第312話 エドワード像※
ローダウェイクの城へ帰ると、おばあ様が聞いてくる。
「エドワードは商会で作っているソースのことを、言わなくて良かったのかい?」
「ええ、アレは彼が考えた物です。この先どう進化するのかは誰も分からないので、楽しみですよね」
「同じような結果になった時、エドワードが真似したと思われるんじゃないかい?」
そうか、その可能性も残っているのか。
「後でエミリアを通して、商人ギルドに報告してもらいましょうか」
「その方がいいと思うわ」
「ところで、父様が言っていた話って何でしょうか? ファンティーヌからの人たちが関係していると、母様は言ってましたよね?」
「ほら、ファンティーヌで海神様になっちゃったじゃない?」
母様はいきなり何を言いだすんだ。
「なったわけではないですが、そう呼ばれてはいましたね」
「エドワードがニルヴァ王国に行っている間に、拝む人が増えたと報告を受けて、ハリーが調べさせたのよ。そしたら、ファンティーヌからローダウェイクに来た人たちが拝んでいたらしいわ」
「ファンティーヌからですか!?」
「そうなのよ。どうやらシュトゥルムヴェヒターに家族を殺された人たちが、感謝をしに訪れているらしいの」
「遠すぎませんか?」
「かなり遠いわね。おそらく、途中で行き倒れになる人もいると思うわ」
「どうして、そこまでして……」
「今まではシュトゥルムヴェヒターを神として扱っていたから、家族を殺されても我慢していた部分もあるのでしょう。中には残された家族に対し、神に殺されたのは罪を犯したからだと、周囲から罵られていた人もいたようよ。それが魔物として討伐されれば、エドワードは敵を討ってくれただけじゃなく、残された家族も救ったことになるのよ」
「……」
神に殺されるということは、そういうこともあるのだろうか。
「それで、エドワードに見て欲しい物があるのよ」
母様が収納リングから取り出したのは、高さが20センチぐらいの二つの木像。一つは僕が立っている木像で頭にヴァイスが乗っているように見える、もう一つはシュトゥルムヴェヒターをイメージしたと思われるクジラに乗った像。精巧に作られていないので知らない人が見ると、ただの少年像にしか見えないのかもしれないが。
「これは?」
「エドワード像よ! こっちが商売の神で、こっちが海神ね」
何だか頭が痛くなってきたぞ。
「どうしてそのような物を?」
「僕が説明しよう。さっきのファンティーヌから来ている人たちにも関係するのだけど、ヴァッセル公爵から手紙が来てね。どうしてもローダウェイクに行きたい人たちが増えて困っているそうなんだよ。フィアが言ったように、途中で行き倒れになる人の方もいるようだから、せめてファンティーヌで拝めるよう、像を設置したいから、販売してくれないかということなんだ」
「ヴァッセル公爵領では、そのようなことが起きているのですね」
「それで、私がリュングに頼んでそれを作ってもらったのよ。一目でエドワードと分からないように、細かな部分は省いてあるわ」
どうやら、母様がリュングに作らせたみたいだな。
「それでは、これを販売するのですか?」
「これは見本の一つよ。見本品を渡して、もっと大きな像を大理石で造らせているわ」
「木像を販売するのではないのですね」
「木像も販売するけど、今のところ、そこまでたくさん作るつもりはないわね」
「ヴァッセル公爵にお任せというわけにはいかないのですよね?」
「そうね、勝手に大公家嫡男の像は作れないわ。うちから依頼するのはいいのだけど、エドワードはそれでもいいのかしら?」
ヴァッセル公爵に任せるということは、レーゲンさんに任せるということだ……不安しかないな。
「このまま、うちで作りましょう!」
「そうなるよね? よし、エドワードの了解も取れたから、そのまま話を進めるね」
ん? ……了解? ……しちゃったよ! でも、ファンティーヌから来る人のことを思えばしょうがないのかな。
「エドワードは明日からの出発の準備はもうできているかい?」
「はい、問題ありません。ところで、母様はどうするのですか?」
「残念ながら、大事をとってフィアはお留守番させるよ。父様と母様も念のために残ってもらうから、僕とエドワードだけだね」
「僕はフィレール侯爵として騎士団を率いればいいんですよね?」
「そうだね。僕は大公としてフォルティス率いる騎士団を動かすから、エドワードは僕の軍の前を騎士団を率いて行軍してくれればいいよ。カトリーヌたちもカザハナの引く馬車に乗せてくれればいいからね」
「分かりました。馬車は今日使った、大型のやつでいいですか?」
「いや、新しいのを作らせたから、明日からはそれを使うといい。今頃はレギンが最終調整しているはずだよ」
「新しいのですか?」
「新侯爵が古い馬車では格好がつかないし、カザハナのパワーに耐えられる物が必要だろ?」
「分かりました。後で見に行ってみます」
◆
父様たちとの話が終わったので、新しい馬車を見に行く。現在はカザハナの所で調整中ということだ。
馬房に向かうと、外に停めてある馬車が見えたのだが。
「……ねぇ、ジョセフィーナ。あの馬車、少し派手じゃない?」
「そうでしょうか? エドワード様が乗るにしては、まだまだ地味なのではないでしょうか」
うん、聞いた相手を間違えたな。レギンさんがいたので声をかける。
「レギンさん」
「小僧か、新しい馬車を見に来たんじゃな?」
「そうなんですが、少し派手じゃないですか?」
「貴族の馬車なんてこんなもんだろ。カザハナが引くのだ、このくらいの方がちょうどよいだろう」
「確かに商人ギルドへ行くときに使った馬車は、カザハナが引くと見劣りしてたかな」
話をしているとカザハナが馬房から出てきた。
「カザハナ、明日から頼んだよ」
話しかけると、頭を近づけてくるので、撫でると嬉しそうにする。
「ピッ!」
馬車の周りを飛んでいたスノーが紋章を指差す。羽だから羽差すのかな。
「紋章にスノーが入ってないのは、紋章を作ったのはスノーが仲間に入る前だからだよ」
スノーはフィレール侯爵の紋章に、自分が入ってないことを指摘してくる。フィレール侯爵の紋章はヴァイスをモデルとした狼を軸に考えてあるのだ。
「もし変更する機会があるなら、スノーとカザハナも入れた紋章にしようね」
「ちょっと待ったぁ!」
ウルスが出てきた。
「私を入れるのを忘れていますよ!」
「ウルス、よく考えてみて。貴族の紋章にクマのぬいぐるみが入ってたらどう思う?」
「それは、みんなの笑い者になると決まっているじゃないですか! ……はっ!?」
「気がついたみたいだね」
「誰が私をこんな体にぃぃ!」
ミネルヴァ様でしょうが。
「ぬいぐるみはほっといて、馬車の説明をするぞ」
「馬車の説明ですか?」
「そうじゃ、色々と改造しているから説明しておくぞ」
レギンさんの説明を受けながら、この人は、しっかりローダウェイクライフを楽しんでいるなと思ったのだった。
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