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第323話 ヴォルフガング・ヴァルハーレン

 月に数回、ヴァルハーレン騎士団とフィレール侯爵騎士団合同で訓練を行っていて、アキラが帰って来たことにより騎士団が揃ったため、今日は訓練を行っている。訓練の時は、おばあ様が僕の護衛をすることにより、二人だけの時間を作ることに成功し、その時間を秘密の部屋や実験施設での研究に充てている。今日は秘密の部屋にある日記の研究をしているのだ。


「エドワードはさっきから日記を入れ替えて、何をしているんだい?」


「おばあ様、日記を部屋に少しずつ持ち帰って調べていていくつか分かったのですが、どうやら並べられている順番がバラバラになっているようなんです。最初におばあ様と見ていた日記はわりと中間ぐらいの日記で、おばあ様が言っていた冒険の日記は初期の日記ではないかと思います。意図的に順番もバラバラに並べたのかもしれませんね」


「……すまないエドワード。順番がバラバラなのはあたしのせいよ」


「おばあ様のですか?」


「ええ、私が中身を見た後、適当に片付けたせいね」


「そうだったんですね。意図的ではなかったのが分かれば大丈夫なので、問題ないです。それで内容についてなんですが、最初は普通に冒険者としての日記として書かれているようで、ある時から突然、女性絡みのどうでもいいような内容ばかりになっているようなんです」


「ある時というのは?」


「ヴァル、つまりヴァレリー・ヴァーヘイレムが出てきたぐらいからのような気がします。ヴァルとの関係などを隠すためなんでしょうか?」


「隠すためにどうでもいいような日記を付け加えたというのかい?」


「はい、付け加えたというのは間違いないのかと。これを見てもらえますか?」


 おばあ様にヴァルの事が書いてあるページを見せる。


「ヴァルのことが書いてあるだけじゃないのかい?」


「ヴァルのことが全く書かれてない日記も数多くあるので、まだすべては調べられていませんが、まず、ヴァルの事を書いてあるページとそうでないページの筆跡と紙質が若干違うのです」


 おばあ様はページをめくって、筆跡や紙の質感を確かめている。


「なるほど、確かにエドワードの言うとおり、文字の癖が違うし、紙質もヴァルの事が書かれているページの方が少しだけ古いのかしら」


「そうなんです! もしかしたら、元々あった日記を分解して、別の話を混ぜて誤魔化している可能性も考えられるかと」


「……それほど危険なことでも書いてあるのかい?」


「それがまだ全然見つけられていなくて、ただ、最初に分けた冒険者としての話が書いてある日記だけは区別できました」


「ということは、例のキノコについての情報が分かったのね?」


 ……そうだった、元々は変な色のトリュフの情報を探しているんだった! 途中からの秘密が気になってすっかり忘れていた。


「忘れていたんだね」


「色々と気になる情報が多すぎて、すっかり忘れていました。そういえば、キノコの情報が見つかったのでした」


「本当かい!?」


「はい、ちょっと待ってくださいね」


 付箋を挟んだのを思い出して、日記を取り出し開く。


「あった、これだ。虹色のトリュフに関しての記述はありませんでしたが、赤いトリュフはかけた食べ物にスパイシーな香りと辛さが追加され、ピンクのトリュフはかけた食べ物に甘い香りと味が追加されるようです」


「普通のトリュフと違って、味まで変わるのかい?」


「そのようですね。この冒険者ヴァレリーは肉をデザートのように食べています。見つけた段階でラッキーと書いてありますし、別の日に他のキノコを食べている記述がありましたので、もしかしたら、この時代はわりとキノコを食べていたのかもしれませんね」


「それは興味深い話ね。それにしても虹色のトリュフについては無かったのね?」


「まだ全て読んだわけではないのですが、普通の冒険者日記の後半には食べ物に関する記述は少ないように感じますので、可能性的には低いのかなと思っています」


「それにしても、エドワードがトリュフのことを忘れるぐらいのことが、その日記には書いてあったのかい?」


「そうなんですよ! この日記にレギンさんのことが書かれているのです!」


「レギンのことが? どういった内容なんだい?」


「どうやら武器を作ってもらう代わりに、空属性の力を魔石に込めたようです」


「――! それは本当の話なのかい!?」


 おばあ様はかなり驚いたようだ。


「間違いなさそうです。多分ですが、貴族がもっている高速馬車に使っているやつですよね?」


「さすが、エドワード。気づいていたのね」


「もちろんです。ただ、レギンさんが魔石を作れると思っていたのですが、現在出回っているのは、過去にヴォルフガングが魔力を込めた物になるってことなんですかね?」


「そうね。あたしも以前、気になってレギンにそれとなく聞いてみたけど、過去に作られた物を流用するしかないらしいわ」


 おばあ様は既に確認していたようだ。大きな貴族が持っている高速馬車を新たに作る時には、古いのを分解して必要な装置は流用して作るのが基本らしい。


「レギンさんにヴォルフガングのことを聞いてみるのはダメでしょうか?」


「レギンが知っているのは冒険者のヴォルフィという人物で、武器を何回か作った後のことは知らないらしいわ」


「ということは、ヴォルフガングがドルズベール王国を滅亡させたのも知らないということなんですね?」


「ええ、それどころか、その魔石の利用法を研究していたせいで、国が変わったのにも気がつかなかったみたいよ」


「その辺りは今と変わってないんですね。レギンさんに空属性のことを言うのはダメなんですよね?」


「それについても、もう少し時間をちょうだい。最悪その空属性の魔力が必要な場合はあたしがするわ。エドワードは黙ってなさい」


「分かりました。ちなみに、おばあ様はヴォルフガングについて何か知ってることはないのでしょうか?」


「そうね……あたしが知っているのは、ルトベアル王国の王族の末裔ってことと、ローダウェイクを奪還したってことぐらいかしらね……」


 おばあ様の様子から、今の僕に話せるのはここまでなんだろうなと感じたので、これ以上ヴォルフガングについてを聞くのを諦めたのだった。

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