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第270話 ニルヴァ王国へ向けて※

 ローダウェイクを出発し、ニルヴァ王国へ向けて雪の上を爆走中である。


 ロイヤルカリブーが引く馬車のようなソリに乗っているのだが、12人が余裕で乗れる広さなのでとても大きい。


 そんな大きなソリを軽々引いて、雪の上をまるで船のように進んでいるのだ。


 最初の目的地であるファーレンへ向かう。当初ファーレンには止まらずに、ニルヴァ王国最初の街アルビータまで行く予定だったのだが、雪の上をフワフワ走るソリに酔ってしまい、今はメグ姉に膝枕してもらい横になっている。


「そういえばエドワードは船も苦手だったね。どうやらこの波のように揺れる感覚が苦手なようだね?」


「おばあ様、申し訳ありません」


「誰だって苦手なものはあるから、気にすることはないわ、そのうち慣れるわよ」


「そうだと良いのですが」


 それにしても、前回船で散々だったことから、毒を浄化して、めまいと嘔吐の耐性を手に入れたのにこの有様は情けない。


 しかし、気持ち悪いだけでまだ吐いてはいない。もしかしたら耐性が効いている可能性も残っているが。おそらくこの耐性というのは、めまいや嘔吐に対する耐性がつくわけではなく、めまいや嘔吐を引き起こす()に対しての耐性なんだろう。冷静に考えれば分かりそうなものだけど、船酔いを治したかったせいかすっかり考えから抜け落ちていたようだ。


 しかし純粋な毒に対する耐性がつくことを考えると、一通りの毒耐性は手に入れておいても問題ないのかもしれない。今度検証してみなければならないな。


 ぼんやり考え事をしていると、声が聞こえる。


「師匠、膝枕に疲れたら交代しますよ」


「いえ、リーダーのお手を煩わせ、いや太ももを煩わせる必要はありません。(わたくし)が代わりましょう」


「ヴィオラの言うことも一理ありますね。そういうことでしたら、この中で一番年下の(わたくし)が代わるべきだと思います」


「太ももなんかより、私の胸を枕にした方が、エディ様の気分も楽になると思わなぃ?」


 アザリエ、ヴィオラ、リーリエ、シプレの順でメグ姉に交渉しているみたいなのだが、最後のシプレはどうやって枕にするのか少し気になるな。


「ありがとう。でもエディの膝枕は疲れないから大丈夫よ」


 子供とはいえ、頭の重さはそこそこあるから、足が痺れてもおかしくはないと思う。孤児院にいた頃はメグ姉が基準だったので全く気にしてなかったが、地球の記憶が混ざってからは、メグ姉の根拠のない言動は所々おかしい。特にお姉ちゃん理論については全くの意味不明だ。


 それでも、メグ姉が僕の頭を優しく撫でると、小さな頃からこれでよく眠っていたせいか段々と眠気が襲ってきて、意識が遠のいていくのだった。




 ◆


「……」


 誰かが僕を呼んでいる声が聞こえる。


「エディ、着いたわよ」


 メグ姉の声だ、着いたってどこに……!


「いつの間にか寝ちゃったみたいだ」


「ふふっ、いつも通り可愛い寝顔だったわよ」


 メグ姉の言葉にみんなが頷いているというか、グレースおばあ様まで頷かないで欲しい。


「ここってファーレンなの?」


 ソリは町の中を移動しているのだが、雪に埋まっているせいか、以前来た時に見た景色とぜんぜん違うのだ。


「エドワードは初めてだったわね。冬のファーレンは雪が積もりすぎて2階から出入りするのよ。だから町並みが前に見たときと、全然違うように見えるんじゃないかしら」


 そういえば地球でも豪雪地帯では2階に玄関扉があると聞いたことがある。


「へー、そうなんですね! 道理で屋敷の形が違って見えるわけです。ローダウェイクと違って雪かきはしないんですね」


「ファーレンにはローダウェイクみたいに川へ捨てることができないからね。ローダウェイクの町中を流れる川は、プレジール湖の水が流れているから水温が一年を通して一定で、雪を溶かすのにちょうどいいのよ。それ以前に降る雪の量もファーレンはローダウェイクより遥かに多いから、雪かきをしてもきりがないわ」


 ローダウェイクから少し北へ移動しただけでかなり違うんだな。


「ニルヴァ王国はもっと凄いのかな?」


 アザリエに尋ねてみた。


「そうですね、雪の量はここファーレンと同じぐらいですが、寒さは格段にニルヴァ王国の方が上でしょうか」


「そうなんだね。雪自体が初めてだから、全然想像つかないや」



 話をしていると、屋敷へ到着したので降りる。するとロイヤルカリブーが近寄ってきて頭を下げた。


「ここまで、お疲れさま。重いソリを軽々引っ張ってすごいんだね?」


 頭を撫でてあげると、とても喜んでいるように見える。


「ロイヤルカリブーが、ここまで懐くのも珍しいわね」


 グレースおばあ様が呟くと、御者の人も頷く。


「そうなんですか? ローダウェイクで最初に会った時もこんな感じでしたよ」


「エドワードを容姿で王族だと判断しているのか、他に何か感じるものがあるのかは分からないけれど、とても興味深い話ね」


「エディ様、体が冷えますので中に入りましょう」


 アザリエに促されて屋敷へ入った。


 

 ◆


 屋敷の中へ入るが、当初ファーレンによるつもりがなかったため、夕食の準備に時間がかかるということで、取りあえず体を温めるために風呂へ入ることになった。


 ちなみに、グレースおばあ様は既にローダウェイクで風呂に入っているため、当然のように入って来ている。


「それにしても、ローダウェイクの風呂も凄く広くて綺麗な造りでしたが、ファーレンの風呂もかなり凝っているのですね」


「風呂はおばあ様がニルヴァ王国を真似て作ったと聞いていますが?」


「そうよ、ハリーとソフィアの結婚の時、ニルヴァ王国を訪問した際に体験したのよ。最初はそれを真似て作ったのだけど、今あるのはエドワードのアイディアを取り入れて改良したものよ」


「エドワードがこの風呂のアイディアをですか?」


 グレースおばあ様が不思議そうに尋ねる。


「グレースが体験した体を洗う魔法もそうだけど、エドワードの頭の中はあらゆるアイディアに溢れているのよ」


「エドワードは凄いのね。ヴァイス様まで風呂に入るのは驚きですが」


「ヴァイス様が凄いのは当然です!」


 アスィミは仁王立ちになって自慢しているが、ヴァイスの何が凄いのか全く伝わらない。


 グレースおばあ様までヴァイスに「様」を付けているが、ヴァイスから何か神聖なものでも溢れているのだろうか?


 僕にも見えないかと思って、ヴァイスをジッと見てみる。


(ワレ)を見てどうしたのだ?』


「ヴァイスから何か神聖なものでも出ているのかなって」


『フム、ついにエディも(ワレ)の神々しさに気がついたのか?』


 今は濡れているが、ふわふわの毛並み、青色のくりくりの瞳、小さな鼻と耳……やっぱり可愛さしか感じられないな。


「ごめん、可愛いけど神々しくはないかな」


 バシャン! ヴァイスはズルっと滑って湯船に落ちた。タイミングバッチリでお笑いのセンスは、相変わらず光っているなと思ったのだった。



 ――――――――

ニルヴァ王国のマップです。

挿絵(By みてみん)


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