第384話 ヴァロア家
それにしても、アスィミの先祖がヴァイスと会っていたとは驚いたな。
大事な話は終わったので、防音の魔道具を解除してみんなで雑談していると、クレストたちがやって来た。
「エドワード様、ただ今戻りました!」
この適応力の高さは見習いたい。
「捕まっていた女性たちの様子はどうだった?」
「わたくしが説明いたします」
ヴィオラが答えるようだ。
「女性たちの数は三十二名。そのうち、十名が元貴族の関係者だと思われます」
「結構いたんだね」
「はい、女性たちはいずれも衰弱して心神喪失状態なので、会話をすることもできない者がほとんどなのですが、一人だけ会話可能な者がいました。情報はその者から聞いたものなので、正しい情報なのか分かりません」
「何か疑うことがあるの?」
「その女の名前はルイーザ・ヴァロア、歳は十三歳。ヴァロア家の生き残りで、当主だったアンリ・ヴァロアの妹ということです」
「アンリといえば、儂が倒した異形の名前と一緒だな」
「おじい様がですか?」
「うむ、ヴァロア家全体がそうなのかは知らぬが、かなりヴァーヘイレム王国に対する恨みが強い感じだったな」
「クレストは分かる?」
「申し訳ございません。ウェイブ家とヴァロア家の対立は長く、近年では一切会話することなかったため、アンリすらもどういう人物だったのか知らないのです」
「そこまで、仲が悪かったの?」
「かなり昔から仲が悪かったそうですが、プルボン家が実権を握るようになってから更にですね」
プルボン家は中立の立場だから、プルボン家に話しておけば、仲の悪い者同士が話す必要がなくなったのかな。
「ルイーザとは会話できそうなの?」
「彼女は、お湯で体を清めるときは動けない人を介助し、クレスト殿が用意した食事を食べさせるときは、他の女性を食べさせるのを優先して手伝っていたのですが、自分の分の食事を食べ終わると倒れてしまいまして」
「大丈夫なの!? 怪我をしているようなら僕が行こうか?」
「眠っているだけのようなので、その必要はないかと。少しだけ回復した女性から聞いた話では、他の女性たちの心が折れないように、ずっと励ましていたようですね。お腹が満たされて緊張の糸が切れたようです」
「話を聞く限りでは、しっかりした人物に聞こえるけどね」
「用意した食事を運んでいる時に、私がウェイブ家の人間と分かった上で、小声で言ったのです。プルボン家の四人を殺してくれと」
「敵対していたウェイブ家のクレストに?」
「そうなんです。ルイーザはかなり無理をしていたようなので、体力が回復してから詳しく話を聞くことにしますが、ウェイブ家とヴァロア家はプルボン家に嵌められたと言ってましたね」
「それは気になるね。とりあえずプルボン家の四人は離しておいた方がよさそうかな」
「念のために、プルボン家の四人、ヴァロア家の六人、その他という風に分けてあります」
クレストは仕事ができる男だね。
◆
全員を集めて、これからの話をすることにした。クレストたちもいるので、ヘルメスの糸や父様と話をしたことは伏せておくつもりだ。
「まず、結論から言うと、これから王都へ向かわなければならない。しかし、イグルス帝国がやって来る可能性もあり、クレストもモヌールの町やファンティーヌの町へ行かなければならないことを考慮して、王都へ向かうメンバーを厳選することにしたよ」
アキラに合図すると、アキラが頷く。
「ここからは、某が話そう。王都へはアルバン様やクロエ様も同行されるため、同行する隊を減らす。同行部隊はエディ親衛隊とエディ君に撫でられ隊の八名のみとし、某を含めた残りのエディ君を守り隊、エディ君を抱きしめ隊、エディ君とハグし隊の十三名はこの地でフィレール侯爵領の防衛と復興に向けた準備をする。ツムギはエドワード様に同行して王都で祝福の儀を受けるように」
全員が頷いたので異論はないようだ。それにしても、隊の名前にエディ君をつけたままにするのは恥ずかしいので止めてほしいが、笑いなどない真剣な空気なので言える雰囲気ではない。
「クレストはモヌールに行って応援を呼んでくるのと、おじい様の書状をヴァッセル公爵へ届けるのを頼んだよ。おじい様の書状を優先してもらえると嬉しい」
「お任せください!」
「エドワード様たちが、王都へ行っている間、我々はマーリシャス共和国を完全に掌握しつつ、フィレール侯爵領へと変えていかねばならない」
完全にってどういうことだろう?
「まず、ラエールの町については一切情報がない。ヴァロア家の人間からの情報収集を、ヴィオラが指揮を執ってエディ君を守り隊で行うように」
「「「「畏まりました」」」」
そういえば、ヴァロア家の拠点のことをすっかり忘れていたな。
「占拠が必要な場合、状況に応じて部隊を動かしますがよろしいでしょうか?」
「アキラに任せるけど、無理はしないようにね」
「お任せください。ところで、エドワード様にお願いがございます」
「何かな?」
「ルイーズの町の破壊された中央区についてなんですが、エドワード様の能力で瓦礫を押し退けることは可能でしょうか? 可能なら王都へ出発する前にお願いしたいのです」
「そうだね、瓦礫があったら復興の妨げになるからね。蔓で押し退けるから大丈夫だよ」
「ありがとうございます。それと、ここまで破壊されているのだから、どうせならエドワード様の描いた町を造るのはいかがでしょうか?」
「僕が描いた町?」
「アキラの案はおもしろいわね。どうせなら、ファンティーヌの町に負けない、美しい町を造るのはどうかしら?」
なるほど……確かに復興しても、ファンティーヌの美しさには遠く及ばない。どうせ造るのなら、同じではなく違うようにか……。
「分かりました。どのような町並みにしたいか考えてみたいと思います」
「それがいいわね」
「エディの町ができるのは楽しみだ!」
この後、僕がいない間の対応などを打ち合わせして、会議を終える。ファンティーヌの町よりも美しい町と聞いて、頭の中によぎった美しい町並み。アレをベースにすればファンティーヌの町に見劣りしない町ができるだろう。
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