第333話 卵の調達
今日は大公家の牧場近くの森に来ている。この辺りは大公家の関係者しか入れないので冒険者たちも入れないのだ。
「エドワード様、森でいったい何を始めるのですか?」
アキラが質問する。今日、森に入ることを父様に相談したところ、ついでに魔物の討伐もするように言われたので今回は騎士団全てを連れてきている。カザハナにも乗ってきていたのだが、森には入れないので牧場の所に置いてきている。
「鳥の卵を安定して取りたいんだけど、住みやすい巣を予め用意したら入らないかなと思って」
「わざわざ巣を作るのですか?」
「この辺りは魔の森じゃないから、そこまで強い魔物もいないしどうかな?」
「おもしろい考えかもしれませんね」
「アザリエ殿どういうことですかな?」
「団長、殿と呼ぶ言葉遣いが駄目です」
「申し訳……以後注意する」
アキラも僕と同じで、なかなか騎士団長ぽい言葉遣いにならなくて苦戦している。
「それで、アザリエ。おもしろいというのは?」
「はい、エディ様。冒険者が卵を獲る場合、ベテランの冒険者などは予め巣の位置を覚えているのです。鳥系の魔物は巣に帰る習性のものが多いので、ベテランの冒険者ほど、様々な種類の魔物の巣を把握しているものです。討伐しなくてよいということは巣の位置を覚えておけば定期的に確保できるので、討伐の帰りのついでに盗ったりしていましたね」
「へー、そうなんだね。そういえば調理場で色々な卵を見かけるけど、十二、三センチぐらいで斑点模様のある卵が一番多いかな。なんて鳥の卵かわかる?」
「その特徴で一番多いとなると、おそらくウィズラですね」
「ウィズラ? どんな鳥なの?」
「体長は一メートルほどで、体が丸く茶色でまだら模様のある鳥です」
「思ったよりも大きいんだね」
イメージはウズラだけどサイズが異世界サイズのようだ。
「向こうからは滅多に襲ってこないので、冒険者になりたてにはちょうどよいのですが、高いところに巣を作るので梯子が必要になります」
「梯子が必要になると、討伐の帰りは難しいんじゃないの?」
「梯子が必要なのは冒険者になりたてですね。ある程度ベテランになれば、登る手段などいくらでもございます」
「なるほど、ベテランには秘策があるんだね?」
「いえ、登るのに慣れるだけですね」
全然秘策じゃなかったよ!
「親衛隊の四人とツムギはエドワード様のサポート、残りは某の指揮下で魔物の討伐。但し、ウィズラは討伐の対象外ということでいかがでしょうか?」
「アキラの言うとおりでいいよ。それじゃあ魔物の討伐のみんなも怪我しないように頑張ってね!」
――畏まりました!
何人か倒れたな……いい加減慣れて欲しいところだが、何か良い方法はないのだろうか。
「それじゃあ、僕たちも行こうか?」
五人を引き連れて移動する。ウルスの話によると、野生のウズラは植物の根元や地面の窪みなどに枯れ草で巣を作るらしい。ウィズラは木の上に巣を作るから、完全に別物と考えたほうが良さそうだ。
「どの辺りの木に作ろうかな……」
見渡すが、どこを見ても同じ森にしか見えない。
「回収のしやすさから考えれば、森の入口に近いほうが良いと思われますが、初めての試みなので、入口近くと少し入った所に設置してみるのはいかがでしょうか?」
「アザリエの案で行こうかな。それじゃあみんなが選んだ木に設置するから良さそうな木を探してね」
――お任せください!
みんなの目の色が変わった!?
「よしアザリエ! 誰の木にウィズラが住み着くか勝負よ!」
「あら、ニジェル。私に勝てるつもりなの?」
「二人とも喧嘩はみっともないですよぉ」
「私は今のうちに良い木を探す!」
「リリーさん、負けませんよ!」
アザリエとニジェルの言い合いをシプレがなだめている間に、リリーとツムギちゃんが走っていって、いつの間にか対決になってしまったようだ。
まあ、たくさん住み着いてくれればラッキーなので、今回はそのままでいいか。
しばらく待っていると、リリーがやって来る。
「エディ様、私はあの木でお願いします」
「あの木だね? 分かったよ」
蔓を使ってはしご車のバスケットを作り上がろうとすると。
「ちょっとエディ様! まだ私が乗っていないです!」
「リリーも上がるの?」
「もちろんです! こんなサービスタイムを逃しては一生後悔します!」
腰に手を当ててどうだ! と言わんばかりのポーズ。母性が薄い人ほどこのポーズをとるのはどうしてなんだろう。そして、リリーは相変わらず心の声が外に漏れているし、そもそもサービスタイムってなんだ?
しょうがないのでリリーを乗せて木の上まで登り巣を作ろうとすると。
「エディ様、お待ちください」
「どうしたの?」
「これは私の木になるのですから、巣もこだわりたいのです」
リリーの巣になるわけではないのだが、どのような形がベストか分からないので、リリーの指示どおりに作って見よう。
「大きさはこのくらいのボウル型にしてください。あと簡単な屋根も欲しいですね」
リリーの指示通りに作ると、直径一メートルの卵の中間を切り取ったような形になった。
「エディ様、完璧です! 中に藁を敷きますので、出していただけますか?」
藁を出してあげると、丁寧に敷いていく。意外と几帳面なのだろうか?
「これで、私の巣にウィズラが入るはずです!」
「色々とこだわってたけど、どうしてこの形状にしたの?」
「屋根はオリジナルですが、ウィズラの巣に似ている感じにしてみました。私はみんなより背が高いせいで、よく取りに行かされていたので三人よりウィズラに詳しいのです」
「へー、ウィズラの巣ってこんな感じなんだね。とても勉強になるよ」
「エディ様、可愛すぎます!」
そういうのはせめて本人に聞こえないように言って欲しい。リリーの場合心の声が漏れているだけなんだけど。
「リリーのはこれで完成だね。あとは登りやすいように梯子も作っておこう」
「さすがエディ様。これなら誰でも卵を獲ることができます」
「それじゃあ、降りようか」
「えっ!? もうですか?」
「完成したでしょ? それに、下で四人が待っているから」
リリーとバスケットで登っているのを見つけた他の四人は、次は自分の番だと下で待ち構えていていたのだ。
◆
結局の残りの四人もはしご車のバスケットで木の上に連れて行って、それぞれの思い通りに作ったのだが、みんな色々とこだわりがあるようでおもしろかった。
「設置が終わりましたがどういたしましょうか?」
アザリエが尋ねてくる。
「みんなのは終わったけど、僕のまだ作ってないでしょ?」
「エディ様も作られるのですか?」
「もちろんだよ。みんなが色々アイディアを出しているのを見てたら僕も作ってみたくなったんだよ」
みんなの設置場所から少し離れた所に良さそうな木を見つける。
「あそこがいいかな」
蔓でバスケットを作ると五人とも当たり前のように乗ってきたが、気にせずそのまま上がる。
みんなが注目する中、蔓でツリーハウスをイメージした巣箱を完成させた。
「「「「……」」」」
素晴らしい完成度に声もでないようだ。ツリーハウスのデッキ部分に上がると中に水飲み場や餌箱を設置し、床には木屑を敷いてふかふかにしておいた。
「エディ様……人が住めそうなんですが?」
「確かに一人ぐらいなら寝泊まりはできそうだけど、アザリエやリリーは無理じゃない?」
「三人ぐらいなら余裕そうです……これでウィズラが住み着くのでしょうか?」
「うーん、どうだろう? ウィズラ自体見たこと無いからなんとも言えないけど。警戒心が強い鳥だったら駄目かもしれないね。実験的に作ったから、みんなからは少し距離をとったんだ」
「そこまで警戒心の無い鳥ですが、さすがに人の家に近いのは難しいかもしれないですね」
「やっぱりそうかな? リリーが言うのなら間違いなさそうだけど、住み着いて繁殖してくれればラッキーぐらいの感覚だから大丈夫だよ」
「なるほど、繁殖ですか。卵から生まれてもほとんどが他の魔物の餌になるので、この中で育てば生存率はあがるかもしれません」
「やっぱりほとんど他の魔物に食べられちゃうんだ、ここで育って周りの巣に産んでくれるといいよね」
水と餌の穀物を入れたところで、鳥の巣設置工事と魔物の討伐も完了したのだった。
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