第286話 隠し部屋?
魔物を回収しながら先に進んでいるが、4階までとは比べ物にはならないくらい、魔物の襲撃が増えたせいでなかなか進まない。
通路を進んでいると6階へ下りる階段を見つけた。
「奥へ行かなくても6階に下りることができるんだね」
「5階である程度経験を積んでから6階に下りる方が良いとされていますので、この奥に行くのは6階へ行く前に経験を積もうとする者たちですね」
アザリエが説明してくれた。この階は色々な種類の魔物が出るので、経験を積んだり稼いだりするにはちょうどいいのだとか。
階段を下りずに奥へ進むが、長い通路が見えた。このダンジョンに入ってから初めて長い通路を見るような気がする。
直線の通路には右に曲がる通路が2つあり、真っ直ぐ行くとこの階で一番大きな部屋があるそうだ。
「真っ直ぐ行くか、右へ行くかどうします?」
「みんなの体調を考えると、先にボスの魔物を叩きたいところね」
おばあ様の言う通り、魔素の影響を既に受けていることを考えると、その元凶を先に叩くのが最善の策と言えよう。
「ねえ、ヴァイス。魔素は真っ直ぐと右からだったら、どっちの方が濃いとか違いはあるの?」
『人間にはこれだけ濃くても見えないのか。真っ直ぐの方が圧倒的に濃いというか、そこから流れてきているな』
どうやら魔素の元凶は真っ直ぐ行った先の大部屋にいるようだ。
「真っ直ぐの方から魔素が流れて来ているそうです」
「それじゃあ、先に大物を叩いてしまいましょう」
みんな頷いたので先に進もうとしたのだが、通路に違和感を感じる。
「おばあ様これを見てください」
「どうしたんだい? これは!?」
左の壁に見覚えのある縦に入った継ぎ目を発見した。
ローダウェイク城にあるのと同じように見えるな。元々このダンジョンの作りはローダウェイク城の地下に似ていると思っていたが、まさかこんな物まであるとは。
「エディ様、それは隠し部屋に見せかけているというだけの、何もない壁ですわ」
ヴィオラの説明によると、何かないかと調べていると、通路を通れる小型の魔物に襲われる場所だということだった。
本当に何もないのか、軽くなるイメージで魔法を放ってみる。
すると、壁はゴゴゴと音を立てながら上がっていった。
『――!』
みんな上がっていった壁を見て驚いている。おばあ様以外は初めて見るからしょうがないだろう。
壁が上がった先には10メートル四方ぐらいの小部屋があったのだが、部屋には何もなかった。
「このような隠し部屋があったとは……」
「でも、何もありませんねぇ」
アザリエとシプレが話をしている。
「このダンジョン、一度詳細に調べなくてはならないようね」
「おばあ様、ボスを倒した後にですか?」
「いや、今回はエドワードをエーデルオラケルに会わせるのが目的だからね。もっとゆっくり時間がとれないと108階までは無理でしょう?」
どうやら、ダンジョンを制覇する気のようだ。
「何もないようなので先に進もうか」
そう言って、振り返ると入り口の横の壁に何かついているのを見つけた。
近くで見てみると、ステータスを見る時に使っていた石板のように見えるな。
「石が埋まっていますね」
取りあえず石板を触ってみると、数字とボタンらしきものが表示された。
「……」
ここってエレベーターなのだろうか? 表示されている数字は5なので、5階を表していると思われる。上下を表すボタンも表示されていて上の階には行けそうだが、下の階には行けなさそうだ。まだ下の階に行ってないからだろうか?
「アザリエ、この石板を触ってみてくれる?」
「分かりました」
アザリエが石板を触っているが、どうも様子がおかしい。
「エディ様、触ってみても何も変わらないですね」
「そうなの? 能力を授かったときの石板みたいに何か見えない?」
「何も見えませんね」
「おかしいな、おばあ様も触ってみてもらえますか?」
「あたしもかい? 分かったわ」
アザリエに代わって、おばあ様が石板に触れると、何かを押しているように見える。
「数字と矢印が見えるわ。上を触ると1になって、下は5より大きい数字にはならないわね」
なるほど、【空】属性を持っている人しか操作できないみたいだな。
「恐らくですが、ここから一度行った階に移動できるのではないでしょうか? ただし、5階刻みになっているので今行ける階は1階と5階のみのようですが」
『――!』
みんな僕の予想に驚いているようだ。
「そのようなことが可能なのですか!?」
アザリエが聞いてくる。
「多分だけどね。魔物の状況次第では帰りに使ってみようか?」
「本当ですか!?」
リーリエが凄く嬉しそうだ。
「それにしても、エディ様とクロエ様しか使えないのはどうしてなのでしょうか?」
ヴィオラが鋭いところを指摘してくる。
「それについては僕も分からないけど、もしかしたらヴァルハーレン家のご先祖様が関わっているのかもしれないね」
「なるほど、血筋ということですか。そうなってくると、このダンジョンはヴァルハーレン家と深い繋がりがあるということになるのでしょうか?」
「あたしも聞いた事がないから、相当昔の話じゃないのかしら」
『エディよ、少し急いだ方がよさそうだぞ』
「何かあったの?」
『魔素の量が尋常ではないぐらい溢れてきておるな』
「そうなの!? おばあ様、魔素が濃くなってきているので急いだ方がいいみたいです」
「それじゃあ先に進みましょう」
「なんだあれは!」
『――!』
部屋から出て通路の先を見た僕たちは驚く。通路の奥が黒く霞がかっていたのだ。
「あの黒い霧は魔素なのでしょうか?」
アザリエが聞いてきた。
「ヴァイス、あの黒いのって魔素なの?」
『うむ、魔素が密集して塊になっているな』
「やっぱり、魔素みたいだよ。魔素が集まって塊になっているみたいだね」
「あれに触れても平気なのでしょうか?」
「アザリエの懸念も分かるが、ここにいても解決はしないわ。取りあえず注意しながら進むわよ」
「ちょっとまって!」
思いついたので、カタストロフィプシケの布を能力で出した。
「効果があるのかは分からないけど、直接吸い込むのはあまり良くないような気がするから、カタストロフィプシケの布をこうやって口を隠すように巻いたらどうかな?」
「なるほど、エドワードの言うように、体内に取り入れる量を減らすのは良さそうね」
「まあ、魔素が布をすり抜けるようなら効果はないので実験的ですが、何もしないよりはよいかと」
そう言うと、みんな布を顔に巻くが、ちょっとした強盗団に見えるのは気のせいだろうか。
通路を抜けて部屋に入ろうとしたところで、リーリエが反応する。
「次の部屋、魔物が2体です」
騎士団のリーリエ以外の3人は回復したとはいえ、濃い魔素で影響がでることを考慮して、おばあ様とアスィミが魔物を倒した。
「右の奥に行けば一番大きな部屋なんだよね?」
「そうですが……」
「アザリエ?」
僕の後ろにいた騎士団の3人が苦しそうな顔をしていたのだ。
「3人とも大丈夫!?」
「エディ様、申し訳ございません」
「謝らなくていいから!」
3人を部屋に座らせていると、後ろで倒れる音がしたので振り返ると、リーリエとさっきまで元気に戦っていたアスィミまで倒れてしまう。
しかも、おばあ様とメグ姉まで体調が悪そうに変化していたので、取りあえず全員を部屋の隅に座らせる。
「みんな大丈夫?」
「こうして固まっていると緩和されるわね」
おばあ様がそう言うとみんなが頷く。僕だけ全然分からないなと辺りを見回して分かった。この辺りだけ魔素がないんだ。
そういえば、頭に乗せているヴァイスは空気清浄機能付き神獣だったな。
ヴァイスの傍にいるから魔素が近寄ってこないか、浄化されているのどちらかだろう。
この濃さの魔素では、ぬいぐるみも効果がないし。おばあ様やメグ姉などの魔素耐性持ちでも耐えられないようで、ボス部屋を目の前にして困ったことになってしまったのだった。




