第30話 Side ハリー・ヴァルハーレン
私の名はハリー・ヴァルハーレン。ヴァルハーレン大公家の当主になる。
今日は、息子のエドワードが生きていれば7歳となり、祝福の儀を受ける可能性があるため、各地の教会に家臣を向かわせている。
私は、ヴァルハーレン領首都ローダウェイクの教会に顔を出す必要があるため、朝から子供たちが祝福を受けるのを見ながら、息子を探す。
もちろん、優秀な能力の持ち主はスカウトする必要があるので、チェックは怠らない。しかし、息子の髪色は妻と同じ青みがかったアイスシルバーなので、この場に居ないことは一目で分かった。
妻は、7年前に息子が行方不明になって以来、痩せ細り、衰弱している。
7年前、侵攻してきたイグルス帝国を退けるためとはいえ、愛する妻と産まれたばかりの息子を置いて、戦場に向かったことが、今でも悔やまれた。
私の不在をついて、妻と息子が乗った馬車を、盗賊が襲ったのだ。普通の盗賊ぐらいならすぐに撃退するのだが、兵士たちの証言から、訓練された者たちの犯行であったことが確認されている。
おそらく貴族派の手の者の犯行だろうが、今のところ証拠はでてきていない。
妻は同盟国であるニルヴァ王国の第二王女なので、国内で暗殺されたら外交問題へ発展する。襲われた際に家臣たちは妻を重点的に守っていたのが裏目に出たそうだ。
息子を抱えていた侍女が切られ、息子を奪われたのだ。息子を奪った盗賊たちは気がついた時にはすでに魔の森に逃げ込んだ後だったため、見失ってしまったとのことだった。
戦場で一報を受けた私は敵将軍を打ち倒し、戦後処理を父に任せて単騎で戻り、息子の捜索に加わった結果。
魔の森に賊の隠れ家らしきものを見つけたのだが、破壊され賊も殺されていたのだ。何か大きな魔物に襲われたようなのだが、息子の痕跡は見つけられなかった。
息子専属の侍女は守れなかった責任をとって自害を試みたようだが、妻の回復魔術により一命を取り留めたという話だ。
妻が言うには、息子のエドワードはまだ生きているのに、世話役が死んでどうするかと言うことらしい。
妻の名采配に涙が出そうになったが、その後、その侍女は妻付きとした。
最初は気丈に振る舞っていた妻も、周囲から事あるごとに次の子の話や側室の話をされ、心労で痩せ細り、今では一人で立つのもままならない。
私にも側室の話が毎日のように来ているが、妻以外には興味がないので、断り続けている。
妻は不思議な力を持っていて、その妻が生きていると言うのだから、きっと息子はどこかで生きているのだろうと思う。
もし生きていれば、祝福の儀は自分の本当の名前を知るチャンスとなる。全ての国民は祝福の儀を受けることになっているので、7歳から8歳の間の祝福の儀が最後のチャンスかもしれない。
王家にまつわる者しか知らない事なのだが、祝福の儀の石板は7歳以上でないと反応しない仕組みとなっている。
これはかつて産まれた子を能力によって育てない者が現れたためだと言う話だ。
どこかで息子が生きていることを願いながら、各地に散った家臣たちの報告を待つ。
◆
「ハリー様、各地に散った者たちから報告が揃いました」
彼は家令のルーカスだ、元々は父を支えてくれていた家令になる。息子の事件から5年経ったところで事態を重く見た父は家督を私に譲り、自身は国境付近の城でイグルス帝国に睨みを利かせている。それ以来、小競り合いはあるが大きな戦争は起きていない。
「報告を聞こう」
「はっ、各地の教会ではエドワード様は見つからなかったとのことです」
「そうか……次は半年後になるな……」
「次はもう少し探索エリアを広げますか?」
「そうだな、それらも含めてソフィアに相談してみることにしよう」
「それがよろしいかと」
私は妻の元へと向かう。できれば良い報告を持っていきたかったのだが……。
侍女に声をかける。
「ソフィアは起きているかな?」
「あっ、旦那様。奥様は起きてお待ちになっております。お入り下さい」
侍女が扉をあける。
「奥様、旦那様がいらっしゃいました」
「ハリーが? 入ってもらってちょうだい」
部屋に入ると彼女は体を起こしてベッドにもたれかかっていた。
「フィア、体調はどうだい?」
「今日は大丈夫よ、エドワードは見つからなかったのね」
「すまない、かなりのエリアの教会に人員を配置したのだが、見つけることができなかったよ」
「ハリーは悪くないのだから謝らないでいいのよ」
フィアは襲撃されたときにエドワードを自分で抱えていなかったことを未だに許せてないようだ。
「ほら、また自分を責めている。フィアの悪い癖だ、あの時のフィアの判断は間違ってないよ。この1、2年がエドワードを見つける最大のチャンスなのだから、しっかり食べて体調を整えようね」
「ごめんなさい、分かっているのよ。でもエドワードが食事をできているのか心配で、食べ物を見るだけで喉を通らなくなるの」
「でもフィアの勘ではエドワードはまだ生きているのだよね?」
「そうよ、説明は難しいのだけど……エドワードが存在しているのは分かるのよ」
「なら大丈夫だよ。エドワードが行方不明になったのは産まれて間もない乳飲み子だ。孤児院でも生存率の低い乳飲み子はなかなか引き取らないと聞く。エドワードがまだ生きているのなら、きっと元気に育っているはずだよ。そんなエドワードが今の君のやせ細った姿を見たら自分のせいだと悲しむのじゃないかな? フィアそっくりなのだから」
「ハリーの言うとおりね。しっかり食べるように頑張るわ」
「おっ、言ったね。じゃあ僕が食べさせてあげるよ」
侍女に目で合図を送ると、侍女は急いで食べ物を取りに行く。
「そういえば、ジョセフィーナは今、もうすぐ南部のエリアに入るらしいよ。手紙の速度を考えると、もう入っているだろうね」
ジョセフィーナはエドワード専属の侍女で、連れ去られた後に自害を図った子だ。フィアの回復魔術で一命を取り留め、回復した後はフィアの侍女として働いていたのだが、なかなか見つからないエドワードを自分で探しに行くと言って旅立ってしまったのだ。
「フィーナが? 魔の森に繋がっている町をすべて探すと言っていたのだけど、南部まで見つからなかったのね。責任感の強い子だから無理をしなければいいのだけれど」
「彼女を止めるように父親のジェンカー伯爵に相談したのが間違いだったよ。まさか探し出せるように鍛え上げると言い出すとは思わなかったからね」
フィアの食事が運ばれてきた。
「さぁ、フィアも頑張るのだよ。移動できるぐらいに回復すれば、まずは領内を連れまわすよ。きっと近くに行けば何か感じるかもしれないからね」
「そうね、頑張ってエドワードを迎えに行かなくちゃね」
このままフィアが回復してくれるとよいのだが。願いが叶うのならミネルヴァとモイライという聞いたことない神にでもお祈りしたいところだ。




