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第311話 屋台

 王都へ出発準備をしている中、ヴァルハーレン家一同は、ローダウェイクの商人ギルドにやってきている。


「まさか、アルバン様やクロエ様までいらっしゃるとは」


 ギルド長のレークスが驚いている。僕もおばあ様まで来るとは思わなかったけどね。


「ローダウェイクに新しい風が吹いているのよ。あたしにも見届ける義務があるわ」


「そうですな。ファビアン様やユリーア様にも見ていただきたかったです……」


 ファビアンとユリーアは、おばあ様の父様と母様になる。


「あたしとアルバンはただの見学だから、気にしなくていいわ」


「畏まりました。それではマヌエラ、説明……は無理そうだな。アリアナ頼めるか?」


「畏まりました」


 アリアナが答えた。マヌエラは屋台の担当者なのだが、極度のあがり症で現在は錆びついたロボットのように固まっている。あれから何度か打ち合わせをしたので僕だけなら大丈夫なのだが、ヴァルハーレン家勢揃いは荷が重いようだ。


「それでは、兼ねてより準備していました、屋台をオープンすることになりました。資料のように最初は十店舗でスタートして、状況をみて増やすかを判断いたします」


「アリアナ、増やすかを判断するということは、申込みはもっと来ているということなのかな?」


「ハリー様、その通りでございます。計画が決まってから告知を出したところ、予想より遥かに多い申込みがありました。件数でいえば五十件ほどですが、無計画なものも多かったため、実際に開店できそうなものは二十店舗ほどでしょうか」


「なるほど、二十店舗を十店舗に絞った理由は?」


「計画のみでなく、直ぐに実行に移せそうか、保証金を支払えるかなど厳しく判断した結果十店舗となりました。もう二店舗は準備が整い次第開店できるかと思います」


 予想以上に屋台を始めたい人がいるようだ。


「保証金というのは?」


「ア、アリアナ、ありがとうございます。落ち着いたのでもう大丈夫です」


「分かりました。ここからはマヌエラが説明いたします」


「マヌエラ、よろしく頼むよ」


「はっ、はひ!」


 まだ緊張は解けてないようだな。


「エ、エドワード様と事前に相談させていただき、その内容を商会や屋台を始める人たちで話し合った結果、屋台の店舗は商会で用意して貸し出すことに決定いたしました」


「なるほど、その為の保証金か」


 ちょっとした説明で理解する、父様さすがです!


「はい、保証金は屋台を辞めた際の使っていた屋台の修繕費や、滞納した場合の場所代に回します。屋台を商会で用意することにより、屋台を一から作らなくてもよいので店舗を始めやすいだけではなく、屋台の基本の形を揃えることで、景観的にも優れているという素晴らしいアイディアです! さすが商売の神、エドワード様です!」


 マヌエラは拳を握りしめて力説している。緊張は解けたのかな? あと、商売の神ではないからね。

 

「屋台を持ち逃げされた場合、商業ギルドに損失がでるけど大丈夫かい?」


「はい、最初。エドワード様からこの提案が出た時、真っ先にでたのがその意見でした。ただ、エドワード様から人物を見極めるのは商業ギルドの腕の見せ所と言われて、私たちギルド職員一同目が覚めまして、今はローダウェイクから新しい店舗の形を普及させる意気込みでございます」


 まずいな、軽く場を和ませるつもりで言っただけなんだけど、ここまでヤル気になるとは思わなかったぞ。


「なるほど、エドワードがね……」


 父様はそう言うと、僕の方を見た。マヌエラに僕のアイディアと言うのを口止めするのを忘れたのはミスだったな。


「商会の方でしっかり検討されているようだね。それで、今日は並べた屋台を見ることができるんだったよね?」


「はい、セッティングは完了しておりますので向かいましょう」


 ◆


 僕たちは馬車に乗り込んで現地に向かう。歩いて向かえる距離だが、色々とダメらしい。


 馬車は以前、ヴァッセル公爵領へ行くときに使った大型の馬車をカザハナが引いている。大型の馬車は地味なせいか、カザハナが凄く目立つ! カザハナに乗って訓練しているのを何度も目撃されているので、中に僕が乗っているのがバレバレだ。マヌエラの発言から分かるように、ファーレンの町で始まった商売の神は、すでにローダウェイクでも浸透しているので、ある意味、見世物状態なのだ。


「声援はともかく、祈るのはなんとかならないかな……」


「クロエや、儂、ハリーでも祈る人はいないんだ、もっと誇ってよいと思うぞ」


 僕の呟きに、おじい様が答えた。


「ちらほらと海神様と聞こえるのですが……」


「それはファンティーヌから来た人たちのせいね」


 母様が不穏なワードを発したぞ。


「母様、ファンティーヌからとは?」


「エドワード、もう到着するからその話は帰ってからにしよう。ちょうどそのことも話そうと思っていたんだよ」


「父様、分かりました」


 話は途中になってしまったが、馬車は商店街側の屋台エリア入り口に止まる。屋台エリアは商店街側と冒険者ギルド側から入ることができるのだ。


 僕たちが馬車から降りると歓声が沸き、市民が集まって来た。


「お待ちしておりました」


 マヌエラさんたち、商人ギルドの人たちが出迎えてくれる。馬車より早いのは、馬車がわざと遠回りしていたからなんだけどね。


「これが屋台というものなのね」


 おばあ様が呟き、家族みんな興味深く道の両サイドに規則正しく並べられている屋台を見ている。屋台のアイディアはいくつか出したのだが、採用したのは大きな車輪が二つついた、移動式のキッチンカーにしたようだ。提案した中では作るのが大変そうなやつだったけど、商人ギルドはかなり頑張ったようだな。


「ここで、パレードの時に振舞った、串焼きや唐揚げなどを販売するんだね」


「ハリー様、その通りでございます」


「これは、なかなか壮観だね。まだ開店してないとはいえ、賑わうのが想像できそうだよ。マヌエラも大変だっただろうけど、開店まであと少し頼んだよ」


「あっ、ありがとうございます!」


 残念ながら僕たちは王都へ向かうので、オープンするのは見ることができないが、父様の言う通り、ここまで力を入れているなら大丈夫だろう。


「マヌエラ、あれは?」


 ちょうど屋台エリアの中央の屋台に人影があり、何かを焼いているように見える。


「あれは、今回出店するヤシクという者で、串焼きを販売いたします。実際に作っている姿もお見せしようと、今回は実際に焼いてもらっています」


「近くに行っても大丈夫ですか?」


「もちろんでございます。エドワード様に近くで見ていただけるのなら、彼にとって極上の喜びでしょう!」


 極上の喜びってなんだ!? マヌエラのテンションも若干おかしいような。


 みんなで屋台の近くに移動すると、遠くから見ている人たちも移動する。ゴルフのギャラリーみたいだな。


「ひっ! 神様!(エドワード様)


 あれっ!? 今の名前の呼ばれ方、変だったような気がしたんですけど?


「ヤシク、エドワード様をはじめ、ヴァルハーレン大公家の方たちが見学なさるとのことです。しっかり実演しなさい」


「わ、分かりました!」


 緊張してぎこちない動きになったヤシクが、串焼きを焼き始める。見たところ、ホーンラビットの肉だろうか。それにしても、マヌエラってあがり症なだけで、意外と仕事はできる人なのかもしれないな。


 ヤシクが串焼きを始める。ある程度焼けたところで、タレを付けてもう一度火にかけると、美味しそうな匂いが漂う。


「こんな感じでございます!」


 完成した串焼きを皿に乗せて、僕たちに見せてくれる。


「試食してもいいのかな?」


 そう言うと、ヤシクとマヌエラは固まってしまった。


「エドワード様のお口に合うような代物ではありやせん!」


「そうです! エドワード様がお腹を崩されては困ります!」


 ヤシクとマヌエラは必死で止めようとする。しっかり焼いてたところは見てたから問題ない。それよりも味付けが気になるな。


「問題ないから貰うね。父様たちはどうします?」


 結局みんな食べるようだ。ヴァイスはもちろんのこと、スノーまで食べる。


 匂いの段階で分かっていたのだが、ウスターソースに近い味だ。モイライ商会で試験的に作っているものと比べると、かなり薄いし味も足りてない。しかし、パレードで振る舞ったのは醤油ベースで、醤油はまだ市民が買えるほど安くはない。ウスターソースについてはまだ販売もしていない。野菜くずで作れるブイヨンを市民向けに公開しているので、それをベースに自力でここまで作ったのだとしたらヤシクは凄いな。


 食べながら考え込んでいると、ヤシクとマヌエラが不安そうな顔で見ていた。


「ああ、ごめん。とても美味しいよ。このソース甘辛くていい味だね」


「そうなんです! エドワード様のパレードで振る舞われたソースとは全くの別物なんですが、これはこれでとても美味しいのです!」


 マヌエラの圧が凄いな、ここへ来て覚醒したのだろうか。ヤシクもホッとしている。


「屋台のオープンを見ることができないのは残念だけど、王都から帰ってきたら寄らせてもらうよ」


「「ありがとうございます!」」


 屋台のオープンを楽しみに、城へ帰るのだった。

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