第38話 Side コラビの町(上)
エディが旅立ち、数日が経ったところでコラビの町でも様々な動きが起きる。
――マルグリット視点――
エディが旅立ち寂しい日常を送っていたところで変化がやってきました。
新しい神父様がやってきたのです。
しかし、やってきた神父様は……はっきり言ってサイアクでした。私の考えが少し甘かったようですね。
新しい神父様は私の話には一切耳を傾けることなく私を追い出してしまいました。久しく忘れていましたが、この町に来る前はよくあった事なのです。
一緒に赴任してきた新しいシスターに、亡くなった神父様の手紙は渡したので、最低限のことはできたということにしましょう。
私物だけを持った私は取りあえず、カティの所に行きましたが、珍しく店は閉まっていました。
「カティ! いる?」
「あらメグ、いらっしゃい。新しい神父様がいらっしゃったそうね。どうだった?」
「どうもこうもないわ、サイアクよ。引継ぎも聞かずに追い出されたわ」
「えっ? 今度の神父様はそんな方なのね」
「ええ、私も久しぶりで忘れてたけど、そういう対応が普通なのよね」
「それで、これからどうするの?」
「もちろん、エディを追いかけるわ。カティには別れの挨拶にきたのよ」
カティは少しだけ考えると話し出す。
「ねえ、メグ。家に泊まっていいから、すこしだけ旅立つの待ってもらえないかしら?」
「少しでも早くエディの元に向かいたいのだけど、理由によっては考えてあげるわ」
「私も……私もエディ君の所まで連れていって!」
「どういうことかしら? 店はどうするの?」
「エディ君が旅立ってから考えてたんだけど、店をヴァルハーレン領に移転するわ」
「……それでお店を閉めてたのね」
「メグを護衛とする依頼をだせば、メグもすんなり他の町に入れるわよね? 南部は人族以外に対する偏見も強いから、お互いのためになると思うのだけどどうかしら?」
「町にはできるだけ寄らないつもりだったから、確かに助かるわね……でもそれって、エディがヴァルハーレン家に迎え入れてもらえる前提だけど大丈夫?」
「その時はその時よ。そうなった時に考えるわ。取りあえず店をギルドに売ったり、移転の準備をするから、少しだけ時間をちょうだい」
「分かったわ。私もその間に旅の準備をしっかりすることにするわ」
「ありがとう。それとこれあげる」
カティは服と下着を渡してくる。
「これは何?」
「あら、エディ君からの贈り物よ、私の分もあるけれどね」
「エディから!? どういうことかしら?」
「メグと私のことを心配したエディ君が、ジャイアントスパイダーの布を使って服を作るようにお願いしてきたのよ」
「エディが私のために……」
エディったらお姉ちゃん強いのに心配しすぎよ……。
「おーい、メグ帰ってきなさーい!」
「何よカティ、エディの優しさに浸ってたのに!」
「だから、私の分もあるんだって」
「私のついでにカティの分までなんて、エディったら優しすぎるわ。それにしても、エディの能力で作ったジャイアントスパイダーの布だから色がついてるのね」
「さすがメグ、ジャイアントスパイダーの布に色がつかないことを知ってるのね」
「これでも元A級の冒険者なんだから当然よ」
「色がついてるから、ジャイアントスパイダーの布とは誰も思わないけど、バレそうな時は、ただのスパイダー系の糸って言うのよ」
「分かったわ、でも下着まで作らなくてもよかったんじゃない?」
「エディ君がせっかく用意してくれた布ですから、少しも無駄にしたくなかったのよ! 余った布も使ったらこうなっちゃったの、だから旅の準備はこの服を考慮して揃えてね」
こうして私たちはエディの元に向かう準備をするのでした。
――マルグリット視点終了――
――アレン視点――
冒険者となり『火剣と水盾』というパーティーを結成した俺たちは、ユルゲンの父親のコネで商人の護衛依頼を受け、モトリーク辺境伯領の主都ヴィンスまで行って帰って来た。
数日かかる護衛依頼だが、メインの冒険者はBランクパーティーで、俺たちのパーティーはただの付き添い。護衛のノウハウを学びながら、箔をつけるだけの美味しい依頼だったはずだ。
しかし、依頼を終えて完了報告に来た俺たちは、全員バラバラの別室で取り調べを受けている。
取り調べの中で聞いたのが、町長であるユルゲンの父親と冒険者ギルドのマスターが捕まった話だ。
副ギルド長の女が俺に質問してくる。
「それで、アレン君はエディ君が冒険者を出来ないようにする企みを知ってるのかな?」
なぜこの女がそのことを知ってるんだ?
「な、なんの事ですかね?」
知らないふりをしてみる。
「はい、嘘1ね! あまり私を舐めないほうがいいわよ。今は機嫌が凄く悪いから容赦しないわ。次に嘘つくと冒険者辞めてもらうことになるかもねー」
ヤ、ヤバイ! なんでばれたんだ……。
これ以上は不味いと思った俺は、エディのことが好きなメアリーを引き離すためにユルゲンと組んだことから、俺がメアリーを好きなことまで洗いざらい話した。
「恋敵を仲間外れにしたということね、私の予想を遥かに超えてくるしょうもない理由ね」
「どこがしょうもないんだ!」
「大体アレン君の企みは失敗してるからね。アレン君がヴィンスに行っている間に、エディ君は商人ギルドに入って。冒険者ギルドでも持て余していた冒険者失踪事件と、その元となったジャイアントスパイダーを単独で討伐して、今では町の英雄よ」
「アイツは生産職のはずだぞ!」
「そんなの私は知らないわよ。私に分かるのはアレン君のパーティーが、冒険者ギルドに大損害を与えただけってことよ。今回の件は、別室で取り調べを受けている子たちの証言を合わせて総合的に判断するから、5日後に改めて来なさい」
俺がギルドを出ると、メアリーとトーマスが近づいてきた。
「アレン大変よ! エディが旅に出ちゃったって!」
チッ!こんな時までエディの話かよ……。
「孤児院に行ったらさ、新しい神父様が来たみたいで、それでシスター・マルグリットが辞めちゃったみたいなんだ!」
「何よそれ! エディ君と一緒に行ったんじゃないでしょうね?」
「それは知らないけど、孤児院で皆んなエディがジャイアントスパイダーを討伐した英雄だとか言ってたけど、アレンは何か知ってる?」
「ちょっとアレンどういう事よ! エディは戦えない生産職なんじゃなかったの? 私に嘘ついたのね!」
不味いことになった。さっき聞いたエディの噂ってそんなに広がっているのか!
「い、いや嘘はついてない。偶然倒したんだろう」
タイミングよく青い顔をしたユルゲンが、冒険者ギルドから出てきたので話を変える。
「おい、ユルゲン! こっちだ!」
ユルゲンがゆっくり近づいてくる。
「私とトーマスはすぐ解放されたのに、アレンとユルゲンは随分と時間がかったのね」
「ああ、依頼の報告とかもあったからな」
「町長とギルドマスターが捕まったって聞いたんだけど、大丈夫だった?」
トーマスめ、いきなり答えにくい質問をしてきやがった。
「そうだな、ちょっと不味いことになったな。ほらっ、今回受けた依頼も父親がギルドマスターに頼んで受けた依頼だったろ? 俺たちのパーティーをかなり疑っているみたいだったな」
「えっ、それってかなり不味くない?」
「どこが不味いのよ! 私たちは正式に依頼を受けてるんだから、堂々としていればいいのよ」
「それがそう簡単にいかないんだ。俺たちのパーティーは父親から援助を受けていたわけなんだから、当然父親が捕まれば、俺たちの立場も危なくなるんだから、父親に不利な証言はするなよ!」
「そんな……」
「5日後に冒険者ギルドまで来いって話だから、それまで俺の実家に泊まるのを止めて、しばらくは宿屋に泊まる。そこで話をすり合わせるからな!」
ユルゲンのやつ! 俺たち全員を巻き込んできやがった。
どうやら祝福の儀で、俺がユルゲンの口車に乗ったせいで、俺だけじゃなくメアリーとトーマスにまで、取り返しのつかない迷惑をかけてしまうようだ……。




