第316話 パレードの始まり
モイライ商会の視察をして数日が経った。
結局、モイライ商会のオープンは結婚式のパレード後に決まった。プレオープンの初日は王族の人たち、次の日に他の貴族、その後一般販売という順番に決定したのだが、どう考えても品物が不足しそうだったので、パレードまでの数日間はモイライ商会の商品をとにかく作りまくっていた。リュングとロヴンも大活躍で、大きな店舗に見合うだけの商品を、取りあえず揃えることができたはずだ。
この世界の結婚についてだが、一般的に何か特別な式をすることはないそうで、夫婦で指輪の交換をして終了らしい。指輪は左手の薬指にはめるのは地球と同じなのだが、ここでメグ姉の左手の薬指に指輪をはめたことを思い出す。メグ姉から貰った収納リングは、左手の中指にはめている、この場合はどうなるのかは不明だ。
パレード自体は、申請した貴族の屋敷の前と街中をオープンの馬車で走るらしく、ヴァルハーレン家の屋敷にもじきに到着するだろう。街中は公爵が全て到着したぐらいから既にお祭り状態で、至る所で食事や酒が振る舞われていて、単独で外出しないよう言われている。
「エドワード様、もうじき馬車が到着するようです」
ジョセフィーナが呼びに来た。
「分かったよ、外に出ようか」
外へ行くと、もうみんな勢ぞろいしている。騎士団は完全装備で出迎えるんだなと見回していると、父様も出てきた。
「もうそろそろ来るみたいだね。僕はカトリーヌたちの作ったドレスをまだ見ていないから、とても楽しみだよ」
「そうでしたね。とても華やかなドレスなので、期待していてください」
「そうするよ」
外に出てしばらくすると、パレードの一行が見え始める。鎧の上から華やかな衣装を着て白馬に跨った騎士たちが見え、その後ろにアルバート王太子殿下とセレーナさんが乗った白いオープンの馬車が現れた。馬車は金色や鮮やかな青色などで装飾されており、二人は幸せそうな笑顔で手を振ってくれたので、僕も振り返し、ヴァルハーレン家の使用人も総出で拍手と歓声で二人を祝福した。
さらに後方には、ブライズメイドの二人と王太子殿下側のアッシャーの二人がペアになって乗った馬車が二台やってくる。こちらは黄色いオープンの馬車で、最初の馬車にシーン・リュミエールとタチアナ・ヴェングラーの二人が乗り、次の馬車にローザ・ルージュとグレース・アルジャンが乗っている。残念ながら同乗している男性は分からない。多分会ったことはないはずだ。
「見たこともない、白さの美しいドレスだね! エドワードが自信満々なのも頷ける。ドレスによってセレーナの華やかさが桁違いに引き出されているように見えるよ!」
さすがの父様も、ウエディングドレスの美しさに驚いているようだ。ウエディングドレスはこの世界では見ることができないような、白色のドレスになっており、花嫁の美しさが際立って見える。また、ドレスはウエストからふわりと広がるプリンセスラインの形で、セレーナさんの細くしなやかな身体をより美しく見せている。スカートがふんわりと広がっているのは、下にパニエを着用しているからで、僕の中でのプリンセス感としては百点満点だ。
パニエとは、スカートの裾をふくらませるために着用する下着の一種である。パニエの起源は、16世紀にヨーロッパで流行した、ベルチュガダンというドレスにあるとされる。しかし、この世界ではまだ、ベルチュガダンとパニエは存在していない。今回、ウエディングドレスにパニエを採用することで、新しいファッションのトレンドを作り出すことができるかもしれないな。モイライ商会では、このパニエをウエディングドレスだけでなく、普通のドレスにも合わせられるように販売する予定になっている。
一方、ブライズメイドの四人のドレスは動きやすいようにパニエは使わないが、春らしくパステルカラーのドレスにした。パステルカラーもまだ存在してない色のため、かなり目立っているような気がするな。
多少やり過ぎた感はあるが、アルバート王太子殿下を祝うためだから、まあいいだろう。
王太子になると、結婚までパレードしなければならないとは大変だな……あれっ、もしかして、僕はヴァルハーレン領でしなければならないのか? 前にパレードで使った馬車は、父様と母様の結婚で使ったと言っていたような。母様が王女だったからやったのか不明だが、覚悟をしておいた方がよいのかもしれない。まだ先の話だけど。
しばらくすると、パレードの列は通り去る。大公家は順番的に一番最初なので、次は公爵家と侯爵家を回った後、街の中を回るようだ。伯爵家以下は回らないらしい。伯爵以下では王都に屋敷を持っていない人もいるためだからなんだとか。
◆
屋敷の中に戻ると紅茶を飲みながら、父様と会話する。
「これで、一通り終わったと思うのですが、この後はどうなるのですか?」
「まだ、終わってないからね。パレードはあと一日、今日を入れて二日間行われるんだよ」
「明日もあるんですね」
僕がやったローダウェイクでのパレードでも、二日間あったことを考えれば当然か。
「それでは、その後にモイライ商会のオープンとなるのですね」
「いや、その前に、結婚された二人へ祝いの品を各貴族が順番に届けるんだよ」
「お祝いの品ですか? 初日に父様が王城へ行った時に届けたと思っていました」
「あの時はまだ、結婚の儀が終わってないから二人揃ってないからね。パレードを終えて結婚の儀が終わってから順番に持って行くことになるね」
「そうなってくると、パレードが終わってから最低でも二日間はお祝いの品を届けることになりそうなので、モイライ商会のオープンはその後でしょうか?」
「それについてだが、明日のパレード終了後、夜に王族を招きたいと思っているのだけどどうかな?」
「それでは、アルバート殿下たちは疲れませんか?」
「殿下からの提案だから問題ないよ」
「分かりました。それではビアンカに、その日程で調整するように言っておきますね」
「頼んだよ」
急な話ではあったが、モイライ商会のオープンも決まって一安心だ。
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