第305話 ネックレス
今日は、朝から部屋で、メグ姉やジョセフィーナたちとのんびりしていたら、家族みんながやってきた。
「みんな揃って、どうしたんですか?」
「エドワード、今からマーちゃんの所に行くわよ」
マーちゃんって誰だ? ……マーウォさんのことか!
「いいですけど、マーウォさんに何か用事でも?」
「違うわよ。例のネックレスが完成したのよ」
「例の? ……! コンクパールのネックレスがついに完成したのですか!?」
「そうなのよ。エドワードも見てみたいでしょ? 長さの調整もするそうだから、一緒に行きましょう」
「分かりました。どんな風に仕上がったのか楽しみですね!」
「そうなのよ。早く行きましょう!」
「フィア、走っちゃ駄目だって」
ご機嫌な母様を先頭に、マーウォさんの工房へ向かう。
◆
「マーちゃん、来たわよ!」
母様が勢いよく扉を開けた。
「フィーちゃん!? 私が行くから空いている時間を教えてって頼んだのに、どうしていきなり本人が来るのよ?」
「そっちの方が早いでしょ?」
「大人しくしてなきゃダメじゃない」
「あら、ちょっとぐらい動いた方が良いってお義母様もいっているわよ?」
「そうなの?」
「あたしがハリーを産んだ時は、前日まで魔物狩りをしていたわ」
「ほらね」
そんなことが可能なのは、おばあ様だけだと思います。
「まあ、来ちゃったものは仕方ないわね……」
マーウォさんの視線が僕の頭の上に向く。
「エディちゃん、その鳥どうしたの!? 凄く可愛いじゃない!」
「この子はエーデルオラケルの娘で、スノーホワイトって名前です」
「ピィ」
「あら、スーちゃんよろしく! 私はマーウォって名前よ」
一応簡単に説明だけしておく。
「そんなことがあったのね。エディちゃんは可愛いモノを集めるのが上手だわ。それじゃあ、ネックレスを今持って来るから、座っていてね」
マーウォさんは、奥の部屋にネックレスを取りに行ったが、可愛いモノを集めているわけじゃないんだけどな。
「とても楽しみだわ」
母様がソワソワしている。
「ここは初めて来たけど、なかなか落ち着く場所ね?」
「お義母様、そうでしょ? ここでお茶するだけでも、かなりリフレッシュできるから不思議なのよ」
「きっと精霊が多いからだわ」
「あら、メグ。そうなの?」
「ええ、精霊は綺麗な宝石が好きだから、マーウォの作る宝石に集まって来るのよ。フィアもエディと一緒で精霊に好かれているから、疲れている時は癒してくれているのよ」
「そうだったのね。私もメグみたいに精霊を見てみたいわ」
「私もはっきりと見えるわけじゃないからね」
話をしていると、マーウォさんが戻って来た。
「さあ、持って来たわよ」
そう言って机の上に置いた箱は、綺麗な木箱にミスリルで装飾された豪華な物だった。
「もしかして、この箱はリュングとロヴンが?」
「そうよ。あの子たち、細かい仕事が得意だから助かっているわ。さあ、フィーちゃん開けていいわよ」
母様が木箱の蓋を開ける。
――!
みんなは、ネックレスの美しさに思わず息を吞む。
やはり、最初に目が行くのは大きな2つのコンクパールだ。ネックレスの形に合わせて、ハの字を逆さまにしたように配置されている。そして、ハの字の間に水色の宝石が配置されている。メグ姉にプレゼントしたアクアマリンみたいだな。
そして、その三つの宝石を引き立てるように、パールやミスリルなどで繊細で華やかな装飾が施されている。
「マーちゃん、これは凄いわ! 私の想像以上の出来よ!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「宝石に詳しくない僕でも、これが凄いのは分かるよ」
「ハリーの言う通りだな。王家で所有している物より凄いのではないか?」
父様とおじい様もべた褒めである。それにしても、ネックレスに光が集まっている様に見えるな。メグ姉がさっき言っていた精霊たちだ。ここまではっきり見えるのはメグ姉を助けに行った時以来ではないだろうか。
「まずは、長さを見てみるわね」
そう言ってマーウォさんが、母様にネックレスを着けて長さの調整をしようとするが、ピッタリなので調整の必要はないようだ。
「さすが、マーちゃんね、丁度だわ」
「フィーちゃんありがとう。それじゃあ、最後の仕上げに入るわね」
「最後の仕上げ?」
「はい、エディちゃん。頼んだわよ?」
「えっ? 何ですか?」
「ほら、メグリンの指輪の時にやったアレよ。ヴァルハーレン家の家宝にするのだから、やっておいてもいいんじゃない?」
「なるほど……でも、失敗したらどうしましょう?」
「失敗することはないと思うわよ。だって、エディちゃんすでに光っているもん」
マーウォさんが、そう言うとみんなが頷く。光ってるってどういうことだ?
「エディの周りに精霊が集まり過ぎて、光って見えるのよ」
「そんなに集まってるの?」
「ええ、エディがネックレスを手にした途端、凄く集まって来たわ。みんなその宝石に入りたいみたいね」
「そんな感じって、メグリン、精霊の声が聞こえるの!?」
「聞こえると言うか、意思を感じとれるぐらいよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてないわよ!」
そういえば、マーウォさんに言おうと思って忘れてたな。
「まあ、その話は後にして、やってしまいますね」
確か祈ればいいんだよな? ネックレスを手に取って祈る。家宝にすると言っていたので、これを身につける、ヴァルハーレン家の人たちを様々な悪意から守ってほしいと。
しばらくすると、ネックレスはリングの時みたいに熱を発し温かくなりはじめた瞬間、大きな閃光を放つ。
前回は直ぐに収まったのだが、今回は5分ぐらい輝いていた。
「エディちゃんがやると、やっぱり成功するのね。私が試してみても全然駄目だったわ」
「そうなんですか? 今回は前回より長かったような気がします」
「今のが報告にあった現象なんだね?」
父様が尋ねてきた。
「そうですね」
「マーウォ殿、これは今のところ、エドワード以外は成功したことがないんだね?」
「そうよ、と言っても試したのはエディちゃんと私だけよ。とても危険な力だから簡単に試すわけにもいかないのよね」
「そうですか、マーウォ殿がそう理解しているのなら問題はなさそうかな」
「父様、どういうことですか?」
「そうか、エドワードは気絶していたから知らないんだね。マルグリットの指輪は敵の物理的な攻撃を防いだみたいなんだ」
「メグ姉、本当なの?」
「ええ、エディのお陰で命拾いしたわ」
「そうなんだ、メグ姉の居場所を教えてくれたのも精霊だったから、感謝しないとね」
――!
そう言った瞬間、メグ姉の指輪が光を放つ。返事をしてくれたのだろうか?
「なんだか、エディちゃん以外の人にはできないような気がしてきたわ。とにかく、フィーちゃんのネックレスはこれで完成よ」
マーウォさんはそう言ってネックレスを父様に渡すと、父様はネックレスを母様に着ける。
着けた瞬間、ネックレスは鈍く光るとすぐに元に戻った。
「……癒しの力を感じるわね。マーちゃん、最後のは必要だったのかしら? マーちゃんが作ったので、十分だったような気がするわ」
「あら、そんなことはないわ。ヴァルハーレン家の家宝にするのだから、私の使える力を全て使ったのよ」
「とても素晴らしい出来よ。マーウォに任せて間違いなかったわ!」
「私も最高の仕事をさせてもらったわ!」
母様の言う通り、精霊は必要なかったと思えるぐらいのネックレスが出来上がったのはいいが、こんな物を見せて他の貴族が黙っているのか少しだけ不安になったのだった。




