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第372話 Sideアルバン・ヴァルハーレン(上)

 マーリシャス共和国の兵士たちが出て行き少し経つとアザリエがやってきた。


「アルバン様、たくさんの兵士たちが外へ走って行ったのですが?」


「エディを探しに行く部隊と、もう一つはベニードを捕らえに行くと言っていたな」


「ベニードというと首相の?」


「うむ、マーリシャス共和国内でも、色々あるのは間違いなさそうだな」


「それにしても、アスィミはなぜ窓から脱出したのでしょうか?」


「メイドや兵士が来たからだろうな」


「兵士ぐらいアスィミなら余裕だと思うのですが」


「それは、あたしのせいだね」


「クロエ様ですか?」


「ソフィアがニルヴァ王国から侍女として連れて来たはいいが、当時はかなり喧嘩っ早い性格だったのよ。ソフィアの制止も聞かない状態だったから、あたしが指導したんだよ」


「クロエ様自らがですか……」


 勘のいいアザリエは気づいたというか、アザリエたちもクロエから定期的に訓練を受けているから、その厳しさが分かるのだろうな。

 

 アザリエが想像しているように、クロエのは指導なんて生温いものではない、儂でもあの時はアスィミが可哀想だと思ったからな、クロエには内緒だけど。


「敵のいない方へ行った結果、逆に離れていったのだろうな」


「なるほど。それにしてもかなりの数の帝国兵がいるようですね?」


「アザリエは気づいたようだな?」


「肌の色や雰囲気が明らかに違いますので」


「それもそうだな。この国の首相のベニードはあの様子からすると、帝国の者なのかもしれないな」


「帝国のですか?」


「うむ、ベニードについて誰も知らないこと、街道で帝国兵が好き勝手やっていたこと、忠誠心の無さを考慮すると、その可能性は高いだろう」


 まあ、儂の中では確定しているがな。


「よし、アキラ。順番に仮眠を取りながら敵に備えよ。相手が武器を構えるなら遠慮しなくてもよい」


「畏まりました。そのように伝えます」


「あの……アルバン様。私たちはどうしたらよいでしょうか?」


「ノーラか、お前たちは冒険者だ、戦いに加わる必要はない。好きに動いてよいというか、知り合いの安全を確認してくるがよい。状況的に考えて戦闘になる可能性が高い、できるようなら避難させた方がよいだろう」


「「「「ありがとうございます!」」」」


 部屋を出て、駆けて行くワイルドウィンドの四人の背中を眺め、彼女たちの知人の無事を願う。


「アルバンは、ワイルドウィンドの知人は無事だと思う?」


「半々だな。街道には、魔物に襲われただろう死体がたくさんあった。おそらくは逃げた人たちだろうな。マーリシャス共和国で港を封鎖された場合、逃げ場は整備されていない街道しかなくなる。あの魔物の数では逃げるのも難しいだろう。上手く町の中に隠れる場所があればよいのだが」


「そうね……」


 ◆


 明け方になり、町並みが見えてくる。儂からすれば、何度も見たつまらない景色、争いといった生温いものではなく、惨状が広がっている。エディならこの景色を見て、どんな感情を抱いたのであろうか、肝心のエディが戻ってこない代わりに、たくさんの殺気が近づいて来る。


「アルバン?」


「儂が応対するから、まだ手を出すなよ」


 足音と共に穴の空いた壁からたくさんの兵士の姿が確認できる。兵士たちは少し離れた所に陣取ると、一人の男が前に出てきた。


「アルバン・ヴァルハーレンとクロエ・ヴァルハーレンだな! 王国のインチキ伝説は今日で終わらせてやる! おい、連れてこい!」


 兵士たちが運んできたのは、この屋敷の管理人にして、ベニードを捕まえてくると言ったブルック。返り討ちにあったのか既に息はない。つまり、こいつがベニードか……歳は三十過ぎ、筋肉質の大きな体の男。しかし、この国独特の小麦色の肌ではないので、完全に帝国人だろう。


「それで、暑苦しいお前は誰だ?」


 少し煽ると、血管が切れそうなぐらい浮き上がり、鬼の形相になった。帝国にはこんな三流しか残ってないのか? 確か三英星とかいう特別な将軍がいたはずだが、全てを獣王国にぶつけているとすれば、王国はずいぶんと舐められたもんだ。


「首相の俺を知らないとは、これだからヴァーヘイレム王国は……」


「前の首相も名前程度しか知らぬのに、首相になったばかりの者など知るわけもないだろうが。ヴァルハーレン家にびびって引きこもっている三英星は出て来ないのか? 昔クロエが一匹仕留めたから今は二英星か」


「三英星様をバカにするなっ! 三英星様はヴァーヘイレム王国如きの相手をしている暇などないのだ!」


 マーリシャス共和国は既に帝国の手に落ちていたのか。三英星も補充されているようだし、兄上に報告はしないとな。王国は他国に興味無さすぎる連中が多すぎる。


「儂は今、非常に機嫌が悪い。可愛い孫との楽しみを奪った報いは受けてもらうぞ?」


「何が報いだ! たかが二十人ぐらいで何ができる!? こっちは五百人もいるのだぞ!」


「儂とクロエ相手に、将軍クラス抜きの普通の兵士五百人か? エディの騎士団もいるから楽勝だな」


 収納リングから大剣を取り出す。これはレギンに頼み、儂の魔力に馴染むよう作ってもらった特別な剣だ。それまでは王家の宝物庫にあった宝剣を使っていたのだが、まさかこの歳にして最高の剣に出会えるとは思ってなかったな。


 魔石を埋め込むことにより、魔力による剣の強化が簡単にできるようになるとは、思いついた儂の可愛い孫は天才だな。考えてみれば、素材もエディが出しているし、今着ている服もエディが出した素材で作ったものだ。可愛い孫の愛に包まれている儂って超無敵な気がする。


「どうした急に黙り込んで! 今頃恐怖しても、もう遅い! お前たちかかれっ!」


 号令と共に兵士たちが一斉に向かってくるが、ベニードは向かってこないようだ。

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