第28話 ガントレット?
今日はレギンさんの鍛冶屋へ向かう。店に入るとレギンさんが座っていた。
「レギンさん、おはようございます」
「なんじゃ小僧か、こんな朝早くにどうした?」
「作って欲しいものがあって相談しにきたんですが」
僕がそう言うと、レギンさんはニヤニヤとしながら。
「町の英雄様は何を作って欲しいんじゃ?」
ん? 今、不穏なワードが混じっていたぞ。
「英雄って何のことですか?」
「なんじゃ違うのか? 冒険者ギルドも原因を突き止められなかった失踪事件を、商人ギルドの新人が解決したって話題になっとるぞ」
「確かにジャイアントスパイダーは倒しましたが、なんでそんな大きな話に……」
「商人ギルドと冒険者ギルドは仲が悪かったからな。大方商人ギルドのアピールに使われたんだろ。冒険者ギルドマスターが捕まっただけでなく、町長まで捕まったそうじゃ。なんでも賄賂の他にも色々悪さをしていたようで、前からマークされとったらしい。小僧が商人になってから何かと騒がしいのぅ」
「それって、僕のせいなんですか?」
「まぁ、おもしろいからいいじゃろ。ところで何を作って欲しいんだ?」
危うく用事を忘れるところだった。
「グローブかガントレットみたいな感じなんですが、糸を格納できる場所を付けて欲しいんです!」
「糸なんか格納してどうするんだ?」
僕はジャイアントスパイダーの糸を取り出す。
「これを見てもらえますか?」
「小僧が倒したジャイアントスパイダーの糸じゃな」
レギンさんは、ひと目見ただけでジャイアントスパイダーの糸って分かるんだな。
取りあえず、糸を能力で動かして見せる。
「ほう、それが小僧の能力か。なかなかおもしろい能力じゃな」
「はい、糸を自由に動かせるんですけど、丈夫な糸が手に入ったので戦闘に利用できないかと思いまして」
商人ギルドで大量に糸を解いて大発見があったのだ。糸を作り出すには魔力を消費するのだが、すでに存在している糸を動かすのは魔力を消費しないのである。
決してクモのアメコミヒーローに触発されたわけじゃないとだけ言っておこう。
「なるほど、手に仕込んでおけば色々と使えそうじゃな……」
「そうなんです! できれば何種類か格納できるようにしたいのとブーツにも同じようにできないかと思いまして」
「なかなかおもしろそうだから作ってやろう。コバルトツリーリザードの皮がまだ少し余っとったからそれで作ろう、金貨5枚でどうじゃ?」
「それで大丈夫です、お願いします。あと質問なんですが鉄鉱石とか鉄って売ってもらえたりしますか?」
レギンさんは少し考えると。
「……何に……小僧のスキルか?」
「知ってるんですか⁉」
「いや、ただの勘じゃ。小僧、分かりやすすぎじゃ少しは隠す努力をせい」
「すみません」
「ただ糸を操るだけの能力じゃないってことじゃな……もしかして作り出せるのか?」
「そこまで分かるんですか?」
「長いこと生きておるからな、近いかは分からんが鉄などを取り込める能力を見たことがあるってのが決め手なのじゃが」
「本当ですか⁉ ぜひ話をしてみたいのですがその人は今どこにいます?」
「……死んだよ自分の能力に嘆いてな……何の因果か小僧に売った剣の素材がアイツの作った最後の素材じゃ……」
「そんな……どうして……」
レギンさんは遠くを見つめて話し出す。
「そうじゃな……好きな素材を作り出せる能力。鍛冶職人からすれば夢のような能力なんじゃが、儂らドワーフは力が強いけど魔力は少ない。じゃが素材を作るには魔力が必要。この矛盾にアイツは苦しみ自ら命を絶った。ミスリルを超える素材を求めておったようじゃが、アイツの苦しみは儂には分からん。小僧、能力は人の全てではない。能力なんぞ使わずに生きている人は山のようにおる、特殊な能力の持ち主ほど悩みが多い上に迫害されやすいから気をつけるのじゃぞ」
「ご忠告ありがとうございます。能力頼りにならないように気をつけます」
「ふむ、ちょっと付いてこい」
そう言うとレギンさんは地下に向かうので僕もついていく。
地下3階の鍛冶場に着く。そこには熱を放っている高炉らしきものや金床などが置いてある。
「ちょっとそこに座っておれ」
指さした先には背もたれのない丸椅子があったので、取りあえず座って待つことにした。
しばらくするとレギンさんは鋼材を抱えて戻ってくる。
「ほれ色々持ってきたから試してみるがいい」
鉄鉱石らしきものを手に持って集中してみる。
『鉄を確認。解析しますか?』
目の前に透明な画面が現れる。
【鉱物】鉄
解析しますか? ・はい ・いいえ
<はい>と念じる。
【素材】鉱物、鉄(解析中)
【登録数】1/100
【解析予測時間】48時間(登録数によって変わります)
解析と同時に鉄鉱石の鉄だけがなくなり、その他の物質が床に落ちた。
「解析中になりました。おそらく、取り込んだ鉄以外の物質は除かれるみたいですね」
「ほう、アイツのは取り込んだ金属から新たな金属を作り出す能力じゃった。取り込む金属の品質に左右されていたから、取り込む段階で不純物が除去されるのは素晴らしいな」
「へーそうなんですね」
「待て、つまり小僧が出す鉄の糸は不純物がないということか!?」
「そうなるんですかね?」
「ちょっとその糸を出してみろ」
「まだ解析中なんで出せないんです。登録するには量が足りないみたいです」
「なんじゃと! ならばこれを登録するがいい」
そう言うとレギンさんは鉄のインゴットを渡してきたので、早速登録してみる。
登録する際に、インゴットからも、不純物と思われるものが床に落ちた。
【能力】糸(Lv2)
【登録】麻、綿、毛、絹、鉄、ジャイアントスパイダー
【形状】糸、縄、ロープ、布(平織り、綾織り、繻子織り)
【作成可能色】黒、紫、藍、青、赤、桃、橙、茶、黄、緑
【解析中】無
しっかり登録が完了した。鉱物の登録はインゴットで十分なようだ。
「登録できたので出してみますね」
直径2ミリぐらいの針金を1メートルぐらいイメージして出してみると、イメージ通り鉄の糸が出てきた。
出てきた鉄の糸をレギンさんが手に取り調べている。
「見たこともないような高品質の鉄じゃな。小僧、この鉄はどこまで太くできる?」
「太くですか? 鉱物自体が初めてなので分かりませんが、魔力を消費するので短めで試してみますね」
まずは直径1センチを30センチぐらい出してみるが問題なく出てくる。直径1センチになると糸とは呼べないような気もするが考えないことにした。
次は直径5センチで出してみる。もはや鈍器である。
直径10センチで出してみる。元のインゴットよりも大きい……これを上空から落とすだけで凶器になるな……。
さらに太いのを作り出そうしたところでストップがかかった。
「小僧、待て!今ので十分じゃ」
「えっ? まだいけそうですよ?」
「それ以上太くなると、使いにくくなるじゃろが」
「使いにくいって何がですが? あっ、鍛治に使うんですね」
「その通りじゃ。これだけの高品質の鉄を使わん選択はないじゃろ? 次にこれを登録してみるがいい」
差し出された銅、銀、金を登録した。登録に使った素材は糸(棒)にして返却したら、最高品質になったと大喜びのレギンさん。
気をよくしたレギンさんは、僕を材料庫まで連れて行き、鉄のインゴットをもっと登録してみろと言う。
なんでも登録を増やすと消費する魔力を減らせる可能性があるとのこと。
検証してみて分かったのが。
・多く登録すると消費魔力が減る。(能力で出したものは登録に含まれない)
・希少度が増すと消費魔力が増える。(希少度ではなく重量かもしれない)
「レギンさんの言った通りでした、ありがとうございます!」
「うむ、似た能力の持ち主の手助けになったというだけで、アイツも浮かばれるわい」
「それにしても、鉄の糸を細くすると思ったより強度がでないんですね」
「鍛えたわけじゃなく、素材をただ細くしただけじゃからな」
「イメージでなんとかできればいいんだけど、炭を取り込んだら鋼とかにならないかな……」
「……小僧今、何と言った?」
「イメージでなんとかするってやつ?」
「違う! その後じゃ!」
「炭を取り込むってやつですか?」
「そう! それじゃ!」
「それがどうかしましたか?」
「なんで鉄に炭を混ぜるのじゃ?」
「えっ? もしかして鉄に炭を混ぜて鋼を作るのって常識じゃないの?」
どうやら、やらかしたらしい。
「そういえば、魔の森を抜けた遥か西に、片刃で細く薄いカタナという武器を作る国があると聞いたことがあるが、その技法か?」
どうやらこの世界にも刀があるらしい。
「多分そうじゃないでしょうか? 何かの本で見たことがあるだけで詳しくは知らないですけど、小さな鉄を叩いて作るらしいですよ。その過程の再度熱する時に木炭で加熱しているのが強さの要因だとか」
「なんじゃ詳しく知っておるじゃないか。ほれっ」
「炭じゃないですか」
「物は試しじゃ登録してみろ」
結果、登録できました。そして検証の結果、鉄と炭素を一緒に登録することで鋼が作れちゃいました。
ステータスの表示が少し変化して。
【能力】糸(Lv3)
【登録1】麻、綿、毛、絹、鉄、鋼、銅、銀、金、ジャイアントスパイダー
【登録2】炭素
【形状】糸、縄、ロープ、布(平織り、綾織り、繻子織り)
【作成可能色】黒、紫、藍、青、赤、桃、橙、茶、黄、緑、銅、銀、金
【解析中】無
炭は表示が「炭素」となり、金、銀、銅は作れる色にも反映されました。さらに、レベルが3にアップし、魔物素材の登録が可能となったのだった。




