第32話 旅立ちの準備
糸を使って森の中を高速で移動できるようになった僕は、メグ姉に相談してみることにした。
「メグ姉、そろそろヴァルハーレン領に向かってみようと思うのだけど、どうかな?」
「そうね、向こうがエディのことを探しているとしたら、できるだけ早い方がいいわね。レベルも結構上がってきたし、糸を使って森の中を移動できるのも凄いから、そろそろいいんじゃないかしら」
「それじゃあ、準備しようかな」
「必要なものは二人で買いに行きましょう。ごめんね、本当は一緒に行きたいのだけど、次の神父様が未だに派遣されてこないのよね」
「神父様が亡くなった知らせを出したのに、誰も来ないんだっけ?」
「そうなのよ。多分辺境の町だから、誰も来たがらないのね。亡くなった神父様がそのようなことを以前言ってたわ」
「新しい神父様が来たら、シスターは辞めちゃうの?」
「そうね、私は正式なシスターじゃないからね。亡くなった神父様から預かっている手紙を次の神父様に渡すまでが私のお仕事よ。渡したらエディを追いかけるから、辛いことになっても無茶しちゃダメよ」
メグ姉がそう言って抱きしめてくれた。
「メグ姉もヴァルハーレン領に来てくれるの?」
「もちろんよ、ダメだったときはお姉ちゃんと冒険しましょ。優秀な商人には護衛が必要でしょ?」
「ありがとう。メグ姉がいると心強いよ」
◆
必要なものを買いに、二人で出かけることになった。
「まずは何から揃えようか?」
「カトリーヌさんに外套を頼んであるので、まずは取りに行きたいかな」
「分かったわ」
いつものように、カトリーヌさんの店に入る。
「カトリーヌさん。頼んでおいた外套はできてますか?」
「できてるわよ。青いのと黒いの二着ね」
青い外套は少し豪華に作ってあり。黒い外套は機能性重視だ。
「ありがとうございます。いくらになりますか?」
「他に布を貰っているから、いらないわよ」
「いいんですか?」
「貰いすぎで、逆にお金を払いたいぐらいなんだから大丈夫よ」
「エディ、下着と替えの服も何着かついでに買っておきましょう。カティ見繕ってちょうだい」
「分かったわ。エディ君、選ぶから奥に行きましょう」
そう言って店の奥に連れて行かれ、メグ姉とカトリーヌさんの着せ替え人形になってしまい1件目から疲れてしまったが、気を取り直して道具屋に向かう。
「さすがはカティね。エディ用に良いのを用意してあったわね」
「やっぱりあれって僕用なんですか?」
「もちろんよ。普通はエディの体にあったサイズなんて置いてないわよ。カティに感謝しておきなさい」
「もちろんです」
「手拭いとかの布類は、エディが出せるから買わなかったわ、後で出しておくのよ」
「そうですね。帰ったら用意します」
話をしながら歩いていくと、道具屋に到着した。
「ここが道具屋よ。旅に必要なものならなんでも置いてあるのよ」
メグ姉が中に入るので、一緒に入る。中には様々な道具が乱雑に置いてある。
「まずは水袋からね」
「水袋?」
「旅をするには水の管理が一番大切よ。ヴァルハーレン領はかなり遠いから、少し高いけど魔道具にしておきましょ」
「そんなのあるんだね」
「そうよ、これがいいわね。水袋に付いている魔石に魔力を流すと水ができるのよ」
皮でできた水筒の側面に、水色の魔石が埋め込まれている。
「便利そうだね、それを買うよ」
「あとは火をつける魔道具とカンテラ、簡単な食器類と調理具。旅だからいつもの頭陀袋より、リュックサックの方がいいわね」
「結構色々必要なんだね」
「もちろんよ。遠い場所に行くんだから、色々用意しといた方が間違いないわ。あと念のために、ポーションも買っておきましょう」
必要なものを買ったので、道具屋を出ると。
「次は携帯用の食糧ね」
次は食糧を買いに行くようだ。
「携帯用はそんなに種類がないから、堅焼きパンと干し肉ね。あと塩もいるわね」
収納リングは時間が止まらないので、生ものは持っていけないのだ。
「じゃがいもぐらいなら、持って行っても大丈夫かな?」
「そうね普通はかさばるから持っていかないけど、エディなら大丈夫ね」
食糧を購入して店を出る。
「これで大体必要なものは揃ったわね?」
「そうだね、大丈夫だと思うよ」
「それじゃあ、今晩は晩御飯を一緒に食べましょ。食材を買って帰るから、エディは商人ギルドに行って挨拶してきなさい」
「そうか、旅に出るから、報告しないといけないんだね」
メグ姉と別れた僕は商人ギルドへ向かい、ビアンカさんに行商の旅に出ると報告する。
ジャイアントスパイダーの糸のオークションは1ヶ月後らしいので、その後に近くの商人ギルドで確認して欲しいとのことだった。
その後、レギンさんとマーウォさんのところへも報告しに行く。
レギンさんには鋼の棒を売って欲しいと言われたので、いくつか卸した。この間、渡した分はもう使ってしまったらしい。
マーウォさんにはメグ姉用のリングを貰ったお礼に、アクセサリーに利用出来そうな銀の糸をプレゼントしたら喜んでいたが、喜ぶ姿が怖かったのは内緒だ。
帰るとメグ姉が夕食を作って待っていた。いつもの味気ない孤児院の夕食と違い、とても美味しい夕食で肉もあったのだが、無理をして明るく振る舞っているメグ姉を見ると、寂しさが込み上げてくる。
いつもはメグ姉の抱き枕として寝ている僕だが、しばらく会えないと思うと急に不安になってきて、メグ姉に抱きついたまま寝てしまうのだった。




