第310話 合同訓練
調理場に行くと、ロブジョンが出迎えてくれた。
「これは、エドワード様、ノワール様とエリー様を引き連れてお越しとは、もしかしてフォーントゥナーが揚がったのですか?」
「その通りだよ。ノワールが3メートルのフォーントゥナーを釣ったよ」
「3メートル! パーティーの時ほどのサイズではないとはいえ、それでもかなりの大物ですな!」
「そうなんだ、あれ以来釣れなかったから、もう釣れないのかと思ってたけどまた釣れて良かったよ。どこに出そうか? 皮が硬いと解体するのが大変だろうから、既にカットしてあるよ」
「さすがは、エドワード様。分かっておられる。それではこちらのテーブルにお願いいたします」
ロブジョンが指定したテーブルにフォーントゥナーを出すと、既に切り身になっている。やりすぎだな、まさかこの短時間でここまでするとは思わなかった。
「エドワード様、いつの間に解体されたのでしょうか?」
ノワールが質問してくる。聞いて来て当然だな。
「実は収納庫の中でウルスが解体してたんだよ」
誤魔化しても駄目なような気がしたので、正直に話すことにした。
「ウルスというと、クマのゴーレムのことですね。そのような事までできるとは、さすがエドワード様です!」
アレっ、どうして僕の手柄にすり替わった?
『本物のエディベアちゃんは、色々できて凄いのです!』
本物はエディベアではないけどね。
「それで、エドワード様。料理はどういたしましょうか?」
気を利かせた、ロブジョンが話を変えてくれたので、便乗しておこう。
「そうだね、エリーがパーティーの時に食べたステーキを食べたいそうなので、それは確定で、他はロブジョンに任せるよ」
「畏まりました。前に別の魚でやった、角煮などはいかがでしょうか? フォーントゥナーに味付けしても合うと思います」
「それは美味しそうだね。後は聞かないでおくけど、デザートは指定してもいいかな?」
「もちろんでございます」
ノワールとエリーには内緒にしておきたいので、小さな声で頼んでおいた。
◆
みんなのいる部屋に行こうとしたところで、ルーカスがやってきて父様たちは訓練場にいるとのことだったので、訓練場に向かう。
ちょうど今訓練場で、リヒト男爵の騎士団と合同で訓練をしているとのことだった。
訓練場に入ると、大きな声援が飛び交う中、シプレがリヒト男爵家の騎士と戦っていた。相手の騎士はなかなか素早いので苦戦しているように見える。
「ちっ、シプレのやつエドワード様の前で何をやってるんだ……」
守り隊のリラが呟く。今日の護衛はリラとクラベルなのだが、リラは少し口調が荒くせっかち、クラベルはおっとり系で対照的だけど、意外と仲の良いコンビだったりする。
「リラ、エドワード様の前で舌打ちはいけませんわ」
「スマ……申し訳ございません……」
スマンと言いかけたところで、クラベルに睨まれた。意外とクラベルの方が力関係は上のようで、見ていて飽きない二人だ。
「しかし、リラではありませんが、エドワード様がご覧になられているのに、アレはダメですね……」
クラベルもシプレの動きに納得いってないようで。
「シプレッ! しっかりなさい!」
――!
クラベルが突然、周囲の声援よりも大きな声を出すので驚いてしまった。普段おっとりしているが、こんな声も出せるのだな。シプレだけでなく、その対戦相手もこっちを見たのでシプレの邪魔にならなくてよかった。
しかし、効果はあったようで、クラベルの声でシプレの表情が変わる。
シプレはハルバードを構えると、動かなくなる。捕まえきれない相手を待つ作戦に変更したようだ。
相手はシプレが動きについてこれないと思い、そのままスピードを活かした攻撃を繰り広げる。
シプレは防戦となるが、待っている分、相手の動きがよく見えるのか、捌いて何かを待っているようだ。
相手は激しい剣激を繰り広げながらも、クリーンヒットできないことにイラついたのか、少しだけ攻撃が雑になったように感じた瞬間。
「ゴフッ!」
シプレのハルバードが腹を打ち付け、相手は5メートルぐらい吹き飛んだ。
「そこまでっ! 勝者シプレ」
審判をしていた父様が終了を告げると、歓声が起きる。
「エドワード様、見てくれましたぁ!?」
シプレが僕を抱きしめる……おかしいな、戦っていた場所から結構距離があったのにいつの間に? このスピードがあるのなら楽勝のような気がするのだが。
「こら、シプレ。エドワード様から離れなさい」
「はぁーい」
クラベルが注意すると、シプレが離れたところで、父様がやってきた。
「エドワード、釣りは大成功だったらしいね」
「はい、父様。ノワールが立派なフォーントゥナーを釣り上げたので、夕食は期待していてください」
「それは楽しみだね」
「エリー、釣りはどうだった! ノワールがフォーントゥナーを釣り上げたと聞いたが、怖くはなかったかい?」
リヒト男爵ことジークハルトさんもやってきたのだが、エリーは僕の後ろに隠れると。
『お父様は嫌いです!』
どうやら喧嘩中のようだ。そして、ノワール。ジークハルトさんが、がっくりと肩を落としているから、通訳するのはやめなさい。
◆
そして夕食が始まる。エリーやノワールだけでなく、リヒト男爵一家も一緒に食べるようだ。今回はラシュル夫人だけでなく、嫡男のラスター(19歳)、次男のグリント(15歳)、僕のパーティーにも来た三男のルークス(10歳)とリヒト男爵家勢揃いである。
「あなた、どうしたの? 随分と暗いわね」
「父上は昨日余計なことを言ったので、またエリーに嫌いとでも言われたのでしょう。そんなことより、大公家の料理というのはここまで美味しいのですか!? いつも行くレストランも、もちろん美味しいのですが、それ以上とは驚きました」
ラシュルさんが言うと、嫡男のラスターが答える。どうやら彼は原因を知っているみたいだな。しかし、ジークハルトさんが嫌われるのは、そんなことで処理するようだ。
「料理人は交代でレストランの方に行っているので、基本的にはほとんど変わらないですが、値段を抑えるため食材に制限がありますので。今回はノワール嬢が釣り上げたフォーントゥナーの存在が大きいのですよ」
「なるほど! ノワールには感謝しなくてはいけませんね」
父様がラスターの疑問に答えている。ちなみにエリーは、食べることに専念して全く聞いていないようだ。
「エリー、食べたかったフォーントゥナーの料理はどうだい?」
『とても美味しいです! 前より美味しく感じます』
「エリーの言う通りですわね。確かフォーントゥナーは味が大きさに比例するという話でしたが、エドワード様が釣り上げられた半分ほどの大きさですのに、以前食べた物より美味しく感じます」
「エリーとノワール。二人とも正しいですよ。フォーントゥナーの味は前回の物の方が美味しいのですが、ソースや焼き方などは前回よりさらに工夫していますので、美味しくなっているのです」
「なるほど、ソースや焼き方ですか。そういえば、デザートも毎回一位が塗り替えられますし、今日も楽しみです」
「もちろんデザートも期待してください。ノワールの大好きなパンケーキですが、以前食べた物とは一味違いますよ」
「パンケーキなんですね!」
さすがノワール。パンケーキと聞いただけでテンションがおかしくなったぞ。
「あのようなノワールは初めて見るな」
「エドワード様の前ではああなるのですよ兄上」
グリントとルークスが会話している。リヒト男爵家では見せないテンションのようだ。
そしてデザートのパンケーキが運ばれてくる。
エリーやノワールもまだ、シン・パンケーキは食べていない。そして今回はアイスやフルーツだけでなく、メープルシロップにチョコレートとトッピングがかなりゴージャスになっているので、大盛況だったのは言うまでもないだろう。
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