第290話 押しかけ侍女?
ダンジョンを出て一番最初に目に入ったのは、ロイヤルカリブーだった。
「待っていてくれたの!?」
ロイヤルカリブーが頷くと、後ろからラナフさんが顔を出す。
「本当に出てくるとは思いませんでしたよ!」
「ラナフさん、お久しぶりですね。出てくるとは思わなかったというのは?」
「1時間ほど前になりますが、ロイヤルカリブーが鳴きまして、近くに寄ったところ、私をソリに乗せると勝手に走り出して、ここへ来たわけなのです。それからは、動こうとしないので困っていたのです。エドワード様が出てくるのが分かったのでしょうかね、本当に興味深いロイヤルカリブーです」
「僕が出てくるのが分かったの? 凄いね!」
そういって、ロイヤルカリブーの頭を撫でると、嬉しそうな表情を見せる。
「クロエ様、エドワード様。お早いお帰りでしたが、中で問題が起きたのでしょうか?」
ストラール伯父上が兵士に支えられながら近づいてきた。大人しく養生するよう言ってあったのに、しょうがない人だな。
「問題はないわ。あたしたちで確認した限りでは、正常化したはずよ」
おばあ様から正常化の話が上がると、兵士たちから歓声があがる。
「こんなに早く!? さすがはクロエ様! 確認のために兵士たちを入れてもよろしいでしょうか?」
「良いわよ。でも、あなたは止めておきなさい」
「なぜでしょうか? 体の方は万全でないとはいえ、1階ぐらいなら大丈夫かと」
伯父上はダンジョンに入る気だったようだ。責任感が強すぎるのも、なにかと問題だな。
「異常化させていた原因の魔物をエドワードが倒したことにより、正常化したのも間違いないし、兵士たちが入ることは問題ないが、エドワードが倒した魔物に問題がある。王家に報告する必要があるから、あなたも一緒に王都へ来なさい」
「私がでございますか?」
あまり乗り気でないらしい。
「そうよ、ダンジョンに長年入ってきた者として意見が聞きたいわ。それに今後の話もあるから、何となくあなたは連れて行った方が便利そうよ」
おばあ様、いくらなんでも何となくって! 言っちゃうところがおばあ様らしいですが。
「クロエ様に言われては、行くしかないのじゃないかしら?」
グレースおばあ様も来ていたようだ。伯父上が王都に行くのが嬉しそうだな。
「……畏まりました。ダンジョンの問題ならば、スカラーも連れて行ってよろしいでしょうか?」
スカラーというのは初めて聞く名前だな。
「そうね、スカラーを呼びなさい」
グレースおばあ様がスカラーを呼ぶと、ダンジョンから一人の青年が出てきた。調査のため既に中に入ったところを連れ戻されたようだ。青年は銀色の髪にグレーの瞳をしており、特徴からスレーティー家の血筋なんだろうと思う。
「王妃様、お呼びと伺いましたが」
「スカラー、クロエ様とエドワード様に挨拶するのが先よ」
「申し訳ございません! 私はスカラー・スレーティーと言います。愚父グリージョに代わりスレーティー家の当主となりました。この度はダンジョンの異常を鎮めてくださりありがとうございました」
どうやらグリージョの息子のようで、グリージョは当主の座を引き下ろされたようだな。当然といえば当然なんだけど。
「クロエ様、グリージョについては当主の座を退けて幽閉することに決定いたしました」
「ニルヴァ王国のことだ、あたしが口出しすることではないが、対応が早いのはいいことよ」
「スカラー、私たちは明朝王都へ発ちます。あなたもストラールと一緒にスレーティー家当主として王都に来なさい。他の三家の当主も召喚します」
「か、畏まりました!」
「それでは私はクロエ様たちと先にやることがあるので、ストラールはスカラーを連れ明朝、屋敷まで来なさい」
「畏まりました」
◆
マリーツァの町にある王家の屋敷でダンジョンの疲れを癒やす。おばあ様はグレースおばあ様に呼ばれて話をしに行っている。
「早くローダウェイクに帰りたいです」
アスィミのいつものやつだな。
「風呂があるから良いんじゃないの?」
「そうなんですけど、そうじゃないんです!」
「ミラブールで洗ったのに?」
「ミラブールで洗った後、大きなお風呂に浸かるのが至高なのです!」
「至高って難しい言葉知ってるんだね?」
「そうでしょ! この間、エミリアさんが使っているのを見てカッコいいなって……ちがーう!」
アスィミは絶好調だな。
「それでは、アスィミはエディ様がヴァルハーレン領を出るときは、お留守番ということでいいですねぇ?」
「え!?」
シプレが爆弾を投下した。
「だって、そうじゃないですかぁ? 大きなお風呂なんてヴァルハーレン領にしかありませんからねぇ。ジョセフィーナ先輩が行けないときは、私が侍女枠で同行いたしますのでご心配なくー」
「えっ!」
「こら、シプレ、それはダメだ!」
「ですよね!」
アザリエがシプレにダメ出しすると、アスィミはそれ見たことかと同調する。
「そこは平等にくじ引きで決めるべきだろう」
ドサッ! アザリエの提案にアスィミが盛大にコケた!
「どうして、そうなるんですか!」
「アスィミ、我々騎士団は人数も多い故にエディ様のお傍に立てる人間は少ないのだ。少しでも不満があるのなら、我々がその一枠を有効活用しようではないか」
「みんなが私をイジメますぅー!」
アスィミが抱きついてきた。
「ほら、アスィミ。みんな冗談で言ってるんだから本気にしないで」
母様の話では、アスィミは今でこそ明るいが、ヴァルハーレン家に来たばっかりの頃はかなり荒れていて、笑顔など見せたことがなかったと言う話だ。過去や故郷の話は出来るだけ聞かないように言われているんだよね。最初は僕の専属侍女も嫌がっていたようなことをジョセフィーナが言っていたことを考えると、ここまで専属侍女を辞めたくないと言ってもらえるのは、ありがたいのだろうか?
「そういえば、以前ジョセフィーナから、代わりの人間が現れたら母様の侍女に戻りたいというようなことを言っていたと聞いたんだけど?」
「……そういえば、エドワード様の侍女を命ぜられたときは、そのようなことを言っていたかもしれませんね」
「やっぱりそうなんだ。母様の侍女に戻りたいのなら、帰ったら聞いてみようか?」
そう言うと、アスィミは抱きつくのを止めて僕から離れると。
「お断りします。その件については私の中で折り合いをつけて、ソフィア様からも了解をいただきました。仮に侍女を外された場合でも、押しかけ侍女としてエドワード様から離れませんので!」
「そうなんだね」
押しかけ侍女ってなんだ!? 頼まれなくても勝手に侍女をするってこと? 意味が分からないけど、僕の侍女を辞めるつもりがないということだけは理解したのだった。




