第277話 ダンジョン1階から2階へ※
グレートボアを倒した僕たちはダンジョンの探索を進める。
最初、アザリエたちが地図を持っているので、最短距離を進もうかと考えていた。しかし、アザリエが浅い階層に強い魔物が残っていると、ニルヴァ王国の人たちがいつまで経ってもダンジョンに入れない可能性があると言ったので、可能な限り魔物を狩る方針に変更した。
ダンジョンというので迷路みたいのを想像していたのだが、実際には部屋の方が多く、部屋の中には通路を抜けられない大きな魔物がたくさん残っていた。
グリージョたちはいったい何をやっていたのだろうか……いや、通路を通れる小さい魔物だけ狩っていたのかもしれないな。
「それにしても、本来いるはずのゴブリンは全くいませんのね」
拘束されたメガクロコダイルに止めを刺したヴィオラが、菫色のポニーテールを揺らして言った。
現在の場所は1階の中間ぐらいにある、突き当りの部屋だ。
「強い魔物に食べられたのか、スレーティー家とウルスブラン家合同チームによって間引かれたのかは分かりませんね」
アザリエが答える。
「それにしても、私たちはこんなに楽をしていいのでしょうか?」
「確かに活躍してる感はありませんねぇ」
「この階はエドワードの能力を試しているのだから、割り切りなさい」
リーリエが疑問を投げかけると、シプレとおばあ様が答えた。
おばあ様の言う通り、糸の能力を試しながら魔物を討伐しているのだが、スライム系の糸や蔓もダンジョンと相性は良いみたいだ。
普通に戦うと強い魔物でも拘束されると、ただの的である。
「この感じなら、部屋の入口を塞いでしまえば、安全に寝泊まりできそうですね?」
「確かに入り口から入れる魔物となると、大型の魔物は入れないから、アーススライムで塞いでしまえば問題なさそうね」
おばあ様も同じ意見のようだ。
「一応アザリエたちに確認だけど、占拠した部屋に魔物が出ることはないんだよね?」
「はい、今まで一度も起きたことはないのですが、エディ様は部屋に魔物が突然出現するとお考えなのでしょうか?」
「そうだね、じゃないと今倒した魔物もそうだけど、入口を通ることができない大きさなのに部屋にいる説明がつかないでしょ?」
「確かにそうですが……」
アザリエたちにとって、魔物が湧くという話はピンとこないようだ。
「もう1つの可能性としては、小さかった魔物が魔素の影響で突然変異したかだね」
「魔素の影響でございますか?」
「アザリエたちにはまだ言ってなかったけど、動物は魔素の影響で体内に魔石ができて魔物化するんだ。だったら更に濃い魔素の影響で変化してもおかしくないからね」
ついでにアザリエたちにも、エンシェントウルフから聞いた魔素と魔物の関係を説明をしておく。
「体内に魔石を持つものが魔物ですか。初めて聞きましたね。つまり魔物だと思っていたロイヤルカリブーも実は魔物じゃないと言うことなのでしょうか?」
「あれだけ、人懐っこいから魔物じゃないと思うよ」
「そういえば師匠。エディ様のコラビを出てからソフィア様と再会されるまでの期間の英雄譚が不足していると感じるのですが?」
アザリエがおかしなことを言い始めたぞ。
「それはあなたたちが、私を助けるために要塞を破壊した話とか、異形を倒して女の子を救った話や、シュトゥルムヴェヒターの話ばっかりを聞きたがるからじゃないのかしら?」
その3つ共メグ姉見てないよね?
「師匠はヴァイス様との出会いも知っているのですか?」
「もちろん、エディから聞いたわ。お姉ちゃんとして当然のことよ」
「ほう、さすがはマルグリットだね。その辺りの話はまだあたしも詳しくは聞いてないから楽しみね」
メグ姉に喋ったのは失敗だったかな? まあ、メグ姉に聞かれると条件反射で答えてしまうから仕方がないが、せめて本人のいないところで話してほしい。
メガクロコダイルを空間収納庫に入れると2階へ向けて移動を開始する。
階段近くの部屋にいた魔物を倒し2階へ下りた。
◆
2階は本来ならラビット系の魔物がでるらしいのだが、どうなっているのだろうか。
下りて左にある小部屋を確認してみる。
「グレートボアがいます」
シプレが報告した。
「ちょっと待ってください! 少し様子が変です」
リーリエが何かに気付く。確かに体長4メートルもあるグレートボアは微動だにせず立ったままの状態だ。
『あの巨体の中に無数の臭いがするな』
ヴァイスがそう言うので、アラクネーの糸で細かい蜘蛛の巣を張った瞬間。
グレートボアの中から20センチぐらいの黒い物体が、こちらに向かって大量に飛び出してきた。
「ビックリしましたぁ」
シプレが間の抜けた声で驚く。確かに凄いスピードで飛び出してきたので、かなり焦ったな。
飛び出してきた黒い物体はすべて蜘蛛の巣に引っ掛かったようだ。真っ黒なウサギの形をしており100匹ぐらいはいるのだろうか、ホーンラビットより小さいが、凶暴な牙を剥き出しにしてもがいている姿は全然可愛くない。
「これもラビット系なのかな?」
「そうですね、デスラビットという魔物ですが、本来この階にいるような魔物ではありませんね」
アザリエが答える。
「群れで行動して、生き物を食い尽くしてしまう凶暴な魔物ですわ。大きな魔物でも体内に入り込んで内側から食い荒らすと聞きましたが、本当みたいですわね」
ヴィオラが教えてくれた。どうやらデスラビットはアマゾン川に生息する人喰いナマズ、カンディルのようなウサギらしい。
「数が多いので一気に倒しちゃうね」
サンダースライムの糸で仕留めて空間収納庫に格納する。
「グレートボアはどうしようか?」
「そのままにしておけば大丈夫です。そのうち他の魔物に食い尽くされてしまうでしょう」
どうやら、ダンジョンに吸収されるという、ありがちな設定は存在しないらしい。
◆
探索を続けて分かったのだが、本来この階にはいないラビット系の魔物が多く出るようだ。
ニルヴァ王国の人たちにとって、2階に出てくるラビット系の魔物は、手軽に狩れる食料とのことなので隅々まで強い魔物を狩っていく。
次の部屋に入ろうとしたところで、シプレが手を上げて止まった。魔物がいたようだ。
「……初めて見る魔物なんですけどぉ、一応ラビット系?」
なぜに疑問形?
シプレの後に続いて中を確認すると、この階で一番大きな部屋の中央に魔物が見えた。確かに見た感じラビット系ではある。
「アザリエはあの魔物を知ってるの?」
「申し訳ございません。私も初めて見ますね」
アザリエたちも初めて見る魔物のようだ。
「あれは、レオンラビットだね。かなり強い方の魔物だわ」
おばあ様が知っていたみたいだ。なるほど鬣の生えたウサギだからレオンラビットか、地球にライオンヘッドとかいうウサギの品種がいたけど、あっちよりライオンぽい鬣だな、毛の色は金色に近い色で輝いているようにも見える。体長が4メートルもなければ、見た目は凄く可愛い魔物だ。
「あれが、レオンラビットですか、かなり凶暴な魔物と聞いたことがあります」
あの見た目で凶暴なのか……全く想像がつかないな。
「相手は百獣の王、銀狼族の血が騒ぎます!」
いや、アスィミ。あれはライオンじゃなくてウサギだよ?
「クロエ様、ここは私が勝負しても構いませんか?」
「えっ!?」
「エドワード様、どうしましたか?」
「いや、アスィミって戦えたの?」
「今更何を、戦えるからエドワード様の侍女に任命されたのですが?」
「今まで、戦ってるところを見たことなかったから」
「エドワード様の周りって強い人ばかりだから出番がなかった……いえ、私の血が騒ぐような相手に出会わなかっただけです!」
前半で本音をほぼ言い切ってるじゃん。
「そういえば、あたしもアスィミが戦っているところはまだ見たことないわね。やってみなさい」
おばあ様が許可したので、レオンラビットはアスィミが相手をすることになった。
「糸で拘束しようか?」
「必要ありません。エドワード様に銀狼族の強さをお見せしましょう」
そう言って、珍しくアスィミがやる気を見せるのだった。
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ダンジョン1、2階マップです。




