第301話 名付け
雪像問題が解決し、夕食も終わり、現在は談話室でお茶を飲んでいる。
次回からエーデルオラケルの雪像は、鷹の様な形にするとのことだったが、カッコいい鳥なら何でも大丈夫なような気がするけどね。
問題が一つ解決したので、次の問題に取り掛かろうと思う。
名前を二つ考えなければならないのだ。白い動物が懐く呪いをかけられた者の宿命だな。
取りあえず目の前にいるエーデルオラケルの子から考えるか、改めてヴァイスの頭の上に乗っているエーデルオラケルを見てみる。
「ピィ?」
頭を傾げて僕を見ている……可愛いな……。シマエナガは雪の妖精とか言われてるんだっけ? 確かに納得のネーミングだ。その辺りから考えてみるか。
妖精はフェアリー、フェー、ファータ、ニンファなどか、ピンとこないな。雪ならスノーやスノウ、シュネー、ネージュ、ネーヴェってところか……。
そもそも、エーデルオラケルって長いけど、意味ある言葉なんだろうか?
『オッケー、ウルス。エーデルオラケルの意味を調べて!』
『ポンッ。エーデルオラケルのエーデルは高貴な、オラケルは神託と言ったところですね』
ポンッって口で言う必要あったのだろうか?
『そうなると、高貴な神託ってこと?』
『そんな感じで、いいんじゃないかな』
かなり軽い感じだな。神託と付くからには、コジローに何か予言的なことでも報せてたのだろうか?
「今から君の名前を付けようと思うのだけどいいかな?」
「ピッ!」
オッケーのようだ。
「因みにシロって名前は嫌だよね?」
「ピィ」
当然、嫌らしい。現在シロって名前でもいいよっていう、白い動物募集中です。
「じぁあ、ビアンコは?」
「ピッ」
「セフィド」
「ピッ」
「プティー」
「ピッ」
「アルプ」
「ピッ」
なかなか、こだわりが強いようだな。
「じゃあ、アンジェは?」
「ピィー、ピッ」
少し考えたけど、ダメらしい。なかなかやるな。
「ワタゲは?」
「ピッ」
「アホゲ」
「ピッ」
「マンマル」
「ピィー!」
怒られてしまった。結構真面目に考えてたのに……。
エーデルオラケルの娘か……。
「スノーホワイトとかもダメ?」
「ピピピッ!」
「えっ! オッケーなの!?」
エーデルオラケルの娘は僕の頭に飛び乗ると。
「ピーッ!」
一際大きな声で鳴く。契約が完了したのだろうか?
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】49
【HP】1280
【MP】2505
【ATK】1220
【DEF】1220
【INT】1600
【AGL】1330
【能力】糸(Lv7)▼、魔(雷、氷、聖、空)
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス、ウルス、スノーホワイト
しっかり登録されているな。
「スノー、これからよろしくね」
「ピッ!」
ん!?
「みんなどうしたの!?」
周りを見ると騎士団の4人が倒れていた!
「ただの発作だから気にしなくていいわよ」
「発作なの!? 回復は……」
メグ姉の言う通り、しなくても良さそうだ……4人とも幸せそうな顔で倒れている。スノーとの会話が原因だな……。
「それで、エーデルオラケルの娘の名は決まったのかい?」
「はい、おばあ様。スノーホワイトという名前になりました」
「ピッ!」
スノーが僕の頭の上で鳴いている。
「ふむ、アザリエたちのようにはならないけど、確かにエドワードの愛くるしさが増しているように感じるわね」
作った雪像のような鷹か梟の方がカッコよくて良かったけど、こればっかりはしょうがない。
◆
翌朝、いよいよローダウェイクに向けて出発する。ロイヤルカリブーと一緒にソリも貰えることになったので、そのまま僕たちだけで帰還することになった。
見送りはグラおじい様とグレースおばあ様、スティーリア伯母上の3人だ。ストラール伯父上のことは心配だが、エーデルオラケルが何とかしてくれるだろう。
「出発の前に、名前を付けてあげないとね」
そう言うと、ロイヤルカリブーは嬉しそうに顔を近づけてくる。癒し度から言えばヴァイスと同じぐらいじゃないだろうか。
「本当にロイヤルカリブーが懐いているのね」
伯母上が驚いている。普通のロイヤルカリブーって、そこまで塩対応なのだろうか。
「風花って名前はどうかな?」
ロイヤルカリブーに尋ねると、頭を下げた。オッケーなのかな?
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】49
【HP】1280
【MP】2505
【ATK】1220
【DEF】1220
【INT】1600
【AGL】1330
【能力】糸(Lv7)▼、魔(雷、氷、聖、空)
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス、ウルス、スノーホワイト、カザハナ
確認してみると登録されていた。一発登録は初めてだな。
『エディよ、我の名付けと全然違うではないか!』
「ピィーッ!」
「その通り、異議あり!」
ウルスまで出てきたぞ。自分で空間収納庫から出られるのか。
「何かダメだった?」
『エディの名付けは、いつも適当ではないか! カザハナは適当な名前ではないだろうが、なぜいつも通りシロから聞かないのだ!?』
「ヴァイス様の仰る通り! エドワードの名付けは基本パクリ、そんな凝った名前はエドワードらしくない!」
「ピィッ!」
「そうだっけ? カザハナは一晩あったからね。みんなの時は急だったから思いつかなかったんだよ。ゴメンね」
「エドワード、その喋るぬいぐるみは?」
伯母上が尋ねてくる。
「ゴーレムですね」
「これがゴーレム?」
伯母上はウルスを抱きかかえると、モフモフして感触を確かめている。ぬいぐるみが好きなのだろうか? 喋って動くのがウルスの売りなんだけど、完全にただのぬいぐるみ扱いだ。
「スティーリア?」
「お母様、これは素晴らしい肌触りです」
伯母上がグレースおばあ様にウルスを渡すと、同じようにモフモフしている。こういう時のウルスって、借りてきた猫状態だな……クマだけど。
「エドワード、もしかしてこれは、アングリーゴートの毛でしょうか?」
「さすがグレースおばあ様。よくわかりますね」
「ええ、アングリーゴートの毛皮はこの国では欠かせませんから。それにしてもこのぬいぐるみは素晴らしいわね」
伯母上も頷くが、二人とも喋るゴーレムは完全にスルーなんだな。
「気に入ったのでしたら、これをどうぞ」
空間収納庫からウルスぬいぐるみを二つ取り出し渡す。
「これはよく出来ているわね。頂いてもいいのかしら?」
伯母上が尋ねる。
「ええ、僕の商会で扱っている物なので構いませんよ」
「エドワードの商会?」
「ええ、モイライ商会という商会の会頭をやっています」
「モイライ商会……最近ローダウェイクで勢いのある商会だと聞いていましたが、その会頭をエドワードがですか。エドワードは随分と多才なようですね……」
「ぬいぐるみの件は終わったのか? エドよ帰る前に、ロイヤルカリブーに乗る姿を見せてくれるか?」
そういえば、グラおじい様、見たいって言っていたな。
「分かりました、カザハナに聞いてみますね。カザハナに乗った姿をグラおじい様が見たいって言ってるんだけどいいかな?」
僕がそう言うとカザハナは僕が乗りやすい体勢になってくれる。それでも僕には高いのだが、糸を使って乗ると。
「おお! 本当にロイヤルカリブーが人を乗せておる!」
「あなた、そう説明したではありませんか」
「聞くのと見るのでは全然違うぞ。儂の長年の夢が孫を通して叶った気分だ!」
グラおじい様はかなり感動しているようだな。
ロイヤルカリブーは、一周りしてみんなの前に戻った。降りようと思ったその時。
「エドワード、ちょっと待った!」
「ウルス、どうしたの?」
「ヴァイス様、背中を借りますね」
そう言うと、ウルスはヴァイスの上に乗った。
ウルスは殆ど重さを感じないので、ヴァイスを乗せているのと、そこまで変わらない。
「さあ、スノーホワイト。ヴァイス様の上に乗るのだ!」
「ピーッ!」
「どうです?」
どうです? じゃないよ。みんなの生温い視線が見えないのか? さっきまで、ロイヤルカリブーに乗れて凄いという視線だったのに台無しじゃん……。
ブレーメンの音楽隊のようなタワーに、ため息しか出ないのだった。




