワールの言う通り、すでに起きてしまっている可能性も考えられますね」
三人に濃い青色が見えます。エディ様と研究した結果、考え込んだり、集中したりすると濃い青色に見えると分かったのです!
「エリーはどう思うの?」
ノワール……私に分かるわけないじゃないですか……そうだ!
『モイライ商会です!』
「モイライ商会? なるほど、ビアンカが何か知っているかもしれないということね?」
そういえば、ビアンカは王都にいるのでしたね。とりあえず頷いておきましょう。
「でも、ノワール。ヴァルハーレン領と王都は遠いわ。モイライ商会に聞いても、同じじゃないかしら?」
「方法は不明ですが、ヴァルハーレン家は特別な情報網を持っているようです。モイライ商会で少なくなった商品は数日後にはしっかり補充されていますので、ビアンカも何か知っている可能性がありますね」
「なるほど、特別な情報網ですか、確かに持っていそうですね。馬車を用意させるので、行ってみましょう」
いつの間にか、モイライ商会へ行く話になってしまったようですが、ちょうど行きたかったので良かったです。
◆
馬車の中でロゼが話しかけてきます。
「エリーはもうすぐ祝福の儀でしょ? 不安はないの?」
「ロゼ、エリーはエドワード様の婚約者が決まっているから、何でもいいそうよ」
ノワールが私の代わりに答えてくれます。
『エリーの能力は【ぬいぐるみ探知】に決まってます。それより、遂にナイフが使えるようになるのです!』
「そうだったわね。エリーは料理の練習をしているのですが、祝福の儀を迎えたらナイフを使っていいと言われているのよ」
「ナイフをですか?」
「ええ、ジークハルト様が祝福の儀を迎えるまでは、ナイフを使った調理を禁止しているのです」
「ジークハルト様らしいですね。ナイフを使わずにどのような料理の練習をしているの?」
『クッキーは作ったのです!』
「先日エリーが作ったクッキーは、リヒト男爵家でも好評でしたわ。ジークハルト様は食べるのが勿体ないと、泣きながら食べてましたね」
「リヒト男爵家のクッキーといえば、とても美味しい手土産だと噂になっていましたが、エリーが作っていたのですか?」
「残念ながら手土産に持って行くのは、エリーが作ったものではないですね。味は良いのであとは形だけですが」
私はお花を作りたいのに、何度作っても石の形になってしまうのです。
「そうなんですか……形は気にしないので、今度はわたくしにも作って欲しいですね」
『ロゼありがとう!』
「ロゼにお礼を言ってるわ。ジークハルト様は形がいびつなものは手土産にできないから、自分が食べると言い張ってるので嬉しいみたい」
「ジークハルト様……エリーの作ったクッキーを、他人に食べさせたくないのでしょうね」
「多分そうですね」
……お父様にはエリーの作ったクッキーは二度とあげません。
◆
モイライ商会に着きました。
「いつ来ても繁盛していますね。お父様がファンティーヌの町にも出店してもらうと、店舗を建て始めたと言ってましたわ」
「ロゼの所にもですか? バーンシュタイン公爵領にも出店する方向で話が進んでいるという話なので、とても楽しみです!」
ロゼとフラムはエディ様と離れているから、可哀想ですね。ローダウェイクに住んだらすぐ会えて楽しいのに。そういえば、婚約ではなく婚姻にすれば、一緒に暮らせると、ノワールがピンクと赤をまき散らして語っていたのですが、まだ婚姻は出来ないのでしょうか?
モイライ商会に入ると、ビアンカが声をかけてきます。
「これは、エドワード様の婚約者様方。今日はお揃いでいかがなされました?」
私たちが来ると分かっていたのでしょうか?
「ビアンカに聞きたいことがあったので、訪ねてきました」
「私にでしょうか?」
ビアンカは私の方を見て何かに閃いたようですね。
「さすがはエリー様。私の部屋に行きましょう」
よくわからないですが、私たちは三階にあるビアンカの部屋に行きます。
「少しだけお待ちください」
ビアンカはそういうと、部屋から出て行きます。
「エリー、何か心当たりは?」
『もちろん、ありません』
「そうよね。最近の私たちは、ほとんどローダウェイクにいて、王都に来るのも久しぶりですし、いったい何を勘違いしているのでしょうか……」
暫くして、ビアンカが戻って来ると、二つの袋を持っていて、その中から見たことのないぬいぐるみを取り出します。どうやら、エリーの能力が発揮されてしまったようですね。
「明日から販売する予定のレオンラビット君です」
「「「『レオンラビット君!』」」」
これは、いけません! 反則級に愛らしいウサちゃんです!
「鬣がフワフワしてとても可愛いです!」
ロゼのテンションが急に変わりました!
「確かエドワード様がニルヴァ王国のダンジョンで戦った魔物ですね。ローダウェイクで食べましたが、とても美味しいお肉でしたね」
ノワール……それは、今言っちゃいけないやつです。確かに美味しかったですけど……。
「実はレオンラビット君は二種類ありまして、今お見せしたのは、鬣に本物のレオンラビットの鬣を使用しているそうで、数に限りがございます」
「限定商品ですか!?」
フラムは限定という言葉に弱いのでしょうか? ビアンカはもう一つの袋から、別のぬいぐるみを取り出します。
「そして、こちらは、祝福の儀の後から発売予定のスノーホワイトちゃんです!」
「「「『スノーホワイトちゃん!』」」」
これは、危険です! モイライ商会は最終兵器を投入するようですね。これがあれば、頭に乗せたりヴァイス君に乗せたり遊びの幅が無限大に広がります!
私たちがぬいぐるみに、釘付けになっていると、ロゼは手に持ったぬいぐるみを置きました。
「ビアンカ? 私たちが聞きたかったのは、ぬいぐるみのことではなくエドワード様のことです」
ロゼ凄いです! エディ君の封印を解除するくらいの、ぬいぐるみ好きなのに、実はミスリルの精神の持ち主だったようです!
「……エドワード様の話でしたか、大変失礼いたしました。すぐにこれらは下げますので」
「ぬいぐるみは下げなくてよいわ。せっかく出してくれたのだから、もちろん、全て買い取ります!」
しっかり、ぬいぐるみの事も忘れてないところは抜け目がないです。ノワールはぬいぐるみとエディ様を前にするとポンコツになるので、ロゼは凄いのです!
「さすがはロゼ様。しかし、エドワード様の何をお聞きになりたいのでしょうか? 私に分かる範囲でなら、お答えいたしますが」
「マーリシャス共和国にいるエドワード様の身に、危険が迫っている情報が入りました。モイライ商会の情報網が凄いので、ビアンカに聞けば何か分かると思いまして、足を運んだのです。わたくしたち四人は婚約者として、エドワード様の身を案じていますのよ」
ロゼはどうしてフラムの能力のことを言わないのでしょうか?
「……なるほど。さすがはエドワード様の婚約者様方ですね。実は、ソフィア様からもし訪ねてきた場合、こう言うように仰せつかっております」
「ソフィア様からですか?」
「はい、『エドワード様はご無事です』。これだけお伝えするようにと言われております」
「「「『――!』」」」
よくわかりませんが、やっぱり大丈夫みたいですね。以前感じたような、嫌な感じがなかったので、大丈夫だと思ってました。
「そうですか……もう、ピンチは乗り切られたということですね?」
「そう……いえ、なんでもありません」
ロゼの問いかけにビアンカが答えそうになりました。ピンチはあったみたいですがさすがエディ様です。
それにしても、ロゼは二つしか違わないのに凄いですね。私も祝福の儀を終わらせて、ナイフを使って料理をしたいのです。
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