第281話 ダンジョン3階
通常サイズより遥かに大きなサイズのグレートボアをあっさり倒したおばあ様を見て、騎士団の4人が驚いている。
「あのサイズのグレートボアを一撃で……」
「私には絶対にムリですぅ」
アザリエとシプレが会話している。
「さあ、エドワード。回収して次に進みましょう」
「分かりました」
グレートボアを空間収納庫に収納して先に進むことにする。
「アザリエ、左右どっちに進んだらいいの?」
「右には小さな小部屋があるだけなので、左に……リーリエ、念のため小部屋を確認して」
「分かりました」
リーリエが、小部屋を確認しに行く。まあ、リーリエが反応していないので、大丈夫だとは思うが。
「魔物もいないですし、異常もありません」
「ありがとう。それでは先に進みましょう。シプレ、頼んだわよ」
「ところで、どっちに進みますかぁ?」
「そうね……右に曲がって奥の部屋から調べましょう」
「はぁーい」
シプレはハルバートを持ち直して進みだした。
下の階に進むためには、右に曲がらず直進した方が早いらしいのだが、魔物をできるだけ狩ることを考えて右に曲がるようだ。
「シプレ、部屋に魔物がいます。数は2匹ですね」
リーリエが魔物の存在を知らせると、シプレは頷いて警戒を強めた。
シプレが右の部屋に入ると。
ガキンッ!
シプレがハルバードで何かを受け止めたようだ。
「タスクホルンボアですぅ」
シプレがそう言って受け止めたタスクホルンボアを弾き返すと、部屋に突入し、ヴィオラもそれに続く。
部屋の中には2匹のタスクホルンボアがいて、2人で相手をするようだ。
タスクホルンボアは体長1メートル50センチぐらい。体長3メートルぐらいのビッグボアと比べると小ぶりだが、ボア特有の牙がとても大きい。それ以上に頭から生えている2本の大きな角が特徴的で、2本の角は前に伸び、少しだけ反り上がっていて、とても攻撃的な魔物に見える。
「手伝わなくて大丈夫なのかな?」
アザリエに確認してみると。
「この部屋も縦長の部屋なので、大人数で戦うには少し狭すぎますし、2人に任せておけば問題ないでしょう」
この階は通常ならラケーテボアとジャイアントボアが多く出るようで、タスクホルンボアは極稀に出る上位種らしい。
ジャイアントボアの半分ぐらいの大きさしかないタスクホルンボアの方が上位種という話には驚いたが、タスクホルンボアはジャイアントボアも簡単に倒すぐらい強いそうだ。
また、タスクホルンボアは小さいため、通路も通ってこれるので注意が必要とのことだった。
アザリエから説明を受けている間に、2人は危なげもなくタスクホルンボアを仕留める。
「シプレとヴィオラ、見事だったよ!」
「ありがたき幸せ!」
「かっこよかったですかぁ?」
「凄くかっこよかったよ」
褒めるとシプレがジャンプして喜ぶ。シプレの母性も喜んでいるように見えるな。ヴィオラは無表情で平静を保とうとしているが、嬉しかったのか、時々表情が緩み喜びを隠しきれていない。
2人は僕と同じ、褒めて伸びるタイプのようで良かった。罵って伸びるタイプは管轄外なのだが、騎士団の中に数人はいそうなのが怖いところだ。
魔物を空間収納庫に収納すると先へ進む。
「エディ様の空間収納庫は本当に便利ですね」
リーリエが褒めてきた。そういえば、結構みんなに褒められていると思うのだが、一向に身長が伸びる気配はないな……褒められて伸びるタイプじゃなかったのだろうか。
「通常なら簡単に解体しながら進んだり、獲物を諦めたりしなければならないので、全てを持って帰れるのは凄いことなのです」
アザリエが補足してくれた。なるほど、確かに空間収納庫に入れると時間が停止するので、血抜きの処理なども含め後からまとめてできるのは便利だ。空間収納庫の容量についても今のところ底が見えないが、シュトゥルムヴェヒターが入るのだから、容量を気にする必要はないと思う。
3階の一番奥へ到着するが、大した魔物は出なかった。
大したことないとはいったが、本来この階で一般的に現れる魔物のラケーテボアとジャイアントボアは一切見ていないので、異常状態には変わりないだろう。
メンバーが強いので然程苦労はしていないのだが、騎士の装備らしき物が時々落ちているのを見かけるので、ダンジョンに入ったというスレーティー家たちの装備の可能性もあるので、回収だけはしておいた。
「それでは、ここから4階に向かう階段へ向かいます。まだ探索していない反対側は、帰りの際に探索することといたしましょう」
アザリエが提案すると、みんなが了承する。さすがダンジョンに慣れているだけあって非常に効率的だ。
「それにしても、グレートボアが多いわね……」
普通サイズのグレートボアの頭を潰したおばあ様が呟いた。
確かにグレートボアのオンパレードになっている。
最初は騎士団やアスィミに戦わせていたのだが、めんどくさくなったのか、自分で倒してしまったのだ。
「さすがに、もうグレートボアじゃ特訓にならないわ。さっさと4階に行きましょう」
「畏まりました」
アザリエが階段までのルートを案内して程なくすると4階への階段に辿り着いた。
「さすが、アザリエ、案内するとあっという間だったね」
「この辺りの階で手こずっているようでは、さらに下層を目指すのは不可能ですので」
アザリエは謙遜しているが、明らかに嬉しそうだった。
◆
4階はとても広い上に、魔物の種類は決まっていないそうだ。
今までの階で出て来た魔物をメインに、その他、色々と出るらしい。
5階への階段は近いところにあるそうなのだが、スタンビードの原因の魔物を倒すのはもちろん、強い魔物も間引くという目的もあるので、二手に分かれて探索することになった。
僕、メグ姉、アザリエ、シプレのチームとおばあ様、アスィミ、ヴィオラ、リーリエのチームに分かれて探索することになったのだった。
ヴィオラとリーリエは若干残念そうにしていたが、魔物探知についてはヴァイスがいるので別れた方がよいのと、おばあ様が指名した3人を鍛えるのも目的にあるらしい。
アスィミは最後まで僕の方について行くと抵抗したのだが、最終的にジョセフィーナを引き合いに出され、打倒ジョセフィーナと息巻いていた。決して僕に付いてきて楽をしたかったわけじゃないと思いたい。
それにしても、ジョセフィーナに勝ってどうするんだと思っていたら、ジョセフィーナに勝つことができれば、護衛侍女としてクビにならなくて済むと思っているのだとアザリエに教えてもらった。侍女の仕事をしっかりするという選択肢はないのだろうかと思ったのだが、きっちりしたアスィミというのも違和感しかないので言わないことにしたのだった。




