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第288話 お肉を大切に

 部屋を覗いてみるが、奥は魔素で見えないため、そのまま中へ入る。


 ヴァイスのおかげなのか緊張は薄れた気がするが、あれは狙ってたんだろうか? そんなわけないか。


 目が慣れてきたのか、近づいたせいなのか、魔物が薄っすら見えるようになる。


「あれって恐竜だよな……」


 目の前にいるのは、体長15メートルぐらいのティラノサウルスのような姿をした恐竜だった。


「グォアアアアアアアアァ!」


 恐竜は僕を見つけると、突進してくる。


「スパイダーウェブ!」


 アラクネーの糸を張ろうとするが、糸は現れなかった!


 まずい!


 咬みつかれる瞬間、恐竜の足に糸をくっつけて体を引っ張り、ギリギリのところで躱す。


 今のは危なかった! 糸は普通に出るな。さっきはどうして出なかったんだ!?


 ……そうか! 魔素で壁が見えないからかもしれない。スパイダーウェブを張る時は、くっつける壁が見えないと発動しないのか!


 今まで失敗したことがなかったため、全く気がつかなかったが、こんな弱点があったとは。


「グォアアアアアアアアァ!」


 また、突進して来たので、今度は足元に直径10センチぐらいの蔓をたくさん出して突進の妨害をすると、恐竜は止まった。


 成功したと思ったのも束の間、恐竜は尻尾で蔓を粉砕する。


 尻尾に角のようなものが生えており、掠るだけでも致命傷になりそうだ。


 空間収納庫から連接剣を取り出し、恐竜が蔓から脱出したところを狙う。


「剣山!」


 恐竜が剣山を踏むと、足を貫通し針が突き出たが、動きにくそうにしているだけで痛そうではない。しかし、チャンスには変わりないので、いつも通り目の位置を狙う。


「連接剣!」


 連接剣は弧を描いて恐竜の目を狙う。

 

「ギォアアアァ!」


 当たる瞬間に顔をずらしたため、目を掠めただけになってしまった。


 今のは狙って避けたのか? そう思った瞬間。


「グォアアアアアアアアアアアアアァ!」


 一際大きな声で吼えた。


『エドワード、後ろ!』


 えっ!? 突然ウルスの声が頭の中に響き、後ろを確認すると新たな恐竜が現れたのだ!


 見たところ、ラプトル系の恐竜と思われるが、体高は2メートルぐらいあるので僕より遥かに大きい。ティラノもどきが呼んだのだろうか、呼んだというよりは召喚したようにも見えるが、3匹増えて4対1の状況は不利かもしれない。


『ヴァイス様がいないけど、エドワードは1人なの?』


「えっ!? 今更何言ってるの?」


『魔石を加工してたら、突然大量の魔物の解体をしろって言うから、頑張って解体してたんだよ』


「そういえば、お願いしたっけ」


『まさか、忘れてたの!? とりあえず3匹が襲ってきそうだから、倒しちゃって』


「簡単に言うね……いや、そこまで難しくないか」


 ウルスに話しかけられたせいか、少し落ち着いた。旅に出てヴァイスに出会ってから、1人になることが少なかったので、緊張が完全には取れてなかったようだ。


 3匹は僕に襲い掛かるタイミングを見ているのだろうか、じわじわと自分の射程距離に入ろうと近寄って来ているように感じる。


 蔓を大量に出してティラノもどきの足止めをしつつ、まずは正面にいるラプトル目掛けて炭化タングステンの糸を直径1センチ、長さ5センチで作り、2000メートル毎秒で発射する。


 パンッ!


 破裂音とともにラプトルの頭が弾け体は壁まで吹き飛ぶ。仲間が突然いなくなったことにより、残りの2匹の動きが止まった。


 動きが止まった隙をついて、連接剣でラプトルの首を刈り取る。


『残りの大物もやっつけろ! お肉をヴァイス様の下へ!』


 こっちは結構強いんだけどな……ん!? 部屋の魔素が薄まっている? 部屋の大きさが分かるようになったぞ!


 もしかして、さっきのラプトル召喚に魔素を消費したのだろうか?


 いや、考えるのは後にして、ティラノもどきに集中だ。


 部屋の大きさは20メートル四方ぐらいだろうか、天井が凄く高いな、50メートルくらいはありそうだな。


 壁とティラノもどきをアラクネーの糸で固定すれば安心だろう。


「これで一安心かな」


『エドワード、気を抜かないで!』


 ウルスがそう言った瞬間、ティラノもどきがまた吼えた。


「グォアアアアアアアアアアアアアァ!」


 また、ラプトルを召喚したのかと思って警戒するが、ラプトルは現れずティラノもどきが暴れ出す。


 今のうちに止めを刺そうと思った瞬間。


 ボコッ!


 音とともに壁が砕け、ティラノもどきはアラクネーの糸の拘束から脱出した。


「糸じゃなくて壁の方がティラノもどきの力に負けたのか!」


『凄い力だね』


 炭化タングステンの糸を発射したが、命中して突き刺さるものの、ラプトルのときのように弾けることはなかった。


「随分と硬い体なんだな」


『エドワード、足を狙って!』


「足を? 分かったよ」


 炭化タングステンの糸の長さを10センチから2メートルにして、ティラノもどきの足を狙う。


 刺さった糸の数が8本になったところで、ティラノもどきはついに倒れた。自分の体重を支えられなくなったのだな。


 起き上がれなくなったティラノもどきに止めを刺して、なんとか勝利したのだった。


 

 ◆



「エドワード、よくやった!」


 おばあ様の声がしたので振り返ると、入り口のところから見ていたようだ。メグ姉も見ているな。


「おばあ様、見てくれてたのですか?」

 

「いや、魔物が吼えた後、急に魔素が薄くなってね。ようやく動けそうになったから見に来たのよ」


「そうだったんですね! なんとか倒すことができました」


「エディ、凄いわ!」


「メグ姉、ありがとう」


「この魔物は初めて見る魔物ね。噂で聞いた事があるドラゴンかしら?」


 おばあ様も初めて見る魔物のようだ。


「私たちも初めて見るというか、エディ様が倒された、シュトゥルムヴェヒターの次ぐらいに大きい魔物ではないでしょうか?」


 確かにカタストロフィプシケは5メートルで成虫のサイズは知らないけど、ティラノもどきが現在2番目の大きさだろう。


「アザリエ! 体は大丈夫なの?」


 アザリエたちも部屋に入ってきた、顔色もかなり良くなってきたように感じるが、頭の上に乗っているヴァイスが気になるな。今まで気がつかなかったけど、頭にヴァイスを乗せているとこんな風に見えるのか……今後、ヴァイスの位置については検討しなくてはならないようだ。


「はい、ご心配おかけしました。魔素が薄くなったことにより動けるようになりました」


「回復したようで、よかったよ」


『エディ、やったではないか!』


 ヴァイスが僕の頭に飛び乗って来た。今回はこのままでいくか。


「できるだけ綺麗に倒したよ」


『さすがエディだ。こいつは絶対に美味い……のか?』


「えっ、違うの?」


『あまり美味そうな匂いはしないが、こっちの小さいやつは美味そうな匂いだぞ』


 苦労したのに美味しくないのか?


「これはレギンが喜びそうな素材ね」


「メグ姉もそう思う? 凄く硬かったから防具に使えそうだよね」


「ただ、エディのアラクネーの糸よりも強いのかは分からないけどね」


 確かにアラクネーの糸よりも使えるのかは微妙なところかな。


「僕のガントレットをこれで作り直してもらおうかな」


「どうせ作り直すならミスリルの方が良いんじゃない? エディにはそっちの方が似合うわよ」


 メグ姉がそう言うと、みんな頷いている。


「えっ、結構このガントレット気に入ってたんだけど、似合ってなかった?」


「エディならどんな格好をしてても可愛いわよ。でも大公家嫡男で侯爵なんだから、皮のガントレットよりはミスリルの方がいいと思うわよ」


 なるほど、確かに貴族として動くのなら、そういうのも考えなくてはダメなのかもしれない。


「騎士団の我々がミスリルを使った装備を付けているのに、その主が皮のガントレットでは示しが付きません!」


 アザリエが拳を握りしめて力説している。

 

「エディ様は何を付けてもお似合いですが、ミスリルは髪色ともマッチしてとても良い案かと思いますわ」


 ヴィオラまで食いついてきた。


「エディ様がミスリルを纏えば、より一層輝くことでしょう!」


 リーリエ、より一層って今も僕って輝いてるの!?


「絶対ミスリルの方が可愛いに決まってますぅ!」


 シプレまで食いつくとは、興奮しているのかピョンピョン跳ねながら喋っているので、僕の視線まで上下してしまう。


 まさか、ここまでコバルトツリーリザードの皮が不評だったとは、ここまで食いつくとは、もしかして新調のタイミングを見計らっていたのだろうか?


 それにしても、可愛いというのはどうなんだろう。カッコいいというなら変えてもいいのだが、可愛いと言われると、躊躇してしまうお年頃なのだ。

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