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第331話 ティータイム(前編)

 春の晴れた日の午後、温室ではなく中庭で母様やおばあ様とティータイムを楽しんでいる。


 空は青く広がり、風は心地よく吹き、庭に咲いている花の香りを運び、のんびりとした時間が流れていく。


「このフィナンシェってお菓子、とても美味しいわね」


「お義母様の言うとおりね。優しい口当たりでバターの香りが広がって、紅茶にとても合うわ」


「おばあ様と母様が気に入ったのならよかったです。ピエールがモイライ商会でも扱えるようにすると頑張っていましたよ」


「私の冷蔵庫にも入れておくように言っておかないと」


 おばあ様は相当気に入ったみたいだ。


「そうだわ。エドワードに一つ言っておかなければならないことがあるのだったわ」


 お菓子の和やかな話から一転、母様が真面目な顔をする。


「なんでしょうか?」


「婚約についてよ」


「四人の家からの手紙でもきましたか?」


「それはまだ出したばかりだからもう少し先よ」


「それではいったい?」


「ええ、エドワードと婚約する四家には条件をつけてあるの」


「条件というのは、あまり穏やかではないですね」


「まあ、念のためなんだけど、妾については自由に作ってもいいってことになっているわ」


 ブッ! 飲んでいた紅茶を噴き出してしまった。


「エドワード様これを」


 ジョセフィーナがタオルで拭いてくれる。


「いきなり、何を言い出すかと思えば、そんなのを条件に入れてあるのですか?」


「そうよ」


「いったい何のために?」


「主にはメグのためだけど、他にいてもいいわよ」


「メグ姉のためというのは?」


「本当はメグを正妻にしようとしてたんだけど、貴族は面倒と断られてしまったの。まあエドワードのためなんでしょうけど」


「僕のためですか?」


「そうよ。メグは常にエドワードのために動いているから。現状のエドワードを見て貴族の娘と婚約する方がいいと判断したんでしょうね。せっかく貴族としてのマナーとか教えていたのにもったいないわ」


「そんな勉強をしていたのですか?」


「もちろんよ。でも、エルフの血のせいか、人間とは感覚が違うのよね」


「確かに少し変だとは思いますけど。そこまでですか?」


「エドワードはマルグリットと長く一緒にいたせいで、その辺りの感覚が麻痺しているのね」


「それはあるかもしれません。それにしても、メグ姉とずっと一緒にいたいとは思ってますが、結婚は考えていなかったです」


「今はそうでもエドワードが大きくなれば分からないでしょ? メグはエドワードが大きくなっても今と変わらないのだから。ハーフとはいえ、見た目はエルフとほとんど変わらないのだから」


「母様。外見上メグ姉がハーフエルフと分かる要素があるのでしょうか? ほとんど変わらないというのが、いまいち分からなくて」


「メグから聞いていないのなら知らなくてもしょうがないわね。エルフなんてほぼ見かけないし。エルフの情報を持っているのは貴族か教会関係者だけでしょうから。シルバーの髪色のエルフなんていないわ。エルフは若干色の違いはあっても、グリーン系の髪色よ」


「そうだったんですね! メグ姉の髪がグリーンか……やっぱり、今のままがいいかな」


 そう言った瞬間、辺りが暗くなる。空を見上げると何かが落ちて……。


「ソフィア様!」


 コレットさんがいち早く動き、僕の顔が柔らかいもので包まれ辺りが闇に……どうやらシプレが僕を守ろうと動いたようだ。しかし、どれだけ経っても何も起こらない。


『あら、エドワー久しぶりね! ソフィまでいるじゃない!』


 聞き覚えのある声がしたので、シプレのクッションから離れる。


「エーデルオラケル! どうしてここに!?」


 エーデルオラケルという言葉にコレットさんは武器を収め、母様に覆いかぶさっていたメリッサも離れる。メリッサって意外と動けるのか? ちなみにおばあ様はそのまま席で優雅に紅茶を飲んでいた……。


「――フィア!」


 母様を呼ぶ父様の声が聞こえたのでそっちを見ると、父様が城の屋根を飛ぶように駆けて来て、母様の傍に降り立つ。


「フィア、大丈夫!?」


「もちろんよ!」


 どうやら、イチャイチャしに来たようだ……。


「エーデルオラケルはニルヴァ王国を離れて大丈夫なの?」


『私はいつもあそこにいるわけじゃないのよ? お腹が空いたから飛び回っていたらエドワーを見つけたのよ。ここがエドワーの城なのね! 前から家と似ていたから気になってたのよね』


 ずっとシロップを飲んでるだけじゃなかったんだ! それにしても、エーデルオラケルから見ても、ローダウェイクの城はニルヴァ王国の城とにているんだな。


『ところで、スーちゃんが食べているのは何? とても美味しそうなんですけど!』


 スーちゃん? エーデルオラケルが嘴を指したテーブルを見ると、スノーがエーデルオラケルそっちのけで、おばあ様とフィナンシェを食べていた……マイペース過ぎないか?


「僕が作ったフィナンシェというお菓子なんですけど、食べますか?」


『もちろんよ!』


 しかし、体長三メートルのエーデルオラケルに小さなフィナンシェ……しょうがない、今回作り置きした分も全部出すか。


 空間収納庫から大きな皿を取り出し、大量のフィナンシェを載せる。


『何コレ!? 凄く美味しいじゃない! エドワーやるわね!』


 一気に食べると思ったのだが、一個ずつ食べている。


『エディよ、そんなに出したら、(ワレ)の分が無くなるではないか!?』


 ヴァイスの分と決まっているわけじゃないが、ヴァイスの言葉にエーデルオラケルは食べるのをピタッと止める。


「ヴァイスの分はまた作ればいいでしょ? エーデルオラケルはほとんどニルヴァ王国にいるんだから、たくさんあげないと」


『むっ! それもそうか……ならばしょうがない。今度来る時は空の珍しい獲物を持ってくるがいい。代わりにエディが美味しいお菓子を用意するはずだ』


『ありがとうございます!』


 エーデルオラケルは食べるのを再開するが、またピタッと止めると。


『そうだっ! エドワーにこれをあげるわ!』


 ――!


 そう言って空いてる場所に巨大な魔物を置いた……エーデルオラケルは空間収納庫が使えるようだな。コジローはアシハラ国出身だから、空間収納庫は使えたはずだ。つまり、コジローがエーデルオラケルに教えたということなんだろうな……今は巨大な魔物の方が気になるけど。


 突然現れた巨大な魔物(死んでるけど)にみんな驚く。


「エーデルオラケル、これはなんて魔物なの?」


 エーデルオラケルは食べるのを止める。


『……鳥よ!』


 少しだけ考えて答えると、フィナンシェを食べることを再開するのだった。

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