第303話 帰還
翌朝、ファーレンを出発した僕たちは、昼過ぎにローダウェイクへ到着した。カザハナは昨日ほどのスピードは出してはいなかったが、それでもかなり早い到着だろう。
城に到着すると、みんなが出迎えてくれる。昨日ファーレンに到着した段階で、通信施設からおばあ様が報告しているので、今日到着することは報せてあった。ちなみに、おばあ様は、おじい様と楽しそうに長電話していたのが印象的だった。
「エドワード様、お帰りなさいませ」
一瞬、僕の頭の上に視線を移動させたルーカスが、何事もなかったかのように挨拶する。いや、顔が綻んで隠せてないからね!
「エドワードー!」
おじい様が全速力で走ってきて僕を抱きしめる。おじい様の全速力は、鬼気迫るものがあるので辞めて欲しいな。
「おじい様、ただいま帰りました」
「帰るのが遅いから心配したぞ!」
「色々あったので遅くなりました」
「ダンジョンに入ったのであろう? クロエばかりズルいではないか、次に入る時は儂も一緒に入るからな!」
おばあ様から聞いたのだろうな。おじい様とおばあ様を連れて行ったら、ダンジョンをクリアできそうだけど、次に入る時には魔素をなんとかできるようにしたいところだ。
「次に行く時には、おじい様も一緒に行けるとよいですね」
「さすが、エドワードは分かっておるな!」
「エドワード様、お帰りなさいませ」
「ジョセフィーナ、ただいま」
「アスィミは役に立ちましたでしょうか?」
「もちろん、しっかり活躍しました!」
「アスィミには聞いてないわ」
「大きな魔物も一人で倒していたし、大丈夫だったよ」
嘘は言ってないので大丈夫だろう。しかし、アスィミよ。そこでホッとしていると、僕が嘘を言っているように見えるじゃないか。
「「エドワード、お帰り」」
父様と母様もやって来た。
「あら? ロイヤルカリブーって、お母様が送ってくれたのかしら?」
「母様、このロイヤルカリブーは褒美として、グラおじい様からいただきました。カザハナといいます」
「あら、そうなのね。 カザハナ、よろしくね。エドワードの母よ」
母様がそう言うと、カザハナもよろしくという感じで頭を下げた。
「とても賢い子なのね」
「そうなんです」
「ちょっと、フィア? ロイヤルカリブーは王族しか乗ることのできない、貴重なカリブーって言ってなかったかい?」
「ええ、ハリー、そうなのよ。とても気高い動物で、世話をする人も限られているし、王族でも背中に乗せることを嫌うのよ」
「それなのに、貰ったことはスルーして良かったのかい?」
「うーん、きっとエドワードが何かやらかしたのよ。そうじゃないと貰えないわ。そっちよりも、頭のヴァイスちゃんの上に乗っている、エーデルオラケル様と瓜二つの鳥の方が気になるわ」
――エーデルオラケル様!?
母様がそんなこと言うから、みんなに注目されてしまったじゃん。
「ハリー様、中に入られた方がよろしいかと」
「ルーカスの言う通りだね。話は中でゆっくり聞くとして、ロイヤルカリブーをどうするかだけど」
父様がそう言うと、カザハナは馬房の方へ歩いて行く。
「馬房の場所を覚えていたのか、かなり賢いみたいだね」
「そうなんです。一度行った所なら御者なしで行けます」
「そうなんだね。しかし、背中に乗れないのだったら、エドワードの馬の代わりというわけにもいかないのかな?」
「いえ、僕だけ乗れるようです」
「凄いわ! 私も乗ろうとしたことあるけど、ダメだったわ」
お母様、試したことがあるのですね……。
「フィア、エドワードができるからって真似しちゃだめだよ。特に今は身体に負担のかかることはだめだからね」
「分かっているわ、ハリー」
完全に二人の世界に入っているので、おばあ様に促されて部屋に向かう。
◆
部屋で父様たちを待っていると、帰ってきたので報告を始める。おばあ様が話をしてくれているので安心だ。
「つまり、この子はエーデルオラケル様の娘なのね?」
「ピィ」
僕の頭の上のスノーが母様に返事した。ヴァイスはスライムクッションの上で寝ているので、頭の上にはいない。ちなみに、僕は母様の膝の上だ。なんでも、エドワードが不足しているのだとか。いつから充電式になったのだろうか。
「スーちゃんも、エーデルオラケル様のように、大きくなるのかしら?」
「ピー?」
「まぁ、凄く可愛いわ! セリーヌに頼んでぬいぐるみを作ってもらいましょう!」
頭の上にいるので分からないが、おそらく首を傾げたんだろうな。名前の呼び方がフランクな母様って、グラおじい様似だったんだな。
「それにしても、ダンジョンの中に帝国兵がいたのは気になるね。父様はどう考えますか?」
さすが父様! 見事な軌道修正! 見習いたいです!
「そうだな。二つの町が魔の森に飲み込まれたのだ。何かとんでもないことを、やらかしたのかもしれんな」
「出来ることなら、帝国が魔の森に入るのを阻止したいところですが」
「帝国はシュトライトも含めれば、三つの拠点を失ったことになる。現在、他国と戦争中ということも考えると、大混乱になってもおかしくはないのだが、動きがいまいち掴めんな」
おじい様や父様でも帝国の動きを掴めてないのか、帝国の領土はかなり広いから、しょうがないのかもしれない。
「潜入するのはどうでしょうか?」
「誰がするのだ?」
「僕ならあまり顔も知られていないので、適任かと」
「「それは駄目よ!」」
「「それは駄目だな」」
みんなに反対されてしまった。
「エドワードが危険を冒す必要はありません」
「フィアの言う通りだ。そもそも何の訓練も受けていないエドワードに、隠密行動は難しいだろう」
「帝国については、兄に調べて貰えばよい」
「陛下にですか?」
「うむ、合わせてシュトライト付近までを、我が国の領土とする相談もしておこう」
「うちで動かないのですか?」
「そうだ。ヴァルハーレン家が、手柄を独占するのも良くないからな。この際、土地を持たない貴族の手柄の場にするのがいいだろう」
そうか、僕が侯爵になったりしているので、他の貴族にも配慮しなくてはならないのか。
「父様の言う通りだね。それに、春からうちは内政に力を入れたいから。帝国にかまっている余裕はないよ」
「力を入れるとは?」
「本格的に機織り工場を作ろうと思ってね、カトリーヌとレギンに手伝ってもらっていた、パイル生地を織る機械の目処が付きそうなんだよ」
「本当ですか!?」
「さすがに高級タオルは無理でも、普通のタオルぐらいは作れるようにならないとね」
ウルスから聞いた作り方をレギンさんとカトリーヌさんに、教えたのだが、さすがとしか言いようがないな。




