第329話 家族会議
翌朝、バーンシュタイン公爵家の人たちを見送ったあと、家族で集まって話し合うことになったのだが、まだ始まらないようだ。
「父様、まだ始めないのでしょうか?」
「エドワード。話は家族が集まってからと言ったろ? 今回は他の貴族もいないから、二人を呼びに行かせているんだ」
「そうだったんですね!」
どうやら、メグ姉とカトリーヌさんを呼びに行っているようだ。ヴァルハーレン家の中で、家族認定されているという事実がとても嬉しい。
しばらく待っていると二人がやって来る。
「メグ姉にカトリーヌさん!」
「エディ、どうしたの? あまり穏やかな話ではないのかしら?」
「私まで参加していいのかしら?」
「二人もエドワードの母親なのだから当然よ」
「母様……」
メイドがメグ姉とカトリーヌさんにも紅茶をだして退出すると、家族以外誰もいなくなる。
「よし、それでは家族が揃った所で話し始めようか。まずは、フラム嬢のことをマルグリットとカトリーヌに説明しよう」
父様は二人にフラムがモイライの一柱であるアトロポス様の加護を授かったことと、未来視の能力のことを説明した。
「マルグリットはシスターをしていたけど、未来視の能力について何か知っていたりするのかな?」
「今の話にあった予言の能力は知っているけど、未来視の能力は聞いたことないわね。エディの糸の能力を調べた時に見た、教会の資料にも載っていなかったと思うわ」
「やはり、そうなんだね」
「それにしても、エディ以外にも加護持ちが現れたのね。しかも、エディと一緒でこの世界にいない女神だなんて……」
「フラム嬢の能力はエドワードの能力以上に情報が漏れるのを避けたい。逆に使えない能力なら良かったのだけど、既に能力の一部を無自覚に使っているみたいだからね。バーンシュタイン公爵と相談した結果、早急に対策しないとダメという結論になったんだ」
「父様、ヴァルハーレン家でも何かするということですか?」
「エディ君、フラム様に何かあったとき、最悪モイライ商会に繋がる可能性もあるということじゃないかしら?」
「カトリーヌの言うとおりだね。今まではエドワード一人の問題だったけど、そうではなくなったわけだ」
なるほど……こうなってくると、モイライ商会にしたのはまずかったような気がしてきたが、王都に支店を出した後ではどうしようもないな。
「何か対策をするということですか?」
「本当はもう少し時間をかけたかったんだけど、そうも言ってられなくなってきたからね。ただ、エドワードが嫌なら強制するつもりもないから安心して」
「フラムと婚約するということでしょうか?」
「端的に言うとそういうことかな。もちろん、バーンシュタイン公爵にも帰ってからフラム嬢に気持ちを確認することを条件にしてあるよ」
「フラムがエディを好きなのは間違いないと思うわよ」
「「「そうね」」」
母様がいうと、女性陣全員が頷く。会ったのは数回、もちろん嫌いではないが、婚約となると話は変わる。しかし、貴族では会ったこともない人と婚約というケースも普通にあるので、数回というのは多いのだろうか。心に引っかかるものがあるのも事実だ。
「エドワードは他の仲良くしている女の子たちのことが気になるんでしょ? あの子たちの頑張りが実っているようだから、少し安心したわ」
母様が言ってるあの子たちって、エリーとノワールやロゼのことだろうか?
「それで、エディ。今ソフィに言われた瞬間、思い浮かんだのは誰だった?」
「メグ姉、どういうこと?」
「ソフィは誰とは言わなかったでしょ? あの子たちで思い浮かんだ子は、エディが気になっている子ってことよ」
そういう意図があったのか……。
「真っ先に浮かんだのは、エリーとノワールで、次に浮かんだのはロゼのことですね」
「なるほど、その三人しか浮かばなかったんだね?」
「父様?」
「いや、イグニスたちと話していた時には、もう少し多くの名前が挙がっていたから、もう少し多いと思っていたんだよ」
「他にも挙がっていたのですか?」
情報元は母様とおばあ様だろうな。
「思い浮かんだのがその三人ならちょうどいいかな。フラム嬢を入れた四人を婚約者として、考えてみてはくれないかい?」
「四人の中から選ぶということですね?」
そう言った瞬間、みんなの僕を見る目が、一瞬残念な子を見るような目になった!
「まあ、中から一人を選ぶのも選択肢なんだけど。できれば四人纏めて考えて欲しいかな」
「いきなり、四人もですか!?」
「そのメンバーなら、四人一緒がいいね。まず、家格面から考えるとロゼ嬢とフラム嬢に絞られてしまうんだ。フラム嬢は加護の関係からも考えて欲しいけど、エドワードのサポートとしてはロゼ嬢の方に軍配が上がってしまうかな」
「確かにロゼはしっかりしてますけど……」
「ハリー、あたしはノワールに少し抵抗があるわ」
「おばあ様がノワールにですか?」
「なるほど、母様はテネーブル家に少し思うところがあるのでしたね。フィアとマルグリットはノワールのことをどう思う?」
「私は問題ないと思うけどメグはどうかしら?」
「かなり変わってる子だけど、大丈夫だと思うわよ。四人の中では一番エディに役に立ちそうだわ」
婚約に向いているとかじゃなくて、役に立つ?
「二人が大丈夫というのなら構わないけど、今度来た時にでも話をさせてもらえるかしら?」
「ノワールとですか?」
「ええ、少しだけ尋ねたいことがあるだけよ。反対とかじゃないから安心しなさい。そうね、アルバンも交えて三人で話をしましょう」
「儂もか? 分かったぞ」
おばあ様はテネーブル伯爵が嫌いなのだろうか? 僕も挨拶程度しかしたことないので、どんな人かはよく分かってない。
「そういえば以前おじい様が、テネーブル伯爵家とリヒト男爵家は王家と繋がりがあると言っていたと思うのですが、勝手に婚約を決めても問題ないのでしょうか?」
「それについても問題ないかな。既に両家とも許可を貰っているらしいよ」
「そうだったんですか!?」
父様から爆弾発言が。
「エドワードの強さは異形の件でほとんどの貴族に見られている。さらにシュトゥルムヴェヒターの件もプラスされて、全ての貴族から注目されているのは分かっているね?」
「はい……」
「元々は直ぐに決めるつもりもなかったんだけど、エドワードがこのまま大きくなっていくと、どんどん候補が増え続けることになる。幸い仲の良い子も現れたことだし、早めに決めておいた方がエドワードのためにもいいと思わないかい? 一人だと側室を狙ってくる争いが起きるから一度に四人決めてしまえば、少しは大人しくなるだろうと思うよ」
「ハリーの言うとおり、これ以上時間をかければ、他の貴族は妾の子を養子にする時間ができる。さらに、エドワードが今より大きくなれば、今現在赤子の子も大きくなり婚約者として立候補できる。エドワードが嫌じゃなければ、決めておいた方がよいだろうな」
おじい様の言うとおり、先延ばしにしないほうが良いような気がしてきた。今回の王都入りでも、すごい数のお茶会の誘いがあったそうだ。今回はモイライ商会のオープン準備ということで難を逃れたが、次回にその手は使えない。
「エディは、四人の子が婚約者じゃ嫌なのかしら?」
メグ姉がズバリと聞いてきた。はっきり言えば不満なんてあるはずもない。四人とも優しくいい子でそこに甲乙なんてものは存在しないのだ。おじい様や父様が一人なのに、いきなり四人というのが引っかかるだけなんだよね。
「エディはたくさんの人を救ってきたのだから、もう少し欲張ってもいいのよ? その四人がエディのことを好きなのは気づいているのでしょう?」
「もちろんです」
「だったら、その四人が他の誰かと婚約させられると考えてみなさい。エディと婚約できないということは、その子たちに待っている運命はそれだけよ。そうよね、ソフィ?」
「そうよ。私のように家や国を捨てる覚悟がないと、貴族の女は自分で選ぶことなんてできないわ」
母様はそこまでの覚悟をして父様の元へ来たのか……。
「……父様、四人との婚約を進めてもらえますか? 想像してみましたが、他の誰かと婚約するのは嫌でした」
そう言った瞬間、一瞬だけ、みんなの顔がホッとしたように見えた……。
「エドワードがそこまではっきりいうと思わなかったけど、とりあえず四人でこのまま話を進めるね?」
「……お願いします」
とりあえずという言葉に若干の引っ掛かりを覚えながらも、婚約者が決定したのだった。
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