第31話 新装備完成
あれから数日間、糸を使いこなせるように練習したり、カトリーヌさんにジャイアントスパイダーの糸で作られた布を卸したりした。もちろんジャイアントスパイダーの糸は牽引糸にしたが、カトリーヌさんには内緒にしてある。
レベルも1つ上がって、現在のステータスがこれだ。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】8
【HP】90
【MP】735
【ATK】80
【DEF】80
【INT】620
【AGL】90
【能力】糸(Lv3)▼
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
やはりステータスが異常だ、人族の各ステータスの上限値は777と言われているらしい。エルフだとMPの上限値は999らしいのだが、もう人族の上限値に近づきそうな勢いだ。
そして、糸の能力も変化した。
【能力】糸(Lv3)
【登録1】麻、綿、毛、絹、鉄、アルミ、鋼、銅、銀、金、ジャイアントスパイダー▼
【登録2】炭素
【媒染剤】鉄、銅、アルミ
【魔物素材】ホーンラビットの角(18)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【作成可能色】20色▼
【解析中】無
そう、アルミの原料であるボーキサイトを見つけたのだ。メグ姉にジャイアントスパイダーのいた洞窟の場所を聞いて、その洞窟で直径5センチの鋼の糸で洞窟を掘りまくった結果、発見することができたのだ。他の鉱物が見つけられなかったのは残念だが、アルミを登録したことにより製作可能な色も増えたのでよしとしよう。
しかし、項目が40種類を超えたのに糸のレベルが上がらなかったのだ。糸の素材になりそうなものは全て登録できるため、レベル4があるのかも分からないが、とりあえず50種類を目指して頑張ろうと思う。
露店に麻で作られた網を売っていたので購入して登録した。網目の大きさを自在に変えられるのでかなり使い勝手がよい。ハンモックも作れそうなので、旅に出たら試してみたいなどと考えごとをしていると。
「なんじゃ小僧考えごとか?」
頼んでいた装備の最終調整をしていたレギンさんが声をかけてきた。
「ええ、新しい装備の使い方を色々と考えていました」
「ほう、それは儂も作り手として見ておきたいな。ほれっ、着けてみろ」
手渡された装備は指先まで隠れるタイプではなく、手の甲までガードするタイプで、ガントレットというよりは籠手に近いのだろうか。コバルトツリーリザードのブルーの鱗が目を引き、手首の上下には小さな宝石が埋め込まれていて、まるでリザードの目のようだ。
しかし、注文した糸を出す穴と格納する場所がないなと探していると。
「小僧最後の仕上げじゃ」
「仕上げですか?」
「今のままでは肝心の糸を格納できんじゃろ?」
「まだ付けてなかっただけなんですね、どこに格納するんだろうって思ってました」
「いや、装備としては完成している。魔石の部分が収納庫で、糸がでる場所じゃ。今からそこに小僧の魔力を流して、使用者と収納物を固定する」
今何かサラッと凄いことを言ったような……。
「……えっ! これって収納リングみたいなやつなんですか!?」
「まぁ大雑把に言うとそんなもんだが、そこまで大したもんじゃない」
「いや、全然大したことあると思うのですが……」
「収納リングは高ランクの空間魔法を使う魔物の魔石と大きな魔力が必要じゃが、収納する物の種類や量、使用者を固定すれば低ランクの魔石でも作れるというわけじゃ」
「そうだったんですね。それでどうやって魔力を込めるのでしょうか?」
レギンさんは丸く加工された小さい魔石を取り出して、僕に見せた。
「いきなりやると失敗しそうじゃから、これで練習だ。糸を収納するイメージをしながら、魔石に魔力をゆっくりと流せ」
頷くとイメージしながら魔力を流してみた。
パンッ! 破裂音とともに魔石が粉々になる。
「……」
「バカが一気に流しすぎじゃ! ゆっくりとだと言ったじゃろうが。ほれ次じゃ」
新しい魔石を受け取る。
今度はじわじわと魔力を出すように注意してみる。
しばらくすると魔石が光り粉々になってしまう。
「今度は入れすぎじゃな。魔石の限界を感じたらすぐ流すのをやめるんじゃ」
そういうことはもっと先に言って欲しかった。次の魔石を貰う。
その後、3回魔石を粉々にしたが、なんとか感覚をつかむことができた。
「成功じゃな。なかなか筋がよいな、試しにその中へ収納してみろ」
今作った魔石にジャイアントスパイダーの糸を収納してみる。
「入りました!」
「よし、今度は糸を出してみろ」
「はい、出しました」
「違う! 使いたい分だけ出すんじゃろうが、全部出してどうするんじゃ」
全部出したら怒られてしまった。
もう一度収納して、今度は2メートル出してみると、魔石から5センチほど離れた何もない空間から、糸が出ている状態となった。
「出ました! 糸は魔石から離れた何もない空間から出ているのに、しっかり魔石と繋がっていて不思議な感じがしますね」
「凄いじゃろ。魔石の径以上のものは出せないのが欠点だが。糸を出したところで固定されるのは、小僧の要望通りじゃろ?」
「細いのは使っても、太いのは入れないので問題ないです。完璧です!」
「よし今の感じで本番じゃ! 装備に魔力を流せ。あとこれがブーツ用じゃ、ベルト式になっているから色々と応用が利くじゃろ」
ブーツ用は40センチぐらいのベルトになっていて、魔石が2つ埋め込まれている。
ガントレットとベルトに付いている魔石に、魔力をゆっくり流して魔石の限界近くで入れるのを止めた。
「できました」
「よし。2階の試し切りの部屋で使ってみせろ」
地下2階の試し切り室へ向かう。
「では試してみますね」
まずは糸を収納します。収納する糸は少し細工してあり、丈夫な牽引糸の先に粘着性のある付着盤を取り付けた。この状態の付着盤は自分の意志で取り外すことができ、飛ぶときに木の枝に絡める必要もなくなり、遠くのものを引き寄せるためにも使えるので、使い勝手が良くなった。
ガントレットから糸を出して壁にくっつける。次に糸を収納しつつ引っ張り、壁まで一気に飛んで、そのまま壁に着地する。
次はブーツから糸を出し、壁に固定して歩くタイミングに合わせて、糸を固定したり解除して天井を歩いてみせた。
「やった、成功しました!」
「おもしろい使い方じゃな、本当の蜘蛛みたいじゃぞ」
ゴン! 調子に乗って歩き回っていると、失敗して落っこちてしまった。
「痛たたたたた」
「調子に乗りすぎじゃ。まぁ、分からんでもないが」
「こんな凄いものありがとうございます。ところでかなり凄い機能ですけど、本当に金貨5枚でいいんですか?」
「むっ、そうじゃな。金貨は5枚でよいのだが、例のアレを5本ほど付けてくれると嬉しいのじゃが」
「鋼の棒ですね。直径10センチを1メートルで大丈夫ですか?」
「それで十分じゃ」
鋼の棒を6本作り出し。金貨5枚を渡す。
「棒が1本多いぞ」
「それは無理を聞いてくれたお礼です!」
「そういうことなら、ありがたく貰っておくぞ」
「はい、それではありがとうございました」
店を出た僕は魔の森の浅いところで、日が暮れるまで練習したのだった。




